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WishⅡ  ~ 高校2年生 ~

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「一番前のど真ん中でな……」
 待っていたのはとんでもない“サプライズ”だった。
「とりあえず、そんな感じで見て……?」
 航が慎太郎に視線を移す。
「だな。……で、自分達の時にステージ上がって、終わったらまた席に戻って見る……って感じ?」
 そして、三人で頷き合う。と、
「あら!」
 助手席から藤森母が振り返った。
「戻らなくていいわよ。そのまま片付けになっちゃうんだから」
「はい?」
「それって……」
「僕らが最後って事?」
 何度も顔を見合わせる三人に、藤森母が笑う。
「あれだけの署名が集まったんですもの。当たり前でしょ?」
 各クラスの半数以上の署名が集められたのだ。そんなグループの後なんて、誰も演奏したくはないだろう。
「うっわぁ……。プレッシャーやぁ……」
 瞬く間に航のテンションが下がっていく。
「去年もラストだったじゃん」
 航の頭をクシャと掴んで慎太郎が言う。
「あれは、たまたまやん!」
「でも、急だったろ?」
 ライブの最終演奏者になってしまったのは急な事だったが、それ以上に、航にとって“ライブ”自体が急な出来事だった。だから、然程気にならなかったのだ。
「順番があっても、場所が変わっても、やる事に変わりはねーよ」
 航と奏を交互に見て笑う慎太郎。
「……そーやな……」
 膝の上で握り締めていた手を緩め、航が顔を上げた。
「どこでやっても、三人に変わりないよね」
 航の横で奏が頷く。
 それと同時に、車が桜林女子の門をくぐった。

  
 藤森母に連れられて、三人揃って職員室の扉をくぐる。職員室の中には四・五人の教諭がいるだけで静かだった。他の教諭は、自分の担当の催し物の確認に出ているらしい。
「ここに名前を書いてね」
 参加名簿に名前を書くのと引き換えに参加証を受け取る。家族参加の去年は失くしてしまいそうな一枚の参加証だったのだが、招待参加の参加証は首から掛ける仕様になっていた。
 桜林祭の開始時間には少々早く、藤森母と時間まで雑談して、開始時間のチャイムが鳴ると同時に、各々、参加証を首から掛けて職員室を出た。
「おはよ!」
 とそこに木綿花の姿。
「自分のクラスはいいのか?」
「今日は十一時から入る事になってるから大丈夫よ」
 と言いつつ、小さな手書きのチケットを三人に手渡す。
「何?」
 航が裏表をひっくり返しながら見て首を傾げた。
「“ケーキセット”?」
「そっ! うちのクラス、喫茶店なの。後で来てね」
「このチケットは?」
 渡されたチケットに奏も首を傾げる。
「ご招待券」
 微笑んだ木綿花が、
「“弟”と“従兄弟”を連れて来いって、うるさいのよ、みんな」
 たいした人気よねぇ……とクスクス笑う。
「それと、藤森先生自慢の息子も、ね」
「自慢……って?」
 奏がキョトンと木綿花を見る。
「“頭が良くて、優しくて、イケメン”って……」
「え?」
「ずーっと言ってるから、みんな“本当かな?”って」
「もうっ!!」
 奏が怒るが、“その通りだと思うわよ”と木綿花に言われて、ちょっぴり赤面。
「……ったく……」
 拗ねる奏を見て木綿花が笑う。慎太郎の母・香澄も口癖のように慎太郎を“いい男よねぇ”と褒め称えるのだ。どこの母親も息子に関しては同じらしい。
「ま、なんやかんやゆーても、一番イケメンなんは、俺やけどな!」
 航が奏の隣で胸を張る。
「はいはい……」
「そーよねー……」
「イケてる。イケてる」
「なんやねん! その、中途半端な突っ込みは!?」
 四人で笑いながら学食の前を通り過ぎると、集まり始めた参加者のざわめきが聞こえてくる。ここで木綿花は友人達の所へと戻って行った。ここは木綿花の通っている学校。いつまでも男子三人にくっついている訳にはいかないのだ。
 校舎を抜けると、グランドの両脇に可愛い飾り付けを施された露店が並び、受付を済ませた人が徐々に集まり始めていた。祭り騒ぎの始まりに、自然と胸が高鳴る。
「今年も最初はたこ焼きから?」
 慎太郎が木綿花から受け取った桜林祭のパンフレットを広げて、“たこ焼き”の文字を指し示した。
 手前から、たこ焼き→焼きそば→ホットドッグ→わたあめ。グランドを挟んで向かい側の奥から、ジュース→フランクフルト・とうもろこし→お好み焼き→焼きうどん。パンフレットの見取図と照し合わせつつ、グランドの店舗を確認する。
「それと、料理部のマドレーヌとクッキー♪ 学食のラーメン♪」
「歌わんでいい!」
 笑いながら突っ込む慎太郎の手元を覗き込んで、
「……そんなに食べるの?」
 出て来た食べ物の数を指折りしつつ奏が呆れる。
「間に甘い物を挟みつつ、締めはラーメン!」
「食べる順番じゃなくてさ」
 航の妙に誇らし気な態度に、奏も思わず笑いが漏れる。
「たこ焼き、三皿!!」
 誰よりも早く並んだ航がサッサと注文し、くいだおれツアーが始まった。

  
「もう、食えませんって感じ?」
 学食でラーメンをすすりながら、航である。
「去年も言ってたぞ」
「そーやっけ?」
 二人がラーメンをすする横で、奏が大きく溜息をつく。
「流石に、最後のケーキセットは……キツかったな……」
 付き合いで回っていた露店の物はスルー出来ても、木綿花ご招待のケーキセットをスルーする訳にはいかず……。
「焼きうどん……やめておけば良かった……」
 食堂のお茶を飲みながら、奏がまた溜息をついた。
「ノリで食っちまうんだよな、こーゆーイベントって」
 “ノリ”と言いつつも、しっかりラーメンを食べている二人に奏が苦笑う。
「でも、ケーキ、美味かったで」
 木綿花のクラスで出されたのはチョコレートシフォン。料理部でもないのに、なかなかの出来だった。
「うちの学校もこんな感じなの?」
 自校の文化祭は二週間後。初参加の奏が辺りを見回しながら問う。
「賑やかだけど、ここまで“華”はないな」
「女子校と共学の違いやなぁ」
 “ごちそうさまでした!”と航が両手を合わせた。
「ライブとかは?」
 軽音部もフォークソング部もある【若葉中央高校】。ない筈がないと奏は考えたのだ。
「あるよ」
 “ごちそうさま!”と今度は慎太郎が両手を合わせる。
「でも、部に所属してないのに出るってのが……」
 部活に所属していないと出られない訳ではないのだが、無所属で出場するメンバーはロックバンドだったりするから、ちょっと出辛い……。それに……。
「ストラやってるのって、あんまり知られたくないし……」
「知ってる顔が見に来ると、なんか、イヤやん?」
 要するに、恥かしいのだ。度胸があるんだか無いんだか……。そんな二人を見て、奏がクスリと笑った。
「何時?」
 航が笑っている奏の腕時計を覗き込む。
「十二時半……」
「行くか?」
 手元の水を慎太郎が一気に飲み切るのを見て、
「もう?」
 奏も慌ててお茶を飲み干す。午後から始まるライブの開始時間は一時。まだ三十分もある。
「一番前のど真ん中、キープすんねん!」
 “言うたやん!”と航。
「それは聞いたけど……」
 でも、何の為のキープなのかは聞いていない。
「そーやっけ?」
 航が慎太郎の顔を見る。