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WishⅡ  ~ 高校2年生 ~

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「慎太郎くんの初作曲だし、奏の編曲だし、私も少〜しだけ手を貸してるから、音楽プロデューサーの視線からも意見が聞きたいじゃない?」
「えぇ!?」
「プロの目からなんて、とんでもない!!」
 たちまち萎縮する航&慎太郎。
「あら。奏だってプロよ」
 母とリサイタルをやっていたのだ。確かに“プロ”である。
「覚悟、決めるか」
 慎太郎が溜息混じりに呟いた。ここは、藤森宅。抗っても仕方ないと思ったのだ。
「トチったら、堪忍な!」
 口の中の菓子を飲み込んで、カップの紅茶を一気飲みした航がピアノの隣に椅子ごと移動。慎太郎がその左隣に自分の椅子をセットする。
 首からブルースハープを掛け、軽くギターを弾き、既にピアノ前にいる奏とアイコンタクト。
 三人の演奏が始まった。

  
「……てか、女子校やん、桜林って」
「そうなんだよねー……」
 “秋桜の丘”と“銀杏並木”の演奏を聴き終わると同時に藤森父はリビングから姿を消した。「仕事がある」と言うのだ。余りの無反応に不安に陥る航と慎太郎だったが、藤森母曰く。満足した時は何も言わない人だから、かなりの確率で気に入ったようだ……という事であった。
 そして、三人は早速三週間後の桜林祭に向けて新曲作成に取り掛かっている。折角の女子校からのご招待。期待に応えたい。
「“女子校”から」
「“男・三人”が」
「“ご招待”……な訳だから……」
 ここは、やっぱり……。
「ラブソング?」
「……だよな」
「……だよね」
 あまり“そっち方面”には縁のない男子が三人、二階の奏の部屋で思案中である。
「…………」
「…………」
「…………」
 長い沈黙の後、
「アッカ―――ンッ!!」
 航が一番に根を上げた。
「歌詞も何も思い浮かばへんっ!!」
「あははは……」
「僕もだ……」
 どうにも手の打ち様がない。と、
「イメージがあればなんとかなる……かな?」
 奏がポータブルの小さな鍵盤を取り出した。
「以前、なんとなく浮かんだフレーズなんだけど……」
 言いながら、今度は机のノートの間から数枚の譜面を抜き出す。
「二つあるんだ……。こっちが……」
 と上になっている方を航達に示し、そのまま軽く弾き始める。
 静かな“秋”らしい曲がそのしなやかな指先から零れ落ちる。
「……で、これが……」
 さっきの曲に似てはいるが、こちらは少しもの哀しい旋律だ。
「どっちも少ししか曲になってないけど、イメージ的にはこんな感じかな?」
 演奏を終えた奏が二人の顔を見る。
「……んー……」
 航が取り出したペンで頭を掻きつつ、ノート片手に立ち上がった。そのまま、部屋の隅にあるウォークインクローゼットへと向かう。スライド式の扉を開けると右手に以前奏が着用していたステージ用のスーツが並んでいる。左手には小物が箱に詰められ、本なども並んでいたりする。扉を少し開けたままにして、衣装に背を向け、小箱の小山を机代わりに航がノートを広げた。誰かに見られていると集中出来ない航。クローゼット兼物置になっているこの扉付きのスペースは、藤森宅で考え事をする時の航専用の場所となっているのだ。そんな航の様子を見て、奏もノートを広げる。ようやく作業に取り掛かった二人を見て、慎太郎が大きく伸びをした。
  ――――――――――――
 三十分程経った頃、クローゼットの扉が開いて航がしかめっ面で姿を現した。それと同時に奏もペンを置いて溜息をつく。慎太郎は、さっき奏が弾いていた譜面とにらめっこしたままだ。
「……これ、限界……」
 数行しかない詞を放り出すようにノートを置く。
「僕も……」
 奏も同じく数行である。
「経験不足だよね……」
 奏の言葉に航が頷く。
「“恋愛”はなー……」
「“経験”が必要なら、石田でも呼ぶか?」
 二人のノートを見ながら慎太郎が呟いた。
「それは……」
「どーやろ……」
 しかめっ面の二人が苦笑い。
「……ハメようと思えば、ハマらなくもない……か……」
 慎太郎が二人の詞を見ながら、メロディーをハミングする。にらめっこしていた譜面の旋律である。航と奏に挟まれて曲作りの作業をしている内に、自然に譜面が読めるようになったのだ。それに加えて、気付いた事。慎太郎は自分自身での作詞・作曲はムリなのだが、二人の作った物をどうにかする事に関しては抜群の感性を発揮した。
「これが、こっち」
 奏の詞を“静かな秋らしい曲”の譜面と合わせ、
「これが、こっち」
 航の詞を“もの哀しい曲”の譜面と合わせて二人に見せる。
「それやったら、二曲になるやん?」
「それなんだけどさ……」
 一旦置いた二つの譜面と歌詞を手に取り、慎太郎が“いいか?”と二人を見て、
  
  ♪ その笑顔 失いたくなくて
  
 一つのフレーズを口ずさむ。
  
  ♪ 心に ベールをかける
  
 それにもう一つのメロディーを続けた。
「二曲で一曲?」
 航の言葉に慎太郎が頷く。
「曲調が似てるから、アリかなって……」
「アリやな」
「アリだね」
「音の合わない所は直せばいいし、出来た所から前後に広げていけばいいんじゃん?」
「シンタロ!」
「天才!!」
 二人のキラキラの瞳を前に、
「バカ言ってんじゃねーよ!」
 慎太郎が笑った。
  

 各々が自宅で思案した物を翌日学校で照らし合わせる、という作業が続き、ようやく形になったのは丁度一週間後だった。実際に演奏しながら納得のいかない箇所を直してなんとか間に合った。
 そう。今日は、桜林祭当日。なんと、藤森父が桜林高校まで車で送ってくれるというから待ち合わせは藤森宅である。一旦は断ったのだが、招待客は正面受付からではなく直接職員室へ行って桜林祭担当教諭から入場許可証を受け取るという制度になっているらしく、
「でね。去年も今年も、担当は私なのよ」
 と言う藤森母と一緒に登校する事となったのだ。
「朝食は食べてきた?」
 朝早くの集合になってしまって、藤森母が二人の体調を気遣う。
「いえ。今日は朝食抜きで」
「“桜林祭くいだおれツアーPart.2”するんです!」
 意気揚々と声を上げた航の脇を奏が突付いた。
「……何、それ?」
「食い物の出店を全部回って食うの♪」
 “美味いでぇ”との航の言葉に、
「ぜ、全部!?」
 華奢な身体の航を指差して奏が驚く。
「去年制覇したから、今年もやるんだとさ」
 “ムリに付き合わなくていいぞ”と慎太郎が笑いながら奏の肩を叩いた。
「慎太郎も……制覇したの?」
 勿論! と頷く慎太郎。
「女子校だから、一皿の盛りが少ねーのよ。だから、思ったより楽勝!」
「……僕も……付き合おうかな……」
「え!?」
 丁度信号待ちになった車内で、奏の両親が驚いた。
「ムリに食べるんじゃなくて、食べられる程度でだよ。だって、ライブまで結構時間あるんでしょ? ママの時間に合わせて桜林祭に行って、ライブが始まるまで職員室って訳にもいかないじゃないか」
 確かに、そうだ。
「それに、僕がいない方が仕事になるでしょ?」
 “それもそうね”と藤森母が頷く。
「“くいだおれツアー”の後は? すぐにライブ?」
「んーと……」
 去年は昼頃にツアーが終了し、昼食を取った後、ステージ前にスタンバイ。