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猫遊戯 -オセロ・黒-

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2.素直な気持ち



-ほんとはね、しってたんだ。
 この時間がうそだって。
 でもねほんとに、大好きだったんだ。-


その日は雨だった。
目が覚めたの理由は、声を聴いた気がしたから。
耳の近くで囁かれているような、こそばゆい感じ。
何となく気分が悪くて、むくりと起きる。
何時も聴こえているのだが、今日は更に酷かったからだ。
気になって眠れない。
眠る気になれない。
隣を見ると、君はまだすやすやと可愛らしい寝息を立てている。

-くちびるがきれぇねー。-

一瞬不謹慎な事を考えていた。
きっとそれをやって君が目を覚ましたら。
今まで以上の怒鳴り声と、怒りを持って僕を嫌うだろう。
それとも、今まで見たことのない表情をしてくれるだろうか。
でも多分それは、僕の好きな君の表情ではないから。
やるのをやめた。

するりと寝床を離れて、洗面所へ向かう。
聞こえる音が外のからの音だと少し安心する。
見度に落ちる音たちは、生命の源。
僕らも、水の中で育ち、そして生れた。
そう、その人は伝えてくれた。

顔を洗っても、余り目が冴えない。
元々朝は強くない。
眠い眼を擦りながら廊下を歩いていると、とん、とぶつかった。

「あ、おはよう。」

その人が僕に朝の挨拶をする。

「おはよー」
「良く眠れた?今日は随分と早いんだね」
「うーん、そ?」

素っ気無い返事にその人は、にこりと微笑みながら、君にするように手を僕の頭に乗せる。
ただ何も言わず、僕の頭を撫で続ける。
手の温度を僕はずっと受け続ける。
君が起きるまで、このままでい続けるつもりなのか。

-どれ位やるんでしょーねー。-

気になって、黙っている。
どれくらいの時間が経過したのか。
まだ続いている。
本当に僕の想像したとおりになりそうなので、僕は珍しく自分から話題をふってみた。

「さてきょーは、なんの日でしょうかぁ?」

上目遣いで、その人の方が僕より高いから必然的に見上げる事になるのだが、質問してみる。
やはりくすり、と笑って、おいでと僕を台所へ手招きする。
台所は何時も綺麗だ。
その人は掃除が好きで、暇さえあれば箒をかけ、雑巾をかける。
氷の棚から、箱を取り出した。

「あの子には、まだ内緒だよ」

二人で指切りをして、蓋を開ける。
そこには、小さな白いケーキ。

-なんだ覚えていたのね。-

心がくすぐったかった。
その人を見上げると、にこにこ、している。
あの子が起きたら一緒に食べよう、としまおうとする姿を見て。
思いついたことがあった。

「ちょーっとまってぇ。いい事したいなぁ~」

耳元で内緒の作戦会議をする。
嫌な顔をすると思ったら、やろう、とあっさり承諾。
珍しく思いつつも、僕は、君の見たことのない表情を。
安心する場所で観察する機会を作ることに成功した。

案の定。
君は、僕が頭で描いていた通りの顔を見せてくれた。

-得したなぁ。-

満足満足の僕。
最高の贈り物だった。

ケーキも三人で分けて、幸せをかみ締めて横になる。

-朝はやかったしぃ-

瞼を閉じようとすると、耳鳴りが強くなった。
今までの中で、一番嫌な音だ。
暴れたい気分だったが君が隣にいるから、我慢した。
少し経つと、その人の影が上から降ってきた。
見ると、重そうなものを抱えている。
体を起こして、眺めてみて本だと気が付く。
古びた表紙。

-…。-

何故か。
声が聞こえた気がした。
何て言っているか分からないけれど。
確かに、「声」だと分かる。

「お前達には、選ぶべき道がある。呼ばれた方を手に取りなさい」

その人は、そう口にした。

声は、まだ聞こえる。

-……。-
-あんまり直接話しかけてくると。おこるよー。-

声の主に、ちょっと眼を飛ばしてみる。

声は、はっきりとした「笑い声」に変わった。

-何だ、君には既に聴こえていたのか。-
-うーん。そね、きこえてたよ。-
-今日は、眠りを妨げたようだね。悪かった。-

「声」の主は、あっさりと謝ってきた。
声はやっぱり笑ってはいる。

-分かったなら、さっさときえてちょーだいな。-

本音を口にすると、

-いや、そうはいかない。-

先程の声色とは、全く違うもので否定してきた。

-これから君たちの運命を、視線の上のものが説明するよ。-

まじめなトーンを崩さずに、その人が次にやろうとする行動を伝える。
そして、

-又、逢おう。-

と短く言って消えようとしたので

-いぃや。-

と僕は拒否を表現する返事をしてやった。
声の主は笑いながら、又逢う事になるよ、と残して…消えていった。

差し伸べられた本。
君はまだ迷っているようだ。

-ゆーじゅぅふだんねぇ。-

僕は、「声」が聞こえない方に手を伸ばす。
多分先程のやり取りが気に食わなかったからだろう。

「じゃー、こっちぃ」

右手から、するりと本を取る。
想像以上に重かった。
とりあえず床において、君の出方を待ってみる。
案の定、やられたっ、という表情だ。

-おもしろいなぁ。もうちょっと、困らせたいなぁ。-

僕は手を本の上から乗せて、「あげません」ポーズをとって見せる。
かなり悔しそうだ。

-あぁ、きょうは、いい日だぁ。-

心が弾む。

ふいに声が降る。

「お前達に昔話をしよう」

その人の話は、夜に展開する。
今日は。
窓に薄い光。
雨の日の空の光。
雲に覆われている光。
まだまだ月と星のデュエットが聞ける時間ではない。
なのに、「昔話」をするという。
胸に残る靄を払う事も出来ぬまま、僕と君は、その人の話に何時もどおりに耳を傾ける。

その昔、世界は一つだった。
思いも一つだった。
信じるものは沢山あった。
それでも、人々は平和に暮らしていた。
何時からだったのか。
誰のいたずらか。
何の望みか。
人は、与えられていながらも隠していた力を使って。
世界を塗り替えた。

線を引き。
空気を汚し。
水を不透明にして。
空まで届かんとする建物を建設し。
創り上げられた摂理を、曲げ始めた。

「そして…」

この世界を創ったとされるものが、結論を急ぐが為に。
一つの「出来事」を作った。

その出来事には、それぞれの時間が与えられ。

「世界を救うか」
「世界を破壊するか」

そのどちらかを選択させる、と言うものだった。
人の手によって創られたものに。

-救い、破壊される。-

どちらかを選ばせると言うのだ。
ありきたりで、そして馬鹿げた話。
誰が聴いてもそう思う。

僕の心は、冷め切っていた。

-じゃぁ、世界をすくおーとする出来事は、どんなじんせぇを送るんでしょうね-

それはとても、単純でつまらない気がした。
本当は消したいはずなのに、それを最後まで見捨てない。
広い心…というのか、自愛の心というのか。

-その心は、何に似ているのだろう…。-

君の想像が気になって、目を動かす。
君は不安を感じたらしい。
顔色はよくない。
その人は気が付いて、何時ものように君が好きなその人からの温もりを受けていた。
何時もの光景。
今度は僕が安心できなかった。
その人は、何故か泣いている。
何故泣くのか、分からない。
泣く時は、寂しい時。
作品名:猫遊戯 -オセロ・黒- 作家名:くぼくろ