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小石 勝介
小石 勝介
novelistID. 28815
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金色の鷲子

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 それに合わせて白虎が飛び込む。前肢で風を切った途端、誰もいない本陣に戸惑いを見せた。すぐさま地獄焔が淀君の左手方向にある三つ葉葵の旗がはためく丸山へ放たれ、玄武が跳び、その巨体を落とした。山の半分が壊れたが、やはり人の気配がなかった。桃配山の本陣にも丸山の陣にも愚弄するような藁人形が何体も陣笠を被り備え付けてある。怒りを露わにした白虎が人形を蹴散らした時、桃配山の背面と南宮山から大砲が連続で撃ち込まれた。同じく玄武には笹尾山から撃ち落とされた。どの砲弾にも龍雲の護符が貼り付けており、結界に妨害されることなく確実に獣神の体へ命中する。
 丸山の裏から傀儡兵に向けて撃ち放たれた砲弾は三分の一を吹き飛ばした。
 堪らず白虎が淀君のいる松尾山まで逃げる。
「しまった! 逃げられた」
 嘉昭が大鏡の後ろから身を乗り出した。
「大丈夫だよ、砲弾が効いてるみたいだぜ。動きが緩慢になった。与吉さん、行くよ」
 鷹が与吉への合図に振り向くと、すでに照準は苦しそうに身悶えする白虎に合わせられていた。
 鷹が朱雀を放った。
 鏡に反射されてさらに増幅した迦楼羅に近い強力な火焔が、激しく肩で息をする白虎に向かった。
「やったぜ、まず白虎を仕留め………」
 鷹が唖然とした。素早く飛び込んだ玄武が地を揺るがす咆哮を上げ固い甲羅で火焔を受け止めている。甲羅は半分以上融け崩れたが、白虎も玄武もまだ戦意は十分だと吼えた。
「いや、だいぶ獣神を弱らせたぞ。淀殿は二発地獄焔を放った。後、何発撃てる?」
 嘉昭が帳面を付けながら鷹に訊いた。
「小が二発、まだ、大きいのが五発は撃てるよ」
「大は小が三発分かいね、まだまだじゃな。何とか撃ち尽くさせたいもんよ」
 泰蔵がまだまだだと溜息を吐くと、気合を入れて鉢巻きを締め直した。
 鷹が下の平地に目を移すと丸山から移動した大筒隊が傀儡兵に向け、雨霰のように大砲を撃ち続けている。傀儡兵は、砲弾に弾き飛ばされながらも無言でまっすぐ南宮山を目指して行軍していた。
 嘉昭は、尾張藩の重臣等に大砲の瞬時移動を依頼していた。それも決して同じ場所に居続けぬこと。いざとなったら大砲を捨て置き、すぐ逃げるようにと。それだけである。
 笹尾山に隠れていた甲賀衆が右京に先導されて炮烙火矢や炮烙丸を手に傀儡兵の後ろから奇襲をかけた。
 最後尾は海野六郎と三名の真田忍者が守っていた。
 斬り合いが始まったが、敵味方入り乱れる混戦に淀君は地獄焔を撃ち込めないだろうという推測で下した右京の判断であった。
 同様に傀儡兵の左側を指揮する根津甚八に対して、裏柳生九名が突撃を試み、右翼は伊織率いる小倉藩藩士が攻め込んだ。伊織の前に鎖鎌を得意とする由利鎌之助が立ち塞がった。
 松尾山上空の淀君がするするっとさらに上昇した。
「砲撃隊が見つかっちまう」
 鷹が飛び立とうとした矢先であった。背後から真田忍者四人を従えた猿飛佐助に襲われた。
 鈴と泰蔵が龍雲と嘉昭を庇ったが、逃げ遅れた儀兵衛が後ろの肩口から佐助に斬られた。
「お爺さん!」
 鈴が叫んだ。
 トリカブトの毒を塗った刃である。儀兵衛の体に毒が回った。すぐに与吉が儀兵衛を抱き抱えて鈴の後ろに下がったが、持ち場に戻れと与吉を叱責してそのまま絶命した。
 体中に真言を書き連ねた泰蔵が忍者一人を斬り捨てた。
 龍雲と嘉昭を背にした鈴が聖剣を蜻蛉に構える。鷹と泰蔵が鈴の隣を固めた。
 佐助と四人の忍者が取り囲むようにして間合いを詰めてくる。
 上空で淀君が火焔を連射した。大砲を牽いて移動する隊が見つかったようだ。運搬する火薬に火焔が引火し丸山の裏側で大爆発が起こっている。
 突然、甲羅を半分失った玄武が大空に舞い上がると右京達のいる傀儡兵の最後尾に落下して行った。まだ海野六郎が戦っている最中であった。
「右京!」
 嘉昭が思わず驚愕の叫び声を上げてしまった。
 その声に動揺して振り向く鈴に真正面の忍者が斬り付ける。
 鈴の左隣にいた泰蔵がその剣を跳ね退け飛び出すや、右側の忍者が泰蔵に片手突きを放った。すぐに鷹が体当たりをしてその男を弾き飛ばす。
 泰蔵が神速の剣を打ち落とし真田忍者の肩口を割った。しかし、背中の護符に切っ先が届く前に忍者が筋肉を固め、泰蔵の剣を挟み、泰蔵を両腕でがっしりと掴んで体を入れ替えた。
 鈴が泰蔵を救うべく斬り込んだが、その前に佐助の剣が、動けぬ泰蔵の背中を斬り割った。
 雷雲を突き破る気合を発した鈴が鳥影の速さでカリブルヌスの剣を連打した。一度に三人の真田忍者が灰塵となって消えた。二人は鈴の剣によって、そして一人は鷹の紅蓮であった。
 鷹が結印したまま震えていた。いくら目の前で泰蔵が殺されたと言え、相手を殺す気で紅蓮を放ったのは初めての経験だったのだ。
「馬鹿! しっかりしなさい」
 すぐにでも泰蔵の生死を確かめたい鈴であったが、まだ気を抜けない。剣先を微妙に揺らし、鬼灯の如き紅い眼で隙を窺う猿飛佐助がいる。
 時折、佐助は甚振るように手裏剣を飛ばして来る。
 胸の前に剣を構えた鈴が必死で撥ね返す。
 避け切れず喉に十字手裏剣が当った儀兵衛の弟子が口から血を吹いて斃れた。十字手裏剣に塗ってあるトリカブトの毒が速攻で体を回ったようだ。
「あんたを守っている余裕はないんだからね!」
 佐助を睨みながら隣のぼんやりしている鷹を叱った。
 しかし、叱責する鈴の声は鷹の耳に届かなかった。茫然自失の鷹を狙って佐助が飛び込んだ。
 鈴が庇う間もなく佐助の黒い剣が鷹に撃ち落とされたが、鷹の脳天に刃が触れる寸前に発動された防護壁に守られて、佐助の刀が砕け散った。
 すぐに鈴が右京譲りの雲耀の撃ち込みで佐助を攻撃したが、身代わりの術で躱された。鈴の剣は丸太を真二つに裂き割っただけだった。佐助は大きく後ろへ跳躍し、まだ用心深く鈴や鷹を狙っている。
 すぐに鈴と鷹が佐助を牽制しながら泰蔵を抱き起した。
「小父さん、死んじゃ駄目だからね。怒るよ!」
 鈴が揺り動かすと泰蔵が虫の息で目を開いた。
「右京が生きておる!」
 視界の端に見えた右京の姿に嘉昭が叫んだ。
 粉塵の陰から関の藤川に向かって走る男が見えた。背の高い右京に間違いなかった。
 その声が泰蔵に届いたのだろう。血の気の引いた顔にうっすらと笑みが零れた。
「お鈴坊、全てが終わっ……たら、おんシを養……女に……江戸で暮らそうと………」
 泰蔵が吐血した。
「喋っちゃだめだよ。小父さん、目を開けて、お願いだから、目を開けてよ!」
「泰蔵のおっちゃん、聞こえるかい? 起きなよ。今までいろんな局面を斬り抜けてきたじゃないか。こんな所で死ぬなよ。そうだ! まだ四郎兄ちゃんのお宝を見ていないだろ。とんでもない財宝だぜ。見るまで死んじゃだめだ」
 毒に抗する体質へ訓練された泰蔵の体も血が流れ過ぎた。
「……宝とは……福智山の……銀六……達じゃろ。いい宝じゃった。次は、肉の入った猪鍋を喰いたか……」
 鷹の腕の中で、最期に笑った泰蔵の首ががくんと曲がった。
 鈴が悲鳴を上げた。
「鈴と一緒に暮らすのであろうが、しっかりせよ」
 嘉昭も泰蔵を揺り動かしたが、もう二度と目を開くことはなかった。
作品名:金色の鷲子 作家名:小石 勝介