WHITE BOOK
なぜだろう。
本来なら、そんな大切な人達を一気に、そして一瞬で理不尽に奪われたなら、何かしら感じているだろう。
それなのに。
想楽の心はぽっかり穴が開いているように、何も感じない。
「嵐さん……つらかったでしょうね。」
そのセイファーの言葉すら、心の穴を通過していくだけ。何も感じることのない自分が、あまりにも空気を読んでいない気がして、少し居心地が悪い。
「でも、乗り越えられたんですよね。その悲しみを。」
そう、悲しみ。
想楽はその単語ですら忘れていた。
「あぁ、乗り越えた……というか、その事実を『思い出した』のは4年半も後の話だ。」
「え?」
ようやく理解できる感情が表れる。
「俺は、両親が殺されたこと、妹がさらわれたこと――どころか、妹がいたという事実さえ、忘れていたんだ。」
それは、驚愕。
「――エリザに暗示をかけられて、な。」
作品名:WHITE BOOK 作家名:アリス・スターズ