WHITE BOOK
部屋の中が香ばしい香りに包まれた頃、入れ替わりに入ってきたのは、少女だった。おそらく彼女が、先程出て行った男性に「姫様」と呼ばれていた人だろう。
ブラウンの瞳、青い髪。しっかりと日焼けした肌。背の高さは想楽と同じか少し低いくらい。年も近いだろう。ドアの前に立ちつくしている想楽を見つけて、少女はにっこりと微笑んだ。
「目が覚めたんだね、想楽。」
そのはきはきとしたソプラノの声にも、聞き覚えがあった。
「ええと、まさか……?」
想楽は得意の脳内変換で、少女の服装を緑のワンピースと白いエプロンから、駅で見た白いローブに変えてみた。
「あの時、この本をくれたのは君?」
行き着いた答えはそれだった。
「うん、そうだよ。」
少女の返事も肯定だった。
彼女はゆっくりと想楽の前に歩み寄り、そして深々とお辞儀をした。そんなことをされる身分になった記憶のない想楽は、焦りの表情を顔に出す。
頭を上げた少女は、言った。
「本がもう言っちゃったかも知れないけど……epochへ、ようこそ。」
少女の右手の人差し指に、黒い螺旋模様があることに、想楽はその時気付いた。
作品名:WHITE BOOK 作家名:アリス・スターズ