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WishⅡ  ~ 高校2年生 ~

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 声が消え、その後を追って楽器の音が消え、会場に静寂が訪れる。
 歌い終わった三人が頭を下げ、その静かな会場に顔を上げた途端、一人の拍手をきっかけに満場の拍手が鳴り響いた。顔を見合わせて笑う三人。そのまま、奏がピアノを離れて航の隣に立ち、三人揃ってもう一度お辞儀をする。
「ありがとうございました!」
 同時に頭を上げてそのまま舞台袖へと下がっていく三人を会場の拍手が送っていた。
  

 翌日。
 前日のライブが楽しかったのと、終了後に役員の人達がこぞって誉めてくれたのとですっかりテンションが上がってしまった三人。夕食は上機嫌の祖父の計らいで外食となった。育ち盛りの男子三人を連れての外食は“焼肉”。そこでも、肉の奪い合いと野菜の譲り合いで盛り上がり、寝付いたのは日付が変わってからだった。
「……う〜ん……」
 一番に起きたのは慎太郎。夜更かしは慣れっこの上、京都に来てからはよく寝ていたので、一番体力が残っていたのかもしれない。
 大の字で寝ている航と静かに寝息を立てている奏を見て、そっと部屋を抜け出すと、
「慎太郎くん、おはようさん」
 ちょうど様子を見に来た祖母と廊下で顔を合わせた。
「朝ご飯、どないする?」
 そっと部屋を出て来た慎太郎を見て、二人はまだ寝ているのだと察した祖母が小声で問うてくる。
 一人で食べてもつまらないし、夕べ、目一杯食べたからそんなにお腹も空いてないし……。
「二人が起きてからでいいです」
 そう告げて、祖母が下におりるのを確認し、航の部屋の隣の部屋に入った。ギターが数本とブルースハープとキーボードが置いてあるこの部屋は、航の両親の部屋だったところだ。ギター好きの航の父が演奏しても迷惑にならないように、少しだけ防音が施してある。置いてある楽器の内、ギター二本とブルースハープ二本とキーボードは、今回慎太郎達が持ってきた物で、後は航の父の物だ。
 部屋の隅にしゃがみ込み、慎太郎は自分のブルースハープを手に取った。ただ単に、退屈しのぎに楽器を……と思って入ったのだが、どうもギターを弾く気にはなれず。得意な方の楽器を手にしてしまったのだ。
“♪〜”
 一音吹いてみる。
 静かな朝に……といっても、そろそろ十時だが……楽器の音は良く響いた。他に音がないのだ。響いて当たり前といえば当たり前なのだが、あまりの響きっぷりに慌てて口から離す。誰もいないのに、キョロキョロと部屋を見回し、今度は小さな音で吹いてみた。いい感じの音が部屋に響く。なんとなく、そして適当に音を出していくと、なんだか普通の“曲”みたいで……。
 気付かぬ内に、数分間、慎太郎はそれに夢中になっているのだった。
  ――――――――――――
“♪〜”
 突然の“音”に、奏が飛び起きた。部屋を見回すと、大の字になっている航と自分以外は部屋にいなかった。
「……慎太郎……?」
 聴こえた音はブルースハープ。濁りのないあの音は慎太郎だ。
「隣の部屋かな?」
 壁越しではなく、防音のされていない窓から窓へと響いてくるその音に、奏がバタバタと動き始める。
「確か……ここに片付けて……。あった!」
 カバンの中から取り出したのは、白紙の五線譜。隣から聴こえてくる慎太郎の音に、奏のペンが動いていく。
「……何?」
 聴こえてくるブルースハープと奏のペンの音に、航が目を覚ました。
「あれ? シンタロは?」
 航が、窓際でペンを走らせている奏に寄り添う。
「何してんの?」
 覗き込む航に、
「シッ!」
 奏が口元に人差し指を当てて、沈黙を促した。
 聴こえてくる音に合わせて、物凄いスピードで動く奏の手。五線譜があれよあれよと音符で埋まっていく。
「……凄……」
 ブルースハープの音を楽譜に起こしているのだと気付いた航が小さな声を上げた。
 五分くらい経っただろうか。やがて消えた音と共に、奏のペンも止まった。
「それ、今の音の楽譜?」
 隣の部屋と楽譜を指差して航が口を開く。
「うん」
 書いた譜面を順番にまとめながら奏が頷いた。
「ひょっとして、シンタロの……オリジナル?」
「そうだね。でも、きっと、慎太郎は無意識に吹いてただけだから……」
 クスッと奏が笑った。
「何?」
 ほくそ笑みながら航が訊くが、
「そっちこそ」
 と訊き返される。
「考えてる事、一緒?」
「多分」
 トントンとまとめた楽譜をファイルに片付けながら奏が頷いた。
「航くん。ブルースハープ、練習してね」
「俺、ギターの方がええねんけど……」
「それだとつまらないでしょ」
「シンタロには?」
「出来るまで内緒」
「OK!」
 二人が頷き合うと同時に部屋のドアが開いて慎太郎が戻って来た。
「なんだ、起きてたのか」
「ううん。起きたばっかり」
「シンタロ居てへんさかい、探しに行こかなって言うてたとこ」
 妙に笑顔な二人に首を傾げつつ、慎太郎は二人を伴って朝食へと祖母の所へ向かうのだった。

  
「奏は?」
「隣」
 昼過ぎ。昼食をとった後、奏はサッサと姿を消した。朝食の後も、何やら航の机に向かって譜面と睨めっこだった。午前中は航も一緒に二人でヒソヒソやっていたものだから、慎太郎は面白くないのだ。どうせ、また“曲が浮かんだ”か何かなんだろうが、そう次々と作られると追いつけない。
「航、ここだけどさ……」
 昼食が終わって、今、慎太郎と航は航の部屋で夏休みの宿題中。奏は、夏休み最初の一週間でやり終えているので、ある意味“自由時間”なのである。かと言って、散歩が出来るほど土地勘もなければ、暑さに強いわけでもない。キーボードを弾くという手もあるが、それだと宿題をやっている二人の邪魔になる(航の両親の部屋の防音は、完璧ではないのだ)。
「奏、観光とか行きたいんじゃないのか?」
 せっせとプリントの空欄を埋めながら慎太郎が呟いた。元々、ゆっくりと名所を見たくて来た筈だ。それが、突然の地蔵盆ライブで、滞在日の殆どが練習にと潰れてしまった。
「……そやな……」
 滞在予定は一週間。つまり、明日には帰らなければならない。
「シンタロ、後、何日か延ばせる?」
「いいけど……。お祖父さん達に迷惑じゃないのか?」
「そやなぁ……。まず、奏に訊いて、祖父ちゃんに訊いて、堀越の家に連絡……かな」
「じゃぁ、俺は、奏が残れるようなら母さんにメールだな」
「僕が、何?」
 二人が頷き合ったところで、奏が部屋に戻って来た。
「終わったん?」
 奏の手元の五線譜を航が覗き込む。
「なんとかね。航くん達、宿題は?」
「俺は、終了!」
 航が偉そうに笑いながら、宿題のテキストとプリントをトントンとまとめた。その向かい側で、
「今日のノルマは終わり!」
 慎太郎がプリントをたたむ。
「要するに、集中力が切れたわけだ」
「てか、これがシンタロの限界」
 航の言葉に奏が頷く。
「悪ぅございましたね。限界が早くて」
 筆記用具をペンケースに片付けながら、慎太郎が不貞腐れた。勉強に関しては、二人には勝てない。
「それで、僕が何だって?」
 さっきの続き。
「奏、あと二・三日京都に居れる?」
 航の問いに奏が首を傾げた。
「どういう意味?」