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WishⅡ  ~ 高校2年生 ~

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「ライブで時間全部潰してしもたやん? そやから、明日から名所観光しよって」
 な、シンタロ? ……と、膨れたままの慎太郎を航が振り返る。
「とりあえず、“修学旅行コース”で見て回って、土産買って……って感じ?」
 観光は諦めていた奏の顔がみるみる輝いていく。
「うん! 行きたい! ……待ってて、両親にメールするから!」
 と、携帯を出しかけて、
「そうだ。ね、慎太郎」
 含み笑いを浮かべた奏が慎太郎の隣にチョコンと座った。
「これ、ブルースハープで吹ける?」
 そう言って、手にしていた楽譜を慎太郎に差し出す。
「また作ったのか!?」
 うんざりな顔でそれを受け取り、仕方なしにブルースハープを取り出す慎太郎。
「お前等、超・超ハイペースだぞ!!」
「英語の宿題。手伝ってあげてもいいんだけどな……」
 奏が囁く。
「是非、演奏させて下さい!」
 ブルースハープを構える慎太郎に、航と奏がクスクス笑った。小さく“ケッ!”と嘯いた慎太郎が静かに一呼吸し、五線譜を追って演奏を始める。どことなく“秋桜の丘”と雰囲気の似た曲。でも、旋律はそれほど難しいものではなく、むしろ覚えやすいメロディーだ。
 ふと、演奏中の慎太郎が首を傾げた。
 なんか、聴いたことあるような……。ないような……。
「あ!」
 サビの途中、慎太郎が声を上げた。
「奏、これ、俺が今朝……」
 その言葉に、奏と航が同時に頷く。
「やっと気ぃ付いたか」
「気付くとかじゃなくて!」
「今朝、そのメロディーで目が覚めたんだよ、僕ら」
「折角のシンタロのオリジナルやからって、奏が譜面に起こしました!」
「起こしてどーすんだよ!?」
「勿論、ライブでやるんだよ」
 ね? といいながら、航にも別の譜面を渡す。
「航くんもブルースハープ。僕は、キーボード。頑張れば、新学期には披露できる……よね?」
 今度は慎太郎ではなく、航の顔を見て言う。朝、自分で吹いていた慎太郎には何ら支障はない。問題は、ブルースハープが苦手な航の方であった。
「まだ、僕の分は書いてないんだ。航くんがどの程度出来るか……に合わせて考えようと思って……」
「あはは……」
 航の口から乾いた笑いが漏れる。
「じゃ、さっきの地理のお礼に、俺がみっちりコーチしてやるよ」
「お手柔らかにお願いします。」
「おう! 新幹線での出来事は、もう、忘れたから!!」
 意外と根に持つ慎太郎の笑みに、
「……って……。奏ぇ!」
 と、航が奏に泣きついたところで、
「航―っ!!」
 階下から祖父の声が響いた。トントンと階段を上がってくる音が聞こえ、入り口に近い奏が襖を開ける。
「三人とも、今から小学校行けるか?」
「は?」「え?」「何?」
 顔を見合わせて首を傾げる三人。
「今、猪口のボンから電話があってな」
 猪口氏は帯問屋の跡取息子である。
「なんや、お前等目当ての人が仰山来てて、“昨日の三人は出ぇへんのか?”って騒ぎになってるらしいんやわ」
「ホンマに!?」
「でな、大騒ぎになったらアカンさかい、“今日の最後に来ます”って会長さんが言うてしもたんやて。行けるか?」
 ここまで言われて、“行けません”とは言えない。というか、三人はすっかり行く気だ。
「じゃ、こっちは後で」
 奏が譜面を片付け、
「おう!」
 慎太郎がブルースハープをケースにしまい、
「待って、待って!」
 航がギターケースを抱えこみ、
「車、用意してあるさかい」
 祖父を先頭に、ドタバタと小学校へ向かうのだった。
  ――――――――――――
 小学校へ向かう道すがら、祖父の車の後部座席で三人が並んで頭を突き合わせている。
「“秋桜の丘”は外せないから……」
「“10年未来”も外したくないし……」
「“恋せよ……”は外してもえぇんちゃう?」
 昨日と同じ曲をしてもつまらないだろうと、本日のプログラムを思案中だ。
「楽しそうやなぁ」
 一番後ろの車椅子スペースから身を乗り出して、帆波が笑う。
「いつもこんなんなんか?」
 “ん?”と三人を見回す微笑みに、
「うん」「えぇ」「はい」
 三人同時に頷いた。
「姉ちゃんも楽しそうやん、地蔵盆デート」
 航が、昨日、猪口氏の隣で楽しそうに笑っていた姉の姿を思い出して言う。
「うん……」
 頷く帆波。
「……今、いっぱい楽しんどくねん……」
 その微笑みに一瞬、哀しい色が宿る。
「何?」
 航が気付くが、
「何え?」
 はぐらかされ、
「ほら、曲決めるんちゃうんか?」
 話を本筋に戻され、気の所為かと思い直す。
「……じゃ、“秋桜の丘”から始めて……」
「……で、最後に“10年未来”」
「曲数は昨日と同じ、五曲で」
 車が小学校に到着した。
  ――――――――――――
 最後の最後にやったライブは、今年の地蔵盆の成功を確信させる出来栄えだった。拍手で迎えられ、拍手で終わる。
「リサイタルより、興奮する!」
 舞台を下りたその袖で、奏が胸を押さえながら頬を染めて呟いた。
 リサイタルよりも小規模なこの舞台。観客が近い分、拍手が温かいのだと笑っていた。
 その隣で、別の意味で頬を真っ赤にしている航が手でパタパタと顔を扇いでいる。小・中学の友人が何人か来ていたのだ。最後の曲が終わって顔を上げると、前の方の座席を陣取っていたそのメンバーが、
「わったるーっ!!」
 “せーの”で声を合わせて、一斉に航の名を呼んだ。急な転校だったから、みんな心配していたのである。手を振る友人達に笑顔で振り返す航。
 という訳で、びっくりした所為で赤面中である。
「……音楽……やってて、良かった……」
 少し荒い息の中、奏が微笑み、
「うん」
「そうだな」
 航と慎太郎が笑顔で頷いた。

  
 京都滞在を三日延ばし、翌日と翌々日は修学旅行コースを見て回った。地蔵盆でのライブをあちらこちらから誉められ気を良くした祖父が、両日とも車を出してくれて、祖母や姉も同伴の賑やかな観光となった。
「奏、お土産、買うた?」
 観光最後の場所で、航が確認する。
「うん。パパとママに“夫婦茶碗”」
「自分のは?」
「僕?」
 自分の物は買っていない奏が、困ったように顔をしかめた。
「これと言って何か欲しい訳じゃないし……」
 奏の言葉に顔を見合わせた航と慎太郎。
「ほら、これ!」
 慎太郎が小さな封筒を奏に渡す。
「何?」
「俺と、航から」
 首を傾げながら奏が土産物の封筒をあける。
「……これ……!」
 出て来たのは“カトちゃんストラップ”。
「いいの?」
「あんまり“いい趣味”じゃないかもしれないけどさ」
「嬉しいな……」
 奏がいそいそと携帯につける。
「ホントは、欲しかったんだ、これ……」
 航と慎太郎、木綿花がお揃いで持ってるのが羨ましくて仕方なかったのだと笑う。
「変なもん、欲しいんやなぁ……」
 クスクスと笑いながら、今度は帆波が手を伸ばす。
「これは、うちらから」
 祖父と祖母との三人から航達三人へ。
「御守り。無事に一年過ごして、来年も京都においない」
「……おい……?」
 御守りを手に首を傾げる奏に、祖母が笑った。
「“いらっしゃい”って意味え」
 何事もなく、一年を乗り越えて、来年も三人で……。
「はい!」