無題Ⅱ~神に愛された街~
「・・・・っ」
一方鬨は、ヴェクサが裏口を見つけた頃にはすでに地下を抜け出し、次々と襲ってくる鉄の矢に苦戦していた。
先ほど入り口前で襲ってきたのはただの鉄だが、今回は悪質なことに先端に麻酔の様な薬が塗りつけられていた。まず薬で死ぬ事はないだろうが、万が一あたってしまえば、数時間は体が動かないだろう。まぁその前に矢に当って死んでいる可能性もあるわけだが・・・。
そのために慎重に進んでいるのだが、なにしろどこから矢が飛んでくるかわからない。
どうしても時間がかかってしまうのだ。
まだ怪我は一つも無いが、冷たい水に浸ったせいで無駄に体力を削られてしまっており、連日のことで限界も近い。
ここはさっさと通過してしまった方がいいだろうと判断して、おもいっきり地を蹴った。
次々と襲ってくる矢をかわしながら、速度を上げて走る。
走っているうちに目の前に見えた扉の中にとっさに飛び込んだ。
背中に鉄の扉を通じて矢が刺さる感覚をやり過ごし、衝撃が止んだところで扉から背を離した。
そしてようやく辺りを見回すと、どうやら非常用の階段らしい。まだ新しいところを見ると、最近つけたのだろう。
確か裏にも非常用の階段があったはずだが、そちらはどうなったのか・・・と、そんなことを上を見上げながら考える。本当ならそちらを使おうと思っていたのだが、生憎とこのざまだ。
非常用だからなのか、明りがほとんどついていなかった廊下に対し、ここは割と明るい。これなら足を踏み外すこともないだろう。
「しかし・・・ここはこんなに大きかったか・・・」
上を見て、途方も無い高さにくらりとする。
だが、昇るしかない。
溜息を吐いて、一呼吸おいてから段に足をかける。
何も起こらないことを確認して、階段を駆け上がった。
作品名:無題Ⅱ~神に愛された街~ 作家名:渡鳥