小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

WishⅡ  ~ 高校2年生 ~

INDEX|34ページ/49ページ|

次のページ前のページ
 

「ライブの合間にチアリーディング部のパフォーマンスがあんのよ」
「チア……?」
「木綿花ちゃん、チアリーディング部やねん。しかも、主力メンバー!」
「ホント!? 凄いね」
 奏は本場・アメリカのチアを知っていたりする。
「それを見る為のキープ! 去年は、最後の桜がキレかった!」
「本場のに比べたら、まだまだかも知んないけどさ」
「そんな事ないよ。自分の知ってる人が出てるだけで、十分楽しみ!」
 航と慎太郎が奏に去年のパフォーマンスを語りながら、三人はステージのあるグランドへと歩き出した。
  

「……一番前って……」
 三十分前だというのに、組み上がったばかりのステージの前に並べられたパイプ椅子は満席だった。
「去年はめっちゃ空(あ)いてたのに……?」
 当てを失くして航が頭を掻く。
「なんかあるのか?」
 朝、藤森先生から受け取ったライブのプログラムをパラパラめくる慎太郎。
「これじゃ見えないよね」
 その横で奏が残念そうに爪先立ちでステージを見た。
「仕方ねーな……。この辺で見るか?」
 慎太郎はそう言うが、ここでは“見る”というよりは“聴く”しか出来ない。ライブはそれでもいいとして、チアは見たい! ……というのが本音だ。
「あ!」
 キョロキョロと辺りを見回していた航が、校舎を指差した。
「シンタロ! 奏! あそこ!!」
 航の指の先には、校舎と体育館を二階部分で繋ぐ渡り廊下。
「ちょっと遠いけど、あそこやったら見えるんちゃう?」
 少し遠いが、ステージの真正面だ。今は誰もいないが、絶好の場所だから、ライブが始まったら人でいっぱいになってしまうかもしれない。
「行くか?」
 ライブのスタンバイは、自分達の前のグループが演奏している間に下りてくればなんとかなるだろうし……。
「確かに、ベストポジションかもしれない……」
 今来たグランドをUターン。
 三人は二階の渡り廊下へと急いだ。
  ――――――――――――
 三人がベストポジションへと到着した直後から、そこへも人が集まり始めた。
「去年もこんなんやったっけ?」
 ステージの真正面のガラス張りの渡り廊下。勿論、ステージからも良く見える筈だ。
「去年なんて、パイプ椅子の客席見てるだけでいっぱいいっぱいで、こんなとこまで見えてねーよ」
 慎太郎の言葉に、
「俺、自分にいっぱいいっぱいやった……」
 航が笑った。
「なんだか、独特の雰囲気だよね」
 窓から観客席を見下ろしていた奏が、そっと辺りを見回して溜息をつく。
 リサイタルの大人な観客ともストリートでの温かい観客とも違う、女子校独特の熱気のこもった観客層。初体験の奏はなんだか落ち着かない様子だ。
「かぼちゃやと思えば、案外ドキドキせぇへんから」
 女子に囲まれた状態で周りに聞こえないように、超小声で航が囁く。
「ちょっと俺等寄りにキーボードの向き変えちゃえばいいじゃん」
 始まった軽音部の演奏のリズムを取りながら、慎太郎が微笑む。多少の緊張なら演奏の方はなんの問題も無い。ただ、歌の方が……。歌う事は本業ではない奏は、緊張するとあからさまに発声に影響が出てしまうのである。
「ダメだと思ったら、出来そうなのと曲の入れ替えしちゃうから……」
 だから、何も気にするな。と、慎太郎が奏の頭をクシャクシャと撫でる。
「いつもと同じやん」
「うん。……ごめん……」
 慎太郎の大きな手のひらの下で、奏が頷いた。
「“ごめん”って言うなよ」
「そーそー! どうせ言うんやったら、“ありがとう”!」
「……うん。……ありがと……」
 顔を上げた奏を見て、慎太郎がステージに視線を戻す。
「お! 始まるみたいだぞ!」
 顎で指すグランド。ステージの前半分がガタガタと片付けられ、スペースが確保された。
 と、同時に、
『桜林! GO!!』
 凛とした掛け声が響き、淡いグレーに桜色のユニフォームを着用したメンバーが姿を現した。
「今年は髪型もお揃い?」
 ショートとロングの違いは多少あるが、みんな左上を桜色のミニポンポンのついたゴムで止めている。
「木綿花ちゃん、可愛いなぁ……」
 本人から遠く離れているのをいい事に、航が目を細めて呟いた。
「去年、チアの大会で優勝したんだよね?」
 母からなんとなく聞いていた事を思い出した奏が二人を見る。
「うん!」
 それに答えたのは、満面の笑みを浮かべた航だった。その様子に奏がクスリと笑う。
「なんや?」
「いや。航くん、ほんとに伊倉さんの事が好きなんだなって」
「なっ……!」
 途端に顔中を赤くする航。が、
「……うん……」
 頬を染めたまま、ガラスの向こうのパフォーマンスに顔を向ける。
 いつどうなるか分からない自分に想いを告げる資格などないと……、遠くで踊るチアに小さく溜息。すると、その隣で、
「……だよね……」
 つられたように奏も溜息をついた。
 例え誰かを好きになっても、限られた時間の中での告白は相手を苦しめるだけだと分かっているから……。
「……奏?」
「何?」
「奏、も……木綿花ちゃん……?」
 同意するような溜息に、航が恐る恐る声を出す。
「ち、違うよ! そういう意味じゃなくてさ!」
 奏が慌てて否定する。
「……お前等……いい加減にしろよ」
 “聞いてて恥かしいわ!”と慎太郎がコン! コン! と二人の頭を立て続けに小突いた。
「ほら! 終わっちまうぞ!」
 そう言った慎太郎の指の先には、ポンポンで彩られた桜の木。
 二分三十秒のチアダンスが終わった。
 片付けられていたステージが慌しくセットされ、ライブの後半が始まる。
「あれ? 奏。藤森先生は?」
 去年、チアの後は藤森母の演奏だった。てっきり去年と同じだと思っていた航が首を傾げる。
「今年は出ないみたいだよ」
 “ね、慎太郎”と奏がライブプログラムを見ている慎太郎に確認を取る。
「……だな。名前がねーや」
 言いながら、航の方にプログラムをずらした。
「なんかね。親子で出るのは気が引けるって言ってた」
「あぁ……」
「それで……」
 ステージ上ではゴスロリの格好をした少女達が演奏を始めた所。女子とは思えない迫力の演奏をバックにボーカルの可愛い声がアンマッチに響いていた。
  ――――――――――――
 数十分後。
『最後の一組の演奏時間ですが、演奏者が……』
 校内に、ライブの最終演奏者不在の放送が響く中、人ごみを押し退けて走る三人の姿があった。
「待って! 待って! 今、行くから!!」
 よく通る声の航を先頭に、奏の身体を抱え込むように慎太郎が続く。
 のんびりとヴィジュアル系ロックやら、アキバ系のアイドルもどきやらの演奏を見ていた三人。アカペラ五人組みの歌を聴いていた慎太郎が、ふと気付いた。
「ちょっ! 次、俺等じゃね!?」
 驚きつつ、航と奏がプログラムを覗き込む。
「ほんとだ……」
 ステージへ向かうべくクルリと向きを変えて、
「な、なんや、この人数!?」
 航が廊下いっぱいに詰まっている人ごみに思わず声を上げた。
「すみません! 通して下さい!」
 グズグズしている暇は無い!
 慎太郎がその波を掻き分けて走り出し、その後を奏と航が追う。