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無題Ⅱ~神に愛された街~

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Episode.9 責任



「随分とかかったな」
「うおぅ!!??」

病院から出て、門をくぐった先で待っていたのは鬨だった。
丁度柱のところにいたせいで、声をかけられるまで気付かなかったのだ。

「と、鬨!?」
「ルークスにちゃんと話しは聞けたのか?」
「な、なんで・・・!?」

驚愕に顔を染めるヴェクサに、鬨が不思議そうな顔をした後に「あぁ」と納得した様子で頷いた。

「ついて来てたのはわかってたからな・・・あんたに帰る途中で迷子になられたら困る」
「・・・・・・・あぁ・・・・」

「そんなことはない」と反論したくても、図星を突かれて肯定することしかできなかった。
ついて来ていたのがばれているのは、エイルに聞いて知っていた事なので、いまさらだ。

「で、話はちゃんと聞けたのか?」
「あ、あぁ・・・聞けた」
「そうか」

それだけ言って踵を返す鬨に、慌ててヴェクサが手首を掴んで止める。

「どうした?」

振り返ってヴェクサを見る鬨に、ヴェクサは思わず顔をうつ向かせた。

「・・・・痛かったんだ。でも、鬨はそれ以上に痛かったって・・・・」
「なんの・・・」

話しだ、という鬨の言葉はヴェクサの言葉に遮られる。

「俺は!鬨の寿命を貰ってまで生きなくてもよかったんだ!」
「!」
「お前が痛い思いしてまで、生きる時間削ってまで生きる価値のある人間じゃねぇンだよ!!」
「・・・・ヴェクサ・・・」

手首を掴む手に込められた力の強さに眉根を寄せながら、鬨もヴェクサに向き直る。

「・・・・・いったい、なんの話しだ」
「・・・・は?」
「確かに、俺はあんたを「人間」にするために心臓を造り、寿命を削った」
「だから・・!「だがな」

今度は鬨がヴェクサの言葉を遮る。

「痛みなんて感じてはいない」
「・・・・・へ」
「疲労はするけどな。大体、痛みなんていちいち感じてたら術なんか使わない」
「・・・そう、なのか・・・?」

鬨の瞳に嘘をついている様子はなく、また、こんなところで嘘をつくタイプではないことはわかっている。
そのことに、少しだけ安堵した。
しかし、まだ一番大事な問題が残っていることに変わりはない。

「でも、寿命削っちまったのに変わりはねぇンだろ!?」
「・・・それは気にすることはない。俺が勝手にしたことだ。・・・責めたいなら好きなだけ責めろ」
「!っ、責めたりなンかするわけないだろ!俺は鬨に責められなきゃいけない側だぞ!?」
「何故」
「なンでって・・・!」
「ヴェクサを勝手に生かしたのは俺だ。寿命を取られたのは俺自身の勝手なエゴから生まれた自業自得だ。俺が責められこそすれ、あんたを責める理由はない」
「っ、だけど・・・!・・・じゃあ、俺は、どうすりゃいいんだよ・・・」
「・・・・・・俺だって、知りたいさ」
「・・・鬨?」

いつもの鬨らしからぬ言葉に、顔を上げようとする。
しかし、それは頭の上に軽く乗せられた手によって止められる。

「・・・本当は、わからないんだ。本当にあんたを・・・ヴェクサを生かしてよかったのか。・・・あんたは、あそこで死んでた方が幸せだったのかもしれない。そう思う時がある」
「・・・俺は・・・」

俯いたまま、ヴェクサは言葉を慎重に選ぶようにして発した。

「生かされて、本当によかったのかなんて俺もわかんねぇよ。・・・けど俺は、鬨について行きたい。・・・行くって決めた」
「・・・ヴェクサ?」
「鬨は、俺が居るのは嫌か?」
「・・・・・・・・」

短い沈黙と共に、頭の上に乗せられていた手がのけられる。

「あんたを誘ったのは俺だぞ。・・・俺は、嫌いなやつを旅に同行させられるほど気は長くないからな」
「だよな」

いつもよりもぎこちない笑みを浮かべるヴェクサに、鬨は気付かない振りをして「ところで」と話しを無理矢理切り替えた。

「いつまで握ってるつもりだ?」
「ン?」

まだ掴まれているままの手首を持ち上げて見せれば、ヴェクサは慌てて手を離した。

「す、すまン!」
「いや、別にいいが今度からは力加減をちゃんと見てくれ」

ひら、と握られていた方の手を振って見せる鬨に、ヴェクサも頷く。

「一先ず宿に帰ろう。そろそろ日も昇るだろうしな」

そう言われて東の空を見れば、太陽こそ見えないものの、ぼんやりと明るくなっている藍色が見えた。

その空を見上げているうちに、鬨は既に歩き出してしまっており、それに気付いたヴェクサは慌ててその後を追った。



作品名:無題Ⅱ~神に愛された街~ 作家名:渡鳥