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小石 勝介
小石 勝介
novelistID. 28815
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金色の鷲子

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 龍雲が合掌し、経を上げようとしたのを鈴が止めた。
「まだよ。敵を取ってからにして!」
 鈴が極光に煌めく剣を高々と構えて、猿飛佐助に対峙した。
「別れは済んだか? 武士の情けじゃ。待っておったぞ。ま、儂は天狗の小童と鏡をぶち壊せば、ここには用がないのだがな」
 佐助は腰を落とし、死んだ真田忍者の刀を拾って逆手に構えた。
 またどこかで爆発が起こった。地獄焔が三つ目の砲撃隊を殲滅したらしい。
 憎しみの籠った気合が鈴から発せられた。今、まさに剣を打ち下ろそうとした時、鏡を支える骨組みの上から鈴を上回る声で叱責が飛んだ。
「連也斎のおっちゃん」
「剣が怨みで震えておる。それでは敵は討てぬぞ」
 連也斎が鉄骨から飛び下りてきた。十名近い裏柳生がそれに続いた。
「真田大助、望月六郎を討ち取った。別の組が根津甚八を斃したぞ。海野六郎も市来右京の示現流に斃れ、由利鎌之助の鎖鎌も宮本伊織殿に破れたようだ。つまり真田はおぬしだけになった」
 佐助が裏柳生の円陣の中に閉じ込められた。
 佐助に向け殺気を放つ連也斎が下段左前に構えた時、鈴が連也斎の前に出た。
「私が泰蔵小父さんの敵を討ちます。連也斎様の仰る意味がわかりました」
 先ほどとは違った穏やかな鈴の眼差しに連也斎が頷いて刀を引いた。
 八方を塞がれた佐助は、逃げられなかった。仮に鈴の聖剣を躱しても連也斎が逃さないであろう。進退窮まった佐助に四つ目の砲撃隊が全滅する音が届いた。
 突然、麓から大きく跳ね上がった白虎が前肢を高く差し上げた。
 すかさず儀兵衛の弟子等が砲筒から細い鋼鉄で縒った網を撃ち出し、白虎の自由を奪った。
 網を被せられ威力は半減されたが、白虎の鎌風に裏柳生の円陣が崩れ、さらに烈風が大鏡を構成する計二寸の小鏡を数十枚以上弾き飛ばした。
 網を切り裂いた白虎の爪がさらに大鏡を支える鉄骨に向けて振り被る。
 すかさず龍雲が飛び出した。
「鈴、聖剣を撃て!」
 龍雲が護符を結わえた錫杖を白虎へ投げつけると、まるで白虎が氷結したように動きを止めた。即座に鏡の台座を蹴って跳躍した鈴が空中で静止した白虎の眉間目掛けてカリブルヌスの剣を撃ち落とす。
 あたかも氷が砕け散るように白虎の体が瓦解していった。
 天上から轟き落ちる淀君の悲鳴で大地が揺れる。
「鷹、火焔じゃ、撃て!」
 さらに龍雲が叫ぶ。
「任せてよ、行くぜ!」
 発動態勢を取らずいきなり放った鷹の紅蓮が、浮遊する白虎の砕けた体を高熱で浄化させた。
 白い霧が雷雲に呑み込まれるように立ち昇って消えた。
 ふうっと息を吐いた鈴が振り返ると、白虎殲滅の隙に佐助の姿が消えていた。裏柳生の死体が四つ転がっていたが、白虎の鎌風だけで殺られたものではない。毒を刃に塗った刀の切り傷がもとで命を落とした死体もあった。
 連也斎の視角に松尾山の麓で繰り広げられている玄武との攻防が入った。
 甲羅を半分以上失くした玄武は悲痛な咆哮を上げ、敵味方の区別なく猛り狂っている。
「右京! 死ぬ気か」
 連也斎の叫びに、皆が一斉に走る右京を目で追った。
 淀君を斃すまで息つく暇などないのだが、白虎を斃して一瞬気の抜けた時であった。
 右京はまるで自ら囮となり玄武を誘い込むような走りである。
 鷹と鈴、それに嘉昭が崖の先端まで出て右京を見守った。
 右京に一番近い所で戦っていた伊織が、慌てて右京を追いかけたが傀儡兵と上から飛んで来る火焔に行く手を阻まれている。
「そっちに逃げちゃだめだよ。川を渡って!」
 我慢できず鷹が飛び立った。
 右京の後ろを怒り狂った玄武が傀儡兵や甲賀衆を蹴散らしながら追いかけている。
 右京の先には大量の火薬を埋めた大きな落とし穴が隠されているのだ。まさに玄武対策の仕掛けであった。俄か作りではあったが、穴の中には尖った木材が階段状に埋め込まれており、玄武を横転させる仕掛けがしてあった。
 すでに玄武を防御する甲羅もほとんどが焼け爛れている。今なら朱雀で斃せるに違いなかった。
 しかし、鷹は逡巡した。朱雀を撃つには玄武と右京の距離が近すぎるのだ。
 鷹が右京を担ぎ上げようと急降下を始めた時、天上の淀君から地獄焔が発射された。堪らず鷹は方向を変え、丸山に向かって水平に逃げた。山に衝突する寸前に再び急上昇して、追尾する火焔を躱した。地獄焔の的となった丸山が跡形もなく消えた。
 右京が落とし穴の目印の前で止まり玄武を振り向いた。
 玄武が反動をつけて右京に向かい跳躍した。右京が蜻蛉に剣を構えたまま、後ろ向きに地面を蹴った。
 右京の体が水平になった上に玄武がその体重を全て掛けて圧し掛かった。
「右京さん!」
「馬鹿な! 我が身を賭して玄武を滅ぼそうとするのか」
 鈴と嘉昭の悲鳴が右京に届いたのか、嘉昭の方を向いた右京の顔が笑っていた。
 右京のクルスが激しく点滅を始めたが、自殺を許さぬ切支丹の教義が右京から障壁を外した。
 天上で見守る天草四郎の心の衝撃が下まで伝わって来た。
 既に甲羅が半分以上熔けていた分、玄武の防御が弱まっていた。大量の火薬が爆発して玄武の体が飛び散った。
 鈴が絶叫して虚脱したように座り込んだ。
 爆風で大きな穴が開いた。その中央から真珠のように輝く玄武の魂が淀君に向かって昇って行く。
 玄武の心が、耐え難い悲嘆に狂乱する淀君の手の中へ取り込まれた。淀君の精気がたちどころに漲った。
「迂闊じゃった。妖怪の霊力が回復してしもうた」
 龍雲が天を仰いだ。嘉昭も焦った。後少しで淀君の霊力が尽きるところまで来ていたのだ。反対に鷹は朱雀を撃ち過ぎていた。
 与吉等が大鏡の修復に忙しく動いていたが、火焔を増幅する水晶の球が粉々に割れていた。佐助の仕業らしかった。もはや鷹の朱雀を迦楼羅級に持って行くことができない。
 嘉昭は、朱雀に変身して空を舞う鷹を見上げた。鷹の疲労は誰の目から見ても明らかである。すぐに呼び寄せた。
 鷹が舞い降りてきたが、右京を助けられなかったことに無念の涙を流してその場に座り込んだ。
 淀君が余裕の火焔を撃ち、五つ目の砲撃隊を殲滅した。もっとも大部分の兵は逃げ出しているので人命の損傷は少ないかもしれない。そして五隊目が攻撃されたことで、全ての砲撃隊が消滅した。
 嘉昭は、菊之介を呼んだ。
「徳川光友公を連れて逃げよ。拙者はおぬしの上役ではないが、この度軍奉行を仰せつかった。泰蔵殿の命と思い従ってくれまいか」
「しかし、殿様も生きてくださいまし。白虎も玄武も斃した今、残るは淀君だけです。東海道のどこかでまた待ち伏せいたしましょう」
「右京も泰蔵も死んだのだぞ。余は、このまま引き下がれぬ。それにまだ、死ぬと決まったわけではない。鷹もいる。大鏡もまだ火焔を撥ね返すことはできる。後顧の憂いを失くしたいだけだ。光友公は後顧の憂いじゃ」
 嘉昭が菊之介に早く行けと命じた。
「尾張の御殿様を安全な所まで連れて行きましたら、また戻って来ますぜ。それまで待っていておくんなさいまし」
 忍び装束の菊之介がすっと姿を消した。
 その途端、紅葉した大量の木の葉が舞い上がって鏡面を覆った。姿を消した佐助の木の葉隠れの術であった。
作品名:金色の鷲子 作家名:小石 勝介