【三題話】幸せは不幸を連れてやってくる
「うるさいッ! うるさいッッ!!」
ぐわしゃっ! ぐしゃぁぁっ!
「乙女の純潔を奪った罰よぉ! 踏んでやる、踏んでやるッ! 原型とどめないぐらい踏んでやるぅぅぅぅ!」
「うわ、わわ、お助けッッッ!」
血相を変えて、竜が逃げ出す。
「逃がすかぁっっっ!」
殺意をあらわにした美琴が、血まみれバットを持って追いかける。
「ひやぁぁぁぁッッッ!」
涙を流しながら竜が舞い上がる。
「だから逃すかぁっっっ! あんたを倒すためなら、あたしは鬼でも悪魔でも巫女でも、なんでもなってやるぅ!」
空気の渦を足がかりに、美琴が空を駆ける。
怒りのあまり、髪がバタバタとはためく。
サファイアをくぐり抜けた日差しのような碧をまとい、手に血まみれのバットを持った巫女が空を駆ける。
「は、早すぎる〜〜〜〜〜〜」
悲鳴を上げながら竜が逃げる。
破魔巫女としての覚醒波動が、周囲の木々の残り葉を粉々に砕いていく。
「待ちやがれぇっっっ!! このクソ竜がぁっ!」
ビルの外壁を駆け抜け、一気に竜に迫る。
「うわ、うわ、うわわわ……美琴……」
「なれなれしく名前を呼ぶなケダモノがぁっっっ!!」
バコォォン!
電光石火の一撃が竜の体を捕らえ、バランスを崩した化け物は地面へ墜落した。
家を吹き飛ばし、道を転がり、壁にぶつかってようやく止まる。
「ぐはぁっっ! ひでぇ……」
壁の破片を押しのけて竜が出てきたとき、真っ先に目に入ったのは巫女装束の白足袋だった。
「よく生きていてくれたわねぇ。あれくらいで死んで貰っちゃ困るのよねぇぇぇ」
ギラリと瞳を輝かせ、バットを握りしめる美琴。
「お姉さんが、生まれてきたことを後悔させてあげるわっっっ!」
「いや……だから……ちょっと話を……」
「問答無用ぉぉぉ!!」
バットが勢いよく振り下ろされ、街に小一時間ほど何かを殴る音が響き続けた……。
第3章
ずるずる……。
ミンチ状になった物体が、神社へと続く階段を必死に上っていた。シュワシュワと湯気を上げながら、ゆっくりと、ゆっくりと。
そして鳥居のたもとで止まり、1つの固まりへと変化し始めた。
「うわ、まだ頭がクラクラしとる……。何回殺されたかわからんわ」
肉塊は一糸まとわぬ少女の姿になった。
作品名:【三題話】幸せは不幸を連れてやってくる 作家名:川嶋一洋