小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
小石 勝介
小石 勝介
novelistID. 28815
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

金色の鷲子

INDEX|31ページ/59ページ|

次のページ前のページ
 

 だが、幻獣が飛び交う闇の中で一条の光が伸びて行くのをまだ生きている裏柳生達は目にとめた。
 柳生連也斎の打ち振るう肥後守秦光代が、残像のような光の筋を作っていた。
 人の心の隙を突き、惑わせる術など尾張柳生の雄、新陰流正統第五世柳生連也斎に効くはずがないのだ。才蔵の作る幻影を愛刀が放つ剣勢で次々と吹き飛ばしながら、ひとり才蔵に迫って行く。連也斎の勇姿は後に続く者へ勇気を与えた。最後の幻獣が姿を消す前に三本の丸太は、またも傀儡兵を突き飛ばしながら進み始める。連也斎の降魔の剣に裏柳生も完全に闘気を取り戻したのだ。
 幻術が敗れたことを知った才蔵は、九字を切ると大量の霧を発生させ太陽の光を隠した。自分の手の先も見えなくなった視界の中で、刀で斬り裂かれる肉の音と断末魔の声が次々に耳へ届く。大勢の手で抱えられた丸太が地響きを立てて落ちる音がした。
「誰か爆裂弾を打ち、霧を払えっ!」
 諦めない連也斎が叫ぶ。数名の裏柳生が素早く焙烙玉に火を付け、至近距離に投げつけた。
 爆風で霧が薄くなり、丸太の上に立ち剣を振り下ろそうとする才蔵の姿が見えるや、跳躍し丸太に飛び乗った連也斎が才蔵の剣を弾き返した。連也斎得意の上段からの雷刀を紙一重で躱した才蔵は、敵わぬと見て、それ以上連也斎と斬り結ばず丸太を蹴って宙へ飛んで行った。連也斎の刃風で才蔵の眉間から一筋の血が流れていた。その才蔵を目で追った連也斎が、入れ違いに城を越えて西の上空から飛んで来る狂乱した淀君の怨霊を認めた。
 護摩壇まで後三十歩の距離を残していた。
 淀君と豊全が城を挟んで距離を取って布陣したことを千載一遇の好機と判断し、一気に豊全だけでも葬ろうと動いた連也斎の計画が狂った。悔しさに連也斎は奥歯を噛み締めた。まだ地獄焔の対策は完璧ではないのだ。逃げるには遅すぎることがわかっていた。連也斎の心の内がわかった裏柳生の面々も未練がましく護摩壇を見上げた。
 目前で護摩を焚く豊全の動きが慌ただしくなっている。ちらっと振り返って連也斎等を見た顔が嘲っていた。
 雷鳴の中、遙か上空で淀君が連也斎を見下ろして止まった。妖しく笑い浮遊している。僅かだが、すっと高度を下げ、護摩壇を避けるように横へ移動すると連也斎に対峙した。
 連也斎がさっと手を上げて合図した。すぐさま裏柳生の面々は丸太から金属製の箍を外し、真二つに割った。予め切断してあったその面には磨きあげて光り輝く鏡面のような分厚い鋼鉄を貼り付けてある。天空の淀君へ鏡の面を立てた。裏柳生はその後ろに避難する。地獄焔を反射させて撥ね返すつもりらしい。
「駄目だ! あの程度じゃ焼け死んじまう」
 鷹は右京の止めるのも聞かず、走る速度を上げ空中へ飛び出した。
 淀君が紅を多用した辻が花の小袖を翻した。近くで祈祷する豊全が火を被らないように弱めた地獄焔であったが、それでも連也斎や裏柳生を消滅させるに十分な威力で発動させた。その地獄焔が途中で僅かに方向を変えて多くの傀儡兵を高熱で溶かして地面を這って行った。その火焔は埋め尽くしていた東側の傀儡兵半分近くを消失させ、旭川の流れを変えるほどの威力であった。裏柳生が用意した鏡も役に立たず、熱で溶け、支えていた数人が黒焦げになって死んだ。地獄焔の道筋が途中で逸れ、余熱に襲われた分、被害は少なかったようだ。
 天上の淀君と地上の連也斎の驚いた視線の先に真っ赤に燃える鳥が激しい息遣いで翼を羽ばたかせていた。鷹の放出した朱雀が地獄焔の道筋を変えたのだ。正面対決なら鷹の朱雀は圧し返されるが、いい角度で放った朱雀は地獄焔の威力を増したが、着地点をずらすことができた。
 柳眉を逆立て怒りの表情を爆発させた淀君は、鷹に向かってさらに強力な地獄焔を放った。
 それを待っていたのだ。
 鷹の推論が正しければ、これでしばらくは火焔を出せなくなるはずである。鷹は高速で大空高く舞い上がった。鷹に照準を合わせた焔が生き物のように追いかけてくる。胸のクルスがめまぐるしく光の色を変え、点滅し始めた。しかし、四郎の防護壁も速さに追いついていけないようだ。あわやの所で鷹は反転し、空気抵抗を減らすために人の姿へ戻ると急降下を始めた。焔はさらに執拗に追ってくる。鷹は、地上すれすれで地を蹴り、転がるように、旭川へ飛び込んだ。
 地獄焔は制御が効かず地面に激しく衝突すると、辺りにいた傀儡兵を破壊消滅させ地面を削りながら鷹を追いかけ、旭川を一瞬干上がらせる。すぐに上流から絶え間なく流れ来る水によって川は元の流れを取り戻し、焔を呑みこんだ。
 豊全の祈祷がさらに慌ただしくなった。すでに岡山城は崩壊している。石垣だけが辛うじて残っている状態だった。
 鷹の考えは正しかったようだ。地獄焔の熱量を使い切った淀君は濃い疲労の色を浮かべ、忌々しそうに北の空へ消えて行った。
 それを待っていたかのように一頭の馬が連也斎の横を駆け抜けた。護摩壇を目指しているその馬に人の乗っている姿がなかった。傀儡兵が一斉にその馬から豊全を守るように動き始める。
 馬から放たれる凄まじい殺気を感じた連也斎が直感で後を追う。生き残った裏柳生も連也斎を追いかけた。
 馬の腹に隠れていた右京が体を翻し、抜刀するや鞍を強く蹴って護摩壇に飛び移った。
 遅れて連也斎が護摩壇に駆け上がった時には、既に右京の剣が唸っていた。
 だが、あと一寸まで迫った右京の剣が砕けた。すぐに連也斎が豊全に斬りつけたが、やはり肩口まで振り落とされた剣が弾かれた。強力な結界が豊全の体の周りに張り巡らされているらしい。
 立ち上がった豊全が連也斎に向けて独鈷鈴を振り下ろす。身を躱した連也斎の肩を掠めて火焔が通り過ぎ、下にいた傀儡兵を破壊する。
 さらに豊全は向きを変え右京に向けて火焔を撃ち出した。思わず右京は五尺下の地面へ飛び下り、傀儡兵の持っていた刀を取り上げた。機転を利かせた裏柳生の一人が護符を貼った鎖分銅を投げ、豊全の右腕に巻き付けた。それを見ていた他の裏柳生も次々に鎖分銅を投げ豊全の自由を奪う。
 豊全の後ろの護摩壇では、燃やす護符が途切れた途端、周りでばたばたと傀儡兵が倒れ、地面に浸み込むように融けて行った。
 再度連也斎が豊全に斬り付けたが、またしても結界に弾かれる。
「愚か者めが…………」
 不敵に笑う豊全の隣に、再び霧隠才蔵と数名の真田忍者が空中の霧の中から降下し、豊全の体を縛りつけていた鎖を外した。すぐに豊全が連也斎へ向け火焔を飛ばす。連也斎は向かってきた忍者を捕まえ盾として避ける。火焔が忍者の胸から突き抜け護符を燃やした。
作品名:金色の鷲子 作家名:小石 勝介