WHITE BOOK
瞬く間に雨は強くなり、そこにある全てのものを上から下までずぶ濡れにしていく。髪は水を含んで重くなっても、左手は軽いままだ。目を向ける余裕は無いが、白本は水濡れに強いのかも知れない。
トラックの中の人も全員が無事逃走に成功し、想楽のポニーテールの先から滴が落ちるのが分かるようになった頃、頼斗のほうを向いて構えていた男が呟いた。
「……サクラギ ソラってどいつだ?」
それは、想楽自身の名前。
「私だけど?」
少し戸惑いながら返答する。男は戦闘の構えを解き、想楽のほうを振り向いた。水に濡れてもなおボリュームのある緑色の髪。瞳の色はこの世界でもあまり見ない紫色。首には革で出来たチョーカー。この蒸し暑い季節にもかかわらず、長袖のジャケットを着た彼の表情はひどく寂しそうだ。
「すまねぇな。」
「え?」
予想外の言葉に驚く。構えていたペンを下ろし、聞き返す。
「攻撃しようとしといて、どういうこと?」
作品名:WHITE BOOK 作家名:アリス・スターズ