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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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あやかしの棲む家

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 静かにるりあ繭を見つめ続けている。
 ときおり、繭の中で何かが動く。まるで母胎で眠っているようだ。
 慶子はこの部屋の鍵をるりあに握らせた。
「差し上げますわ。これでこの部屋はあなたの自由。何をしても構わないけれど、この子たちに万が一のことがあったら、あの子がこの屋敷に帰ってこられなくなりますわ。それはそれで愉しげかもしれませんけれど」
「…………」
 るりあは慶子を見つめたまま黙っている。
 妖しく微笑んだ慶子はるりあに背を向けた。そして、そのまま無言で部屋を出て行ってしまった。
 残されたるりあは部屋を見回し、この部屋をあとにするこにした。
 部屋を出て重い扉を閉めると、錠で鍵をかける。
 鍵を強く握り締めながら、再びるりあは屋敷の中を駆け出した。
 廊下の向こうにいる瑶子と目が合った。
「探しちゃいました」
 安心するような顔をする瑶子にるりあは飛び込んだ。
 手を握る。
 るりあの空いた手に鍵が握られていることに瑶子は気づいた。
「その鍵はどうしたんですか?」
 尋ねられたるりあは奪われると思ったのか、恐い顔をして鍵を持った手を遠くに伸ばした。
 瑶子は笑った。
「取ったりしませんよ。その大切なものなんですね。るりあちゃんの物なんですか?」
 るりあは頷いた。
「そうですか、なら無くさないようにしましょうね。ほら、鍵にひもを通す穴が開いてますから、ひもを通して首からぶらさげることにしましょう。それなら無くしませんよ?」
 またるりあは頷いた。
 さっそく瑶子はるりあの手を引いて、自らの部屋に案内した。
 部屋についてさっそく鍵にひもを通し、るりあの首から提げられた。このときに、裁縫道具を見た瑶子はあることに気づいた。
「まち針で代用できないでしょうか?」
 独り言をつぶやいた。きっと虫ピンのことを言っているのだろう。
 針刺しを手に持って瑶子はるりあに顔を向けた。
「美咲さまのところに行きますけど、いいですか?」
 るりあは頷いた。
 二人は再び美咲の部屋に向かった。
 しばらく歩き、美咲の部屋まで来た瑶子は声を掛ける。
「美咲さま、失礼いたします」
 少し無言で立ったままの瑶子。返事は返ってこなかった。そこで再び声を掛ける。
「美咲さま、いらっしゃいますか?」
 しかし、やはり返事はない。
「美咲さま?」
 念のためもう一度。だが返事はなかった。
 そこで瑶子は静かに部屋の襖を開けることにした。
「美咲さま、いらっしゃいますかぁ?」
 部屋の中に顔を伸ばした瑶子。そのまま辺りを見回すが人影はない。どうやら美咲は部屋にいないらしい。
「いないみたいですね」
 つぶやいた瑶子の服をるりあが引っ張った。
「知ってる」
 短く言ったるりあ。
「知ってる?」
 瑶子は聞き返した。
 るりあは小さく二度頷いた。
「美咲さまの居場所ですか?」
 返事を返さずにるりあは瑶子の手を引いて駆け出した。
 廊下を駆け、途中の部屋を素通りして、るりあは瑶子を屋敷の外に連れ出した。
 もう空は夕暮れだ。
 るりあは本当に美咲の居場所を知っているのだろうか?
 どこかを探しているそぶりはない。るりあは迷わず進んでいる。
 やがて前方に鳥居が見えてきた。
 そして、夕日を浴びる鳥居をくぐる少女の影。
 瑶子たちを目をした美咲は不機嫌そうな顔をした。
「あなたたち、こんなところでなにをしているのかしら?」
 軽く尋ねたように聞こえない。問い詰めるような声音だ。
 すぐさま瑶子が答える。
「美咲さまを探していたんです。これ、虫ピンの代わりになりませんか?」
 差し出された針刺しを見た美咲。
「一応もらっていくわ」
「よかった」
 安堵して瑶子は笑顔になった。
 しかし、美咲はまだ不機嫌そうな顔だ。
「ねえ、瑶子はあの中に入ったことがあるのかしら?」
 美咲が祠を見ながら尋ねてきた。
「祠ですか? なんだか恐くて近づくのもちょっと……。中はどうなってるんですか?」
「?入れない?のならそれでいいわ。ただの穴よ、奥はただの行き止まり」
「そうなんですかぁ」
 瑶子はそれで納得したようだ。
 さらに美咲はるりあに視線を向けた。
「お前は入れるのかしら?」
「…………」
 無言のままるりあは美咲は見つめているだけ。
 瑶子が口を挟む。
「それがどうかしたんですか?」
 美咲は冷ややかに視線を外した。
「あなたたちには関係のないことよ。それよりもこんなところで油を売っている暇はないでしょう、瑶子?」
 夕暮れに向かって美咲は顎をしゃくった。
 はっとする瑶子。
「す、すみません。夕食の支度をしなきゃ!」
 急に慌て出す瑶子は握っていたるりあの手を離した。
「るりあちゃん、これからあたしは夕食の準備をしなきゃいけないんです。だからまたあとでね!」
 忙しくなく早口で言って瑶子は屋敷に向かって駆け出した。
 美咲も鼻を鳴らしてそっぽを向き、るりあを置いて行ってしまった。
 残されたるりあは鳥居の先にある祠を見つめた。