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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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あやかしの棲む家

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「初めて知りました。あと三年なんて、でも……どうして、嘘って言ってください」
「お黙りなさい!」
 怒号が轟いた。
 眼を丸くした静香は涙を浮かべて声を失った。
 静香はじっと口を挟まず動向を伺っている。
 どこか狂気を孕んだ柔和な笑みを浮かべて智代は口を開く。
「白々しい嘘はお止めなさい」
 ――嘘なんて!
 叫びそうな顔をしているが静香は声が出ていない。
 さらに静香は訝しんだ。
 歯車が噛み合っていない。
 静枝の疑惑の眼差しは母へ。
 この世界を信じずに生きてきた。
 もしも信じるものがあるとしたら……。
 静枝の視線は妹へ。
 そして、母と妹を同じ視界に収めた。
 閉めきられた部屋に風が吹いた。
 生ぬるい嫌な風だった。
 人の皮を被った物の怪がいる。
 その物は渦巻く狂気を口から吐くのだ。
「生き残る方法はただひとつ――片割れを殺し、肝を喰らいなさい」
 静枝はぞっとした。
 すでに静枝は母から聞かされていた。だからここでの話を驚かなかった。しかし、今という瞬間は、恐怖を感じたのだ。
 恐怖はどこから来た?
 静香も怯えている。その怯えと、今、静枝が感じているものは少し違う。
 急に静香が立ち上がった。
「それは静枝を殺すということですか! そんなこと、そんなこと……ましてや……嫌、嫌嫌ーっ!」
 部屋を飛び出す静香の背中に智代の怒号が飛ぶ。
「殺すのよ静枝!」
 般若の形相をする母を尻目に静香も部屋を飛び出した。

 廊下で蹲っている美花の肩を美咲がそっと抱いた。
「できるわけ……」
 美花は涙ぐんでいた。
 その泣き声は静枝の部屋まで聞こえてきた。
 畳に這いつくばり悶える静枝。
「嘘つきめ……静香の真似は止めなさい……なにが美花さんのように外で育てられたから……よ」
 静枝はつい先ほど双子の娘に告げたのだ。
 ――片割れを殺し、肝を喰らいなさい。
 過去に母が口にした言葉を自らも口にすることになった。
「残念だったわね静枝。運命には逆らえないと認めて受け入れるの、そうすれば楽になるわ」
 苦しんでいた声音が一変して、どこかあざ笑うような声音に変わった。
 そして、再び苦しそうな顔をするのだ。
「娘たちには決してわたしたちと同じ運命は辿らせないわ。それが例え寿命を縮めることになったとしても」
 片割れの肝を喰らわねば、寿命が尽きる。
 呪いの話は嘘か真か。
 少なくとも娘たちが通常よりも早く年老いていくのは事実。
 そして、静枝も同じだった。
 いつから通常の早さで年老いるようになったのか?
 それは静枝自身がよく知っている。
 では、十で死ぬというのは本当か?
 もしもそれが嘘であったら?
 老化現象は治まらなくとも、姉妹が殺し合いをせずともよくなるかもしれない。
 倍の早さで歳を取るとしたら、よければ四〇年は生きることができるかもしれない。
 姉妹二人がそれでもよいというのなら。
 だが、静枝は知っていた。
「娘たちには長生きして欲しいわ。それとは裏腹に十で死んで欲しいとも願うわ」
 苦悩。
 親として、これほどまでに残酷なことがあろうか。
 静枝が笑った。
「けれど、それはあの子たちの願いかしら? 死は恐ろしい、恐ろしさはひとを変える。どちらか一方が長生きをしたいと願ったらどうなるかしら?」
 苦痛。
「死よりも、死んだのに生かされていることのほうが恐ろしいわ。わたしも、娘たちも、わたしはそれを身を以て知ったわ。すべてはわたし過ちだった」
 いったいなにを言っているのか?
「静枝の過ちは運命を受け入れないこと」
 すぐに否定する。
「弄ばれるのが運命ならわたしはあらがい続けるわ。早く年老い、姉妹で殺し合い、たとえ姉妹の血肉を喰らっても六年あまりで寿命は尽きる。さらに死しても生かされ、わたしの目の前で娘の運命をも弄ばれる。こんな運命を受け入れろというの!」
 六年?
 話が違うのではないか?
 倍の早さで年老いる運命。
 七歳で殺し合った姉妹は片割れの肝を喰らう。
 それから六年しか生きられないというのか?
 十歳で――三年で死ぬ運命が、六年に伸びる。
 三年のために姉妹を殺すのか?
 そのことを姉妹は知っているのだろうか?
 当時の静枝は知らなかった。
 だからこそ静香は……。
 静枝の叫び声を聞きつけて菊乃が部屋に入ってきた。