WHITE BOOK
悲しみ。想楽が忘れた感情。それのみを持つ誰かの視点に立っていることが分かった。
そういえば、私はいつ「悲しみ」をなくしたんだろう?
夢の彼女――髪の長さから女性と判断した――も、なんらかの原因で悲しみ以外を欠落した。想楽も、記憶にはないが何かがあって悲しみを欠落したのだろう。なんだか、他人とは思えない。
思い浮かぶのは兄、一保の死。あの時は悲しみが間違いなくあったはずだ。その後から今までの間のどのタイミングなのか。
携帯の時間は相変わらず5月14日13時50分。電波もなく圏外だ。
茶髪の男のところに、屋敷と紅茶、背が高いと入力。一番上に改行を加え、そこに「視点=悲しみだけの女性、長い黒髪」と追加する。
全員の不思議そうな視線を浴びつつ、入力を終えて携帯を閉じた。
「おまたせ。さぁ、行こっか。」
作品名:WHITE BOOK 作家名:アリス・スターズ