WHITE BOOK
この時間だと電車も空いている。
彼女は運転席に一番近い、この時間の特等席ともいえる席に座って、左に手鏡、右に手櫛というスタイルで、頑固な寝癖に対して最後の悪あがきをしていた。
本来ならもっと違うことができたのにと昨日の自分に腹を立てながらも、律儀に直そうとする今の自分がなんだか情けなく思えた。
努力のかいあって、到着を告げる電車のアナウンスが聞こえるまでには、あれだけ悲惨だった寝癖も目立たなくなっていた。
――まもなく、新代学園駅に到着いたします――
手櫛をとめて、ブルーの通学かばんに手鏡をしまい、肩を過ぎるほどの黒髪をひとつに束ねながら、定位置に入った赤い革のパスケースを確認する。この通学かばんもパスケースも、もう1年と少しの付き合いになってしまった。
作品名:WHITE BOOK 作家名:アリス・スターズ