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無題Ⅱ~神に愛された街~

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Episode.6 会話




鬨が階段を上がりきるころには、息がすっかり上がってしまっていた。
しかし止まることはせず、最上階にあるはずの目的地を目指す。
非常階段から出るために、入口と同じ扉を慎重に開ける。何もないことを確認すると、素早く扉から身を滑り出させて向かいの壁に背を預けた。

(確かこの廊下を曲がればすぐだったな・・・・)

もうここに罠がないのはわかっている。あとは廊下を進めばいい。
小さく一息ついて、壁から体を離して廊下を曲がると、明るい月明かりに照らされた廊下の先に一つの扉が見えた。その扉の先が鬨の目的場所だ。
いくらか早足になりながら、その扉の前に歩み寄る。そして、静かにドアノブを手に取った。
鍵もかかっていない扉はあっけなく開き、鬨を中に招き入れる。

「・・・・・成長したな、罠が」
「ありがとう、最高の褒め言葉だよ」

暗闇に話しかけた鬨に返ってきたのは、若い男の声だった。
しかし闇が喋るわけもなく、靴音をたてて現われたのは一人の男だった。鬨が開けたままの扉から入る月明かりに照らされて、ようやく人物の全体が覗える。

眼鏡をかけた長身の男の名はルークス・ウィルディア。この病院の院長であり、若くして天才と謳われた医術師である。瑠璃色の短く切られた髪が月明かりで照らされてぼんやりと光っているように見える。見た目こそ優しげな好青年だが、その瞳は氷のように冷たい色を湛えていた。赤色がかかった不思議な色をしたそれが、笑顔のままじっと鬨を見下ろしている。

「君は、まったく変わらないな」
「・・・・・・・」

白衣のポケットに手を突っこんだままそんなことを言うルークスに、鬨は目を眇めるだけで対応した。

「久しぶりだね、何年ぶりだい?」

そう言いながら部屋の電気をつけるルークスに、「さあな」と冷たく返す鬨をまったく気にした様子も無くルークスは続ける。

「もう寝ようと思ってたんだけどね」
「悪かったな。・・・寝る時ぐらい白衣を脱げ」
「嫌だよめんどくさい」
「・・・・・・・・」
「さ、こっちにどうぞ」

示されたのは応対用に置いてある、立派な皮の椅子だ。
鬨は椅子が濡れるのも気にせず、お構いなしに席につく。ルークスもまったく気にした様子はない。

「それにしても、君があんな単純な罠にかかるとは思わなかったよ」

一度全身びしょ濡れの鬨を見て、くすくすと笑いながらそう言った。

「うるさい。おかげで小刀が何処かへいった」
「それはご愁傷様」

微塵も労わる様子など見せずに言うルークスに、いくらかのいらつきを覚えながらもそれを飲み込んで眉間にしわを寄せるだけに済ました。
だいぶ乾いているとは言うものの、まだ髪の毛などはぐっしょりと濡れて重たくなったままだ。しかし、綺麗な水であっただけまだましなのだろう。

「でも、非常階段を使われるとは・・・閉めておけばよかったな」

独り言をぶつぶつと言っているルークスを無視して、鬨はさっさと本題に入ろうと口を開ける。

「そんなことより今日は聞きたいことが・・・」
「あ、君また大量に力を使ったね?」
「・・・・・・・・」
「・・・まったく・・・本来魔術って言うのは環境と触媒といろんな条件がそろって初めて使えるものなんだよ。君もよく知ってるだろう?ちゃんと手順を踏まないとすごく危険なんだって前にも説明したじゃないか。そうじゃないと大量のエネルギーを消費するから死んでも知らないよって何回言ったらわかるんだい?」
「・・・・・・・・」
「そんな無茶苦茶するのは君ぐらいだよ」

はぁ・・・と呆れたようにわざとらしく溜息を吐くルークスに、心配した様子が見えることに少し申し訳なくなり、謝ろうと口を開こうとしたところで、

「だいたい、君がいなくなったら僕の楽しみが無くなってしまうじゃないか。なにしろあんな罠の山、君ぐらいしか通り抜けれないもの」
「・・・・・・そうだな。そういう奴だよ、お前は」

少し申し訳なくなってしまった気持ちはあとかたも無くなっていた。少し前の自分を目を覚ませと殴りたい。しかし、見ただけで魔術を使ったとわかるところなどは流石というか、天才と言われた能力は本当に本当のことだし、それを鬨も充分わかっているが、ルークスのこの性格はどうにかならないものか。

「まぁ、そんな冗談はさておき」
「・・・・・・・・・・」

無邪気に笑いながら言うルークスに、もうつっこむ気力も無い鬨は黙って言葉の続きを待つ。

「君が危険な状態なのは本当だよ。完全に力の使い過ぎだね。それで来たのかい?」

初めて真面目な顔を見せたルークスに、鬨も静かに意を正した。

「ちがう。・・・少し、聞きたいことがあってな」
「ふーん・・・で、こんななるまで力使って一体何したの」

聞きたいことがあるといった鬨を軽く無視してルークスは遠慮なく質問を重ねる。

「・・・・・・・・・・・・・心臓を作った」
「・・・・・・・は?・・・心臓・・・?」
「・・・・・あぁ」

鬨が渋々という風に答え、少しの沈黙の後。
ルークスが大きく息を吐いたかと思うと、

「馬鹿なのかい君?」

そう一言いったルークスの声には少しの怒気と呆れが混じっていた。

「人一人の心臓をたった一人で造るなんて、本当に死ぬ気かい君は。・・・・で、今回は一体何を触媒にしたの」
「・・・・・・・少しの記憶と、寿命を」
「・・・・本当に馬鹿だな、君は」

棘々としたもの言いで言うルークスに、鬨は気まずそうに目線を逸らす。

「触媒に出来たってことは大事な記憶だったんじゃないのかい?」
「別に・・・ただの会話だ」
「ふーん・・・・?」

疑わしげな視線で鬨を見ていたが、しかしそれ以上の追及はしなかった。

「で、自分の寿命削ってまで一体誰の心臓造ったのさ?」
「今宿で寝てる。・・・・それから、別に寿命を与えるつもりはなかった。ただ、器が勝手に持っていったんだ」
「・・・・・・・なんだって?」
「だから、別に寿命を与えるつもりは・・・」
「いや、そっちじゃない。その前」
「?・・・・あぁ、そいつなら今宿に・・・」
「一緒に連れてるのかい?!君が!?」

この世の魑魅魍魎のすべてを目の前にしたような顔をされて、鬨も不快そうに眉をひそめる。

「あぁ、なにかあるのか?」
「・・・・いや、そうか、まさか君がね・・・」

今度は意味深な視線を投げかけてくるルークスに、鬨は更に眉間のしわを増やしたが、疑問を口にはしなかった。

「・・・・・で、器が取っていったて言うのは?」
「・・・・・・・」

鬨はどこから取り出したのか、蒼い透明の結晶を机の上に置く。少し緑のかかったそれは、小指より一回りほど小さい。

「何だい、これ?」
「”魔石”と言うらしい。心臓の器にした。聞きたいのはこれのことだ」
「魔石・・・聞いたことがあるね・・・確か、インヴィディアにしかない珍しい鉱石だったはずだよ。インヴィディアにいてもなかなか目にすることができないぐらい珍しいのに、まさかこんな所でお目にかかれるなんてね・・・」

『インヴィディア』というのは三大大陸の一つで、三つの大陸の中でもっとも「技術」が発展していると言われている。
作品名:無題Ⅱ~神に愛された街~ 作家名:渡鳥