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WishⅡ  ~ 高校2年生 ~

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 昼休み、必要以上に落ち込んでいる航を慎太郎が小突いた。
「俺、なんかマズイ事言うたんやろか……?」
 溜息をつき、弁当を食べる箸が止まる。
「何気に言ったって、傷付く時ゃ傷付くっしょ?」
 石田が頬をおかずで膨らませたまま自分の言葉に頷いた。
「……やっぱ、なんか言うたんかな……?」
 落ち込みながらも玉子焼きをパクリ。
「てかさ。痛いとこつかれて、考えてんのかもよ」
「“痛いとこ”?」
 石田の言葉に、航と慎太郎の箸が止まった。
「堀越って、ポロッと核心つくような事言う時あるからさ」
 ニッと笑って、石田が航の弁当に箸を伸ばし玉子焼きを自分の口へと運ぶ。
「そやろか?」
 “もう!”と睨みつつ、今度は航が石田の弁当の玉子焼きを自分の口へと運んだ。ほんのりと甘味が口いっぱいに広がる。
「ミカちゃん。料理上手いなぁ」
「俺は、お前のお祖母さんのダシ巻きタマゴのが好きだな」
 頷き合う二人を見比べて、
「俺は、どっちもいいと思うぞ」
 偉そうに慎太郎が頷く。いつの間にやら、どちらも試食済みらしい。
「シンタロッ!」
「お前のもよこせよ!」
 箸を構える二人に、
「へっへーん!」
 慎太郎が胸を張る。机の上には既に空になった弁当箱。
「シンタロ、ずっこい!!」
「お前、明日、絶対に玉子焼き入れて来いよ!!」
 拗ねる航の横で、石田が箸をビシッ!と構える。
「小せぇな、お前等」
「人の弁当食うといて……」
「どっちが“小さい”んだ!?」
 ケラケラと三人揃って大笑い。
「な、堀越、飯島」
 笑いが治まり石田が最後の一口を口に放り込む。
「今日、行くんだろ?」
「え?」「ん?」
「藤森ん家。行くんだろ?」
「うん。とりあえず、カバン、届けようと思て……」
 食べ終わった弁当箱を片付けながら航が頷いた。
「“また四人で弁当食おうぜ”って、俺からの伝言」
 おどけた表情で親指を立てる石田を見て、航が嬉しそうに頷く。
「伝える! 任せといて!」
 二人のやり取りを見ていた慎太郎が小さく微笑んだ。

  
 帰りのHRの後、航と慎太郎は職員室へと出向いた。奏の住所を聞く為である。
「あの公園のあるとこや……」
 最寄の駅名を聞いて航が呟いた。
「だな」
 駅から公園を抜けて徒歩十五分といったところか。
「堀越くん。飯島くん」
 A組担任から説明を受けているところへ音楽教諭がやって来た。
「これ」
 そう言って、PCからプリントした地図を差し出す。駅から赤線で住宅街まで線が引いてある。
「私、去年行ったから道順を記しておいたわ」
 去年、奏が倒れた時【辞職願】を出しに来たと奏が言っていたっけ……と思い出す二人。
「バスだと駅前から四駅。でも、バス停から少し離れているから歩いて行っても時間は変わらないかもね」
 微笑みながら説明してくれるが、内心は心配でしようがないようだ。
「お願いね。堀越くん、飯島くん」
「大丈夫! 明日から、また来るから!」
 航が自分の不安を隠すかのように教諭達に笑顔を向ける。
「カバン忘れて、タイミングを逃しただけだと思うんです」
 航の頭に手を置いて、慎太郎が言葉を添える。
 職員室の教諭達に見送られ、二人は藤森宅へと向かった。
  

 【森の葉公園】を抜けてジャンボ団地とは反対の方向へ歩く。ちょっとした商店街を通り、信号を渡ると、閑静な住宅街へと街並が変わった。団地やマンションの類は見当たらず、一戸建てが立ち並んでいる。
「でっかい家だったりして……」
 辺りを見回しながら慎太郎が呟いた。
「可能性はアリやなぁ」
 “だってな”と前置きして航が続ける。
「お母さんって有名なピアニストらしいし、お父さんは音楽プロデューサーやて言うてたもん」
 既に住む世界が違う。
「……奏、会うてくれるかな……」
 奏のカバンを抱き締めて、思い出したように溜息をつく。
「大丈夫だよ。ちゃんと話しすれば」
 去年の夏、自分達がそうだったように、何か誤解があったとしても話しさえすれば分かり合える筈だ。この二日間、奏の笑顔を見ていてそう感じた。
「……俺、多分、奏の“怖さ”が理解できると思う……」
 航の言う“怖さ”が“死”を意味するのだと、慎太郎はピンときた。
「でも、俺にはシンタロが居(お)るから……。奏にも何かあればきっと大丈夫やと思うねん」
 奏にとっての“慎太郎”が何なのかは分からない。でも、支えが見付かれば生きていける。
「で、“ピアノ”か……」
 昼休みやら帰り道やらで奏が慎太郎にもポツリポツリと話してくれた。どこが悪いのかは分からないが、運動と緊張がダメらしい。
「でもな、ピアノ演奏って結構体力使うらしくて、病院からも両親からも禁止されたんやて」
「去年のお前と同じじゃん」
 しかし、航の場合は“ライブ”の禁止であって“ギター”の禁止ではなかった。ギターに触れられる分、航の方が恵まれていたと言える。
「ずっと弾いてたんやて、ピアノ。でも、演奏して倒れたらしくて……」
 最後に弾いた曲は“秋桜の丘”。奏の母が作曲したピアノ曲だ。
「ひょっとして、去年、授業で弾いたのって……」
 慎太郎の問い掛けに航が頷く。
「うん。“秋桜の丘”やったらしい」
「“トラウマ”になっちゃったんだな」
「だからな、放っておけへんねん」
 どこか自分と重なる奏。
「おい!」
 溜息混じりに歩き続ける航の腕を慎太郎がツンと引いた。
「ここじゃねーのか?」
 周りの家より一回り大きな邸宅。表札には【藤森】。
「でけぇ……」
「……予想的中やん……」
 あはは、と揃って笑いが引き攣る。
「呼び鈴押したら、お手伝いさんとか出てきそうだな」
 “それ、イヤやわぁ”と言いながら、丸いボタンを押す。
“ピーン・ポーン♪”
 少し待ってみるが、返事がない。
「もっかい?」
「そだな」
“ピーン・ポーン♪”
 やっぱり返事が……。
『……堀越くん、飯島くん!?』
 突然、インターホンから奏の声が聞こえた。
「え?」
 二人してキョロキョロ見回す。と、上部にカメラ発見。
『どうしたの?』
 驚いたようなその声に、航が持っていたカバンをカメラに向けた。
「カバン、持って来てん」
『待ってて、今行くから!』
 プツンとインターホンが切れ、聞こえていた元気そうな声に一安心。と、何やら冷たい物がカメラを見上げていた航の頬に当たった。
「……雨……?」
「そー言や、下り坂って言ってたな。でも、降るのは夜って……」
 天気予報なんてそんな物である。
「置き傘、学校やん」
「俺はそれすら持ち合わせてねーよ」
 胸を張る慎太郎に“なんで偉そうやねん!?”と航が突っ込んだ。そこへ、
「お待たせ!」
 奏が姿を現した。
「元気そうじゃん」
 航からカバンを受け取る奏に慎太郎が声を掛ける。
「こいつが心配してさ」
 と航の頭にポンと手を乗せる。
「……堀越くん……」
「ち、ちゃうねん!」
 両手をパタパタと振って航が慎太郎を睨みつけた。
「俺、なんか、変な事言うたかな、って……」
 航の落ち込みに比例するかのように、ポツンポツンと雨足が強まる。
「とりあえず、上がって」
 降り出した雨に奏が家の中を指す。
「ええよ。届けにきただけやし」