無題Ⅱ~神に愛された街~
滅びたはずの「技術」がなぜ発展しているのかというのは、まぁいろいろと長くなるので割愛するとして・・・。
「詳しいのか?」
「詳しいわけじゃないけど、これについて書かれた本なら少し見た事があるよ。・・・正式名称は”ラクリマ鉱石”って言ってね、珍しいなんてもんじゃない。一生に一度見れればすごい幸運だよ。だからこの鉱石がいったいなにから出来ていて、どうやって出来るのか、まったくわかっていないんだ。鉱石を研究してる人なら、まさにこれなんて喉から手が出るほど欲しいものに違いないね。・・・あぁ、それから、この石には魔力を溜めておける力があるんだ」
「それなら俺も本で見た」
あの日記に書いてあった。そちらには簡単なことしか書いてはいなかったが、たしかにそういったことを書いてあったはずだ。
「おそらく、心臓にしたって事はそれを利用したんだろう?」
「あぁ」
「なら今の君の状態にも頷ける。君はそれこそ珍しいぐらいかなりの魔力を持っているけれど、それでも触媒を必要としたという事は、それだけ石の容量が大きかったということだ」
「この石より少しでかいぐらいだった」
「充分だよ。それだけで普通の人間じゃ考えられないぐらいの年数を生きるよ、その子は。・・・その石の容量いっぱいに魔力を詰め込んだ場合の話、だけどね」
「・・・・・・・」
「まぁそれは見てみないことにはわからないから、何とも言えない」
「・・・・・そうか」
それだけ言って立ち上がった鬨は、この部屋に唯一ある大きな窓に近づくと、大きく開け放った。
「もういいのかい?」
「聞きたいことはもう聞けた」
「石はいいのかい?」
「・・・・欲しいんだろ?」
窓枠に足をかけながら言った鬨に、「お見通しか」とルークスが笑う。
「俺が持っていても仕方ない。それなら欲しい奴が持ってればいい」
「あはは、その性格も変わってないね。・・・・・・鬨」
「?」
呼びとめられたその声の変化に、思わず振り返る。
「あの子には、会っていかないのかい?」
「会ってどうする」
「会いたがっているんだけど」
「・・・・・・さぁな」
「冷たいね」
苦笑とも嘲笑ともいえぬような笑みを浮かべるルークスに、鬨はただ無表情で対峙する。
「一番会ってほしくないと思っているのはお前だろう」
「・・・・・それもお見通し、か」
それで今度こそ話は済んだとばかりに、鬨は窓から飛び出した。
ルークスは立ち上がると、窓のそばに歩み寄って下を見下ろす。
怪我ひとつなく、振り返ることなく出口に向かう鬨に、今度こそ苦笑した。
「ここ、15階なんだけど・・・」
そう言って門を出る鬨を見どとけると、丁度鳴ったノックの音に笑みを深めた。
作品名:無題Ⅱ~神に愛された街~ 作家名:渡鳥