無題Ⅱ~神に愛された街~
「・・・・・・・おいおい・・・」
鬨が落とし穴に落ちた直後、開いたままの門の前に立つ人物がいた。
「なンだ、こりゃあ・・・」
茫然と、その建物の入口まで続いている惨状に、深緑の瞳を大きく見開く。
それもそのはずだ。門から一歩入ったところから入り口まで、地面に鉄の矢が深々と刺さっているのだから。しかも土の地面ではなく石畳の地面に。
その威力に背筋が凍るものを感じながら、血の跡がないことにほっとする。
「それにしても鬨のやつ、こンなとこになにしに来たンだ・・・?」
見上げると首が痛くなるほど巨大な建物―――――ウィルディアス総合病院。
この街で唯一の病院であり、医術の実力者ばかりが集まる世界有数の病院である・・・と、聞いている。
なにしろこの街に来ること・・・いや、自分の故郷から出ること自体が初めてなのだから、知らないことばかりなのである。
ここにだって鬨の後をつけてきたからこれたのだ。
つまり、鬨がなぜ自分に隠れるようにこの場所へ来たのかや、何の目的で来たのかはまったく知らないということだ。
「・・・・帰りどうすっかな・・・」
この街の地図はしっかりと覚えているが、どうしてもそれが今いる場所と一致しない。
「ま、いっか」
なんとかなるだろ、と軽く片付けて、一歩門の中に入る。
矢が来るかと思ったが、まったく静かなもので、何かが襲ってくるような気配はない。
そのままなんてことはなく実にあっさりと入口までたどり着く。
「えらく拍子抜けだな・・・」
身構えていた分、脱力してしまう。
立派な扉についている立派な取っ手を引く。
しかし扉は固く閉ざされており、まったく開く様子がない。何となくわかっていたことではあるが、こんな時間だ。病院もしまっていて当たり前だろう。
そんなことは予想済みなので、驚きもせず取っ手から手を離す。
「さて、どうするか・・・・」
周りを見回しながら、他に入口がないか探す。
鬨がこの扉から入ったのではないことは確実なのだから、きっとどこかに他の入口があるのだろう。
(とりあえず、裏にまわってみるか)
何もわからない以上、とにかく動くしかない。
そう思えば、自然と体は動いた。
裏側にまわってみて何もなければ、またその時に考えればいい。
そんな考えと共に足を進める。
「!」
しかし、そんな思いは外れ、運良く螺旋状の非常階段を見つけた。
錆ついていて今にも壊れそうだが、まぁ昇れない事はないだろう。・・・・たぶん。
運がいいのか悪いのか、こうしてヴェクサもようやく一歩を踏み出した。
作品名:無題Ⅱ~神に愛された街~ 作家名:渡鳥