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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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あやかしの棲む家

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 美花に見つめられたるりあは急に駆け出した。
 正面門から戻ってきたるりあは瑶子に抱きついた。
 瑶子は少し困った顔をした。
「ああ、ああ、素足のまま外に出て、そのまま上がっちゃ駄目じゃないですか。すぐに台所で流しましょうね」
 自分を抱きかかえて歩き出す瑶子をるりあは見つめた。
「あいつ冷たいお茶飲みたい言ってた」
「あいつって美花さまのことですか? 駄目ですよ、美花さまのことあいつだなんて」
 るりあは首を横に振った。
「男言ってた」
「男の方ですか? もしかして車を運転して来た方ですか?」
 今度は首を縦に振った。
 台所に着き、足を流していると、勝手口から何者かが入ってきた。
「お茶用意してくれました? って、さっきの子じゃないのか」
 入ってきたのは克哉だった。
 驚いた顔をした瑶子だったが、すぐに気を取り直して笑顔になった。
「こんにちは、運転手の方ですよね?」
「運転手っつたら運転手ですけど、職業は運転者じゃなくてルポライターなんで」
「ルポライター?」
「三流雑誌の記者ですよ。あと美花ちゃんとの関係は、美花ちゃんを預かっていた家の息子です」
「そうだったんですか! 美咲さまがお世話になりました」
「いえいえ」
 満更[まんざら]でもない様子で、克哉は無精髭を触りながら笑った。
 克哉はなにかに気づいて顔を下に向けた。服をるりあに引っ張られていたのだ。
「どうしたお嬢ちゃん?」
「男、男」
「男に決まってるだろ。俺が女に見えたらそりゃ重傷だ」
 瑶子はすぐにるりあがなにを言いたいか察したようだ。
「るりあちゃんはきっと男の方が珍しいんですよ。あたしもですけど。この屋敷には男の方がいないので、男の方と言えば定期便で荷を運んで来てくださる方を遠くから見るくらいで、るりあちゃんの場合は」
「男を知らないなんて可哀想だな。そりゃ、男が女を知らないのと同じくらい可哀想なことですよ」
 克哉が笑った。
 靴を脱いだ克哉が土間から床に上がった。
「おじゃましますよっと。さてと、美花ちゃんたちはどこかな」
「それなら屋敷に入ったらすぐに静枝さまのお部屋に向かわれたと思います」
 瑶子が克哉の背に声を掛けた。
 振り返った克哉は愛想よく笑った。
「どうも。ちょっと探して来ますんで、お茶用意してもらえます? 冷たいやつ。あとで取りに来ますんで」
 台所を出て行く克哉にるりあはついて行った。
 しばらく廊下を歩いていると、角を曲がって現れた三人が前を歩いて行くのが見えた。
 克哉はすぐに声をかける。
「美花ちゃん!」
 すぐに美花が振り返った。
「克哉さん、どこに行っていたのですか?」
「車を停めてたんだよ。これからお母さんに会いに行くんだろ? 俺も行くよ」
 だが、その前に立ちはだかる菊乃。
「静枝様は美咲様と美花様だけをお呼びでございます。静枝様にご挨拶なさるのなら、ご家族での話が終わってからになさってください」
 そして、るりあに顔を向けて話を続けた。
「るりあ様も決して邪魔をなさらぬように」
 すぐさまるりあは克哉の背に隠れた。
 克哉はるりあを抱きかかえた。
「そういうことなら俺らは退散しますか。台所で茶でも飲んで待ってますよ」
 るりあは駄々をこねるように足をじたばたさせたが、克哉は構わす抱きかかえながら歩き出した。
 しばらく歩き、三人の姿を見えなくなったところで、克哉が悪ガキのような顔をして口を開いた。
「お前も気になるんだろ。俺も気になるよ、静枝さんとやらも早く見たいし、帰って来た娘にどんな話をするかもな」
「降ろせ男」
「降ろしてもいいが、秘密の場所に連れてってやんないぞ?」
「なんだそれ?」
「いっしょに来ればわかるさ」
 克哉は屋敷の中を歩き出した。まるで道を知っているようだ。
 廊下を歩き、なにかを探すように克哉は辺りの壁を調べた。
「見取り図は頭に入ってるんだが、地図と実際の道は違うからなあ。あった、あったこれだ」
 木目の壁が開く。一見してただの壁だが、実は隠し戸になっていたのだ。
「お前なんで知ってる?」
 るりあは克哉を睨みつけた。
「恐い顔しなさんなって。企業秘密ってことで勘弁な。お嬢ちゃんと俺だけの二人だけの秘密だぞ、そういう秘密ってわくわくするだろ?」
「…………」
「しないのか。まあいい、とにかくほかの奴らに見つからないうちに、さっさと上がっちまおう」
 上へと続く階段。この屋敷に二階はない。そこにあるのは屋根裏だ。
 埃だらけの屋根裏部屋。長らく使われていなかったらしく、積もった埃に足跡一つ無い。
 克哉は唇の前で人差し指を立てた。
「静かにな。下にいる奴らに気づかれないように」
 屋根裏を歩きながら克哉は古びた手帳を取り出した。そこに書かれた何かを頼りに、ここで何かを探しているようだ。
 克哉の足が止まった。
 静かに床に這いつくばり、床の埃を払った克哉は、なにかを指差した。
 近くでしゃがみ込んだるりあはそれを見た。小さな穴だ。天井に開いた小さな穴。
 まず克哉がその穴を覗き込んだ。すぐに顔を上げて、指でその穴を覗き込むように仕草で示した。
 るりあは穴を覗き込んだ。
 見える。
 屋敷の中だ。
 そこはちょうど静枝の部屋の真上だった。