フリフリ星の宇宙人
ところで、常々私には疑問がありました。
それは、『地球の基準』です。
地球に住んでいる人にとっては、当たり前かもしれないことが、私たちにとって非常識なことで、笑ってしまうようなとてもおもしろおかしいものかもしれません。例えば、私の住んでいる星(長いので、以下『フリフリ星』)では、一日は鳥の鳴き声で決まります。これは私の仮説にすぎませんが、地球における鳥とはまた別のものだと思われます。また、食事は日に一回で、それは長から与えられます。長は一人一人の家の前にある、石を削ってできた器に入れていきます。その食事も、地球で食べられている加工食品や動物の肉、魚、野菜などではなく、ピカピカ光った固体です。それを最初彼に話したときは、随分驚かれたものでした。味は……彼に食べてもらった時の彼の感想は、「酢昆布みたい」でした。
長くなってしまいました。つまりは、基準が知りたいわけです。基準がわからなかったらいつ何時不審者扱いされて逮捕されるかわかりません。先輩なんかはまさにそうです。宇宙人と言っても大体は人の形をしているのに、先輩は、顔は人間で体は先輩の気分で変わってしまいます。いつもはスライムの形をとっているのですが、正直気持ち悪いです。……さすがに、地球に来るときは人の形をしていましたが。あのような物体がこの世界に存在することを私は認めたくありません。しかし、先輩だからしょうがないと思うことにいたしましょう。
そういうわけで、私には確かめたいことがありました。だから、最初はこう思ったわけです。とりあえず、誰か協力者が欲しいと。宇宙人が地球で無事に過ごすには、この『協力者』は必須です。コミュニケーションをとるために、今まで面倒な言語の勉強をしてきたのですから、ここで誰もつかまえられないようではまだまだ半人前だということです。
そういう教育を受けてきたものですから、私は当たり前のように、いつもかぶっている帽子から飴を取り出しました。
「すみません、あの」
通りすがりの女性に、そう言いながら私が飴を差し出すと不審そうな目つきで見られて、ダッシュで逃げられました。
「…………? 地球人さんはシャイな人が多いのでしょう」
「それは違う。おまえがおかしい」
「そんなことはありません」
『フリフリ』内でも唯一の常識人として皆から羨望の目で見られていた私が……え?
「誰ですか?」
ここには、私以外の人はいないはずです。私の作戦がダメだったのでしょう。ただ、今の声は明らかに私の近くから聞こえてきました。
「俺は紫村ケンヤ。享年十六歳の幽霊。趣味は音楽鑑賞と無料で映画鑑賞。最近は若干鬱気味だ」
「いや、別にあなたのプロフィールは聞いていません」
私はどちらかというと、姿が見えないというこの異常現象についての説明を求めていたのですが。日本語って難しいですね。
「え、だから俺は幽霊だって」
「幽霊? 何ですかそれは」
「死んだ人間が現世に残る魂というかな。肉体から離れたものを指す」
そんな難しい説明をされたら、わけがわからなくなってしまいます。しかも、幽霊とか関係なく地球人ってこんなに饒舌なものですか?
「……ちょっと黙ってもらえませんか」
「俺は構わないけど、おまえ周りの人にどういう目で見られるのか全くわかってないだろ」
「…………」
無視することにしました。規定違反ですが。