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小石 勝介
小石 勝介
novelistID. 28815
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金色の鷲子

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 護摩壇に手を掛けた右京が一人の真田忍者の足を引っ張り、下に落とす反動で護摩壇へ飛び乗り、別の真田忍者を護符ごと袈裟がけに斬り落とす。直ちに灰塵となって消滅していった。その間、連也斎も三人の忍者を下へ蹴り落とした。その隙をつき、才蔵が連也斎の死角から低く足を狙って剣を払った。連也斎は跳び上がって躱すと反射的に体を捻るや才蔵の頭頂めがけて剣を撃ち落とす。その神速の打ち込みを才蔵は手に嵌めてあった鉄甲で挟み受け白刃取りで連也斎の肥後守秦光代を取り上げた。互いに顔を合わせて笑ったのは瞬時であった。たちどころに連也斎は才蔵の襟首を絞め上げ馬乗りになった。
「柳生を剣だけだと侮るなよ。絞め落としてやろう」
 才蔵は口を閉じたまま笑うと連也斎を下から動けぬように肩を押さえ針を吹く。間髪を入れず連也斎は首を絞め上げる腕を離し才蔵の腕を捻り上げ身を躱した。そのまま連也斎は逆らわずに体を入れ替え才蔵の裏を取ると、即座に左腕を絞め上げ固める。柔術は才蔵も得意であったが、才蔵の技は連也斎の力で封じられた。体をくねらせながら逃げようとする才蔵が護摩壇の端に右手を掛け、左腕が折れるのもそのままに上半身を外へ逃がした。連也斎は、足を絡めたまま才蔵と共に護摩壇から下へ落ちる途中、鬼庖丁と異名を持つ脇差を激しく抗う才蔵の背中へ突き立てた。
 途端に無念の声を上げた才蔵の体が砕け散った。
 護摩壇の上は豊全と右京だけが対峙している。しかし、結界に身を守られた豊全に対する攻め方が右京にはまだわからない。結界を解かぬかぎり側には寄れず、また至近距離だと豊全の放つ火焔を躱すことができない。
 焦る右京に勝ち誇って笑う豊全が右京に向けて独鈷鈴を振り上げた。
 まさにその時であった。旭川の水中から護摩壇に向けて収束した密度の高い火焔が飛んできて祭壇を破壊した。その爆風が豊全を吹き抜け、一瞬結界の効力を失くすや、一閃、右京渾身の必殺剣が唸った。豊全の血を乗せた刃風が遙か上空の雷雲まで斬り裂くほどの勢いであった。
 天上から雷鳴が轟きわたり、怒りの叫喚がだんだん大きくなる雷と共に地上へ降り続けた。
 左肩から深く斬り込まれた豊全が右京を指差して苦悶の表情を浮かべた。
「儂が………法力……で、甦らせた太母様の怨念………怒りがこれほどのものとは思わなかった。それを祈祷で抑えていたのよ。儂がいなくなれば、豊臣による天下一統の夢……は潰えた。後は………知らぬ」
 右京が、豊全の襟を激しくつかんで揺さぶった。
「何を知らぬと言うのじゃ!」
「……後は、滅びるだけ……じゃ。太母様の宿怨………その深さは計り知れぬ。誰にも……止められぬ」
 事切れた豊全に向かって右京が何度も問いかけた。笑いながら死んだ豊全に対し、淀君を消滅させるには如何にすればよいかと、物言わぬ死体に向かって叫んだ。
「早まって、殺すからじゃ。ちゃんと捕まえて口を割らせばよいものを」
 霧隠才蔵を斃した連也斎が壊れた護摩壇に飛び戻り、右京に皮肉を浴びせる。
「何、言ってるんだい。柳生のおっちゃんも先に護摩壇に着けば、豊全を殺すつもりだったくせに。右京の兄ちゃんに先を越されて悔しいんだろ?」
 ずぶ濡れの鷹が必死に護摩壇へ登って来た。相当体力を使い果たしたようだ。
「生きておったか………心配したぞ」
 右京が鷹に駆け寄り手を差し伸べた。連也斎が驚いた顔で鷹を見た。あの赤い鳥が鷹の変身した姿だと途中で気付いたが、旭川に飛び込んだ後、姿が見えなくなったので死んだと思っていたのだ。
「でも豊臣の天下統一を邪魔したんだからいいじゃないか。後は、あの怖い小母さんだけだ」
「それが一番厄介なのではないか」
 連也斎が珍しく憮然な顔で言い捨てた。
「おっちゃんが考えたのかい? 地獄焔を反射させようなんていい思い付きだったけど、あれじゃ駄目だ」
「それならどうすればよい」
「おいらにもわからんよ」
 むっとした連也斎と鷹の間に、右京が血振りした刀を鞘に収めながら割って入った。
「これからのことを話し合いたい。共に京都へ参ろう」
「京だと?」
 連也斎が怒声を上げた。
「鷹の朱雀を見たであろう。今は共に手を取り合う時ではないのか。徳川の世を守るために、この国の未来を守るために」
 連也斎が顎に手を当てて沈思黙考した。再び顔を上げると鷹に顔を向けた。
「まだ助けてもらった礼をしていなかったな」
「いいよ。その気もないくせに、慣れないことすると体を壊すよ」
 連也斎は鼻でふっと笑うと、右京に向き直った。
「仕方あるまい。じゃが足手まといと感じた時はすぐに抜けるぞ」
「あああっ…………」
 突然、鷹がすっとんきょうな大声を上げた。
「そうだ。うっかりしていた。最後の仕上げをしなきゃ」
 右京が不思議な顔をしたのを見て鷹が笑った。
「豊全が死ぬ間際に笑っていたのを覚えているかい? 転生するつもりなんだ。おいら達がいなくなって、小母さんの霊力が回復したらね」
 鷹は豊全を背負った。
「豊全の魂魄共々この世から消して来るよ。すぐ戻って来るから待っていてくれよ。それからおいらきっと腹空かせて戻るから、飯の用意も頼むぜ」
「どうやって魂ごと葬るのだ?」
 連也斎の立腹したような声に鷹は慣れてきたようだ。声から受け取る感じほど怒ってはいない。
 鷹は豊全を背負ったまま、朱雀に変身すると大空高く舞い上がっていった。しばらくして、星が光ったように爆発が起こり、さらに甲高い絶望に打ちひしがれた悲鳴が天を揺るがした。その怨嗟の絶叫は、いつ終わるともなく天上からずっと右京等を攻め続けた。
 連也斎はこの戦いで命を落とした裏柳生の弔いを済ませると、残った者を引き連れ、疲れ果て能天気な寝息を立て続ける鷹を背負った右京とともに京へ向かった。


小倉藩京都屋敷


 夜半、小倉藩京都藩邸に右京と共に足を踏み入れた連也斎を見て、泰蔵と嘉昭が驚き、あからさまに拒否する態度を見せた。
「何小さいこと言ってんだよ。柳生のおっちゃんのお陰で土御門豊全を斃せたんだから」
 宮本伊織が意表を突かれたのか、いつもの冷静さを失って鷹に豊全のことを問い質した。
「さ、どいた、どいた。おいら達、疲れてるんだから、余計ないざこざを起こさないでくれよ。皆で力を合わせてこれから作戦を立てるんだから」
 右京がざっとあらましを掻い摘んだ報告で嘉昭等を驚かせ、そして黙らせた。
 すぐに広間へ案内されると、四通八達された情報網で呼び集められた信楽衆、水口衆、土山衆などの甲賀忍者四十一人で埋め尽くされていた。上座に座っているのは、第四代京都所司代の牧野親成であった。この年四十になる牧野は幼少の頃より第二代将軍徳川秀忠の小姓役を務め、下総関宿藩次に丹後田辺藩の藩主を歴任し三年前から京都所司代の役に就いている。その隣に少し下がって小倉藩京都留守居役が控えていた。
 連也斎を筆頭に生き残った裏柳生十八名が席に着くと、再度右京が岡山城の顛末を報告した。
 京都所司代の牧野親成が労いも忘れ右京へ膝を進めた。
「市来、池田左近衛権少将光政殿は?」
「怪我はいたしましたが、辛うじて命だけは助かり、運よく戦火を免れました家老の元へ難を逃れております」
作品名:金色の鷲子 作家名:小石 勝介