WHITE BOOK
第16章:夢(Dream)
「お前は、大切なものを得た時は何を思うんだ?」
訊ねたのは、若い男。その質問の意味が分からず、首をかしげる。
「あぁ、もしかしたら何も感じないのかもな。」
感じるものが多すぎてそう感じるのかもしれないけど、と男は空を仰ぐ。暑い日だというのに、彼は長袖のジャケットを羽織っている。
あぁそうだ、と思い立ったように。
「逆に聞こうか。お前にとって俺達って大切な存在か?」
それは理解できる質問。回答も、頷くだけで返せるものだ。
「うん、ならいいや。俺にとっては、そっちのほうが大切。」
喜びは人を幸せにするからな、と満面の笑み。結局何を言いたいのかは分からなかったが、彼を見て同じように笑顔――ぎこちないものだが――を浮かべた。
「人生って、いつ“サイゴ”が来るか分からない。欠落したお前より、全部持ってる俺達の方が先に“サイゴ”を迎えるかもしれないけど……同じ、幸せな“サイゴ”を見たいもんだ。」
見上げた空は、明るかった。
作品名:WHITE BOOK 作家名:アリス・スターズ