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猫遊戯 -オセロ・黒-

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1.昔話



-むかーし、むかーし。
 何だかかわった事はなかったけれど。
 とっても、しゃーわせなことがあったんだ。-

僕は陽だまりの中にいた。
暖かくて、ぽかぽかで。
とっても幸せだった。
緑が光り、聞こえる川のせせらぎ。
美味しい魚もあそこで取れる。
今日は何をしようか、と思案するのが楽しい。

今日は、特に気持ちがいい。
美味しいものを沢山食べたからか。
その人と、今僕の隣に居る君の顔を見て嬉しく思うからか。

-そうだなぁ…。-

珍しく生れた日のことを思い出してみる事にする。

頭の上で誰かの声がして。
手招きされて、僕は目が覚めた。
まだ良く見えない目。
霞の向こうに見えたのは、灰色。
でも、キラキラしていた。
空から降る何かのように。
後から思えば、そんな感覚だった。
立ち上がろうと踏ん張ってみると、がさり、と音がする。
音がする方へ意識を向けてみると、目が開いていないが、動きのある物体がいた。
それは、今後僕と喧嘩ばかりする、生まれたての君だった。
必死に生きようとする姿に、僕の瞳は釘付けになり。
そして、開き行く君の瞳に、恋をした。

-きれーな目ですなー。-

上からは、灰色の何かがとても心配したように、君を見つめる。
手を出さないと言う事は、「出してはいけない」と言う事なのだろう。
だから僕も、手を出さなかった。
そして、僕と焦点が合ったとき、僕はつい本当のことを口にしてしまった。

-よだれ、ついてるぞー。-

思えば失礼だったのかもしれない。
その時は瞬時に反省できなかったが、今では深く深く反省する事が出来る。

僕は君が好きだ。
途轍もなく好きだ。
そう伝えているのに、君は迷惑そうな顔をする。
時々怒ったりする。
訳が分からないので、その人に聴いてみた事があった。
するとその人はくすり、と上品に笑って、

「それはね、きっと照れているんだよ」

と教えてくれた。
誰かに好きだと思ってもらえる事は、幸せな事であり。
最もこの世界の中で大切な事だと思う。

僕は君が好きなその手を、奪うつもりはない。
君を外で見ているのが好きで、その人はそれを理解している。
深い眠りに落ちる頃に、そっと近づき僕の額に唇を落として、優しく撫でる。

陽だまりの手。
この人は、この手を手に入れる為にどんな苦労してきたのだろうか。
考える時がある。
答えは出ることはないのだけれど。
途方もなく遠い距離に、届けと僕の小さな手で、小さな塵を飛ばしているような感覚で。
無意味な事で、一生分からない事だと。
僕は分かっていた。

だから、今在るままを受け取る。
その人の隣にいる、君と僕。
ずっとそのまま。
君が僕のことをちょっと嫌いでも。
この関係のままであることが、重要。

大切なものがあって、それを守れる力があるのならば。
今出来る全てをもって。
太陽が輝く時も。
月が欠ける時も。
雲が空を覆う時も。
見上げると涙の筋が見える時も。
僕は今を、生きていた。


作品名:猫遊戯 -オセロ・黒- 作家名:くぼくろ