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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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あやかしの棲む家

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「…………」
 るりあは小さくうなずいた。
「だったらこの方のことは秘密です。約束ですよ、指切りしましょう」
 瑶子は強引にるりあと小指を結んだ。
「指切りげんまん、うそをついたら大叫喚地獄[ダイケウクワンヂゴク]におーちる」
「やだやだ、あんな怖いところに落ちたくない!」
 るりあは真っ青を顔をして心から震えた。
 大叫喚地獄とは八大地獄の一つ。大叫喚地獄は主に殺生、盗み、邪淫、飲酒、妄言などを犯した者が落とされ、さらに小規模な地獄があり、細かく罪が分けられている。大叫喚地獄の十六小地獄の一つ、吼々処[ククショ]は自分を信頼する古くからの友人にたいして嘘をついた者が落とされ、罪人の顎に穴を開けて舌を引きずり出し、毒を塗って焼け爛れた舌に蟲がたかると云う。
 二人のようすを見ていた克哉は小声でつぶやく。
「この嬢ちゃん笑顔で酷い約束させるな」
 どうやら仏教の知識があって理解できたらしい。
 こうして克哉は一つの安心を得た。はじめに見つかったのが美花で本当によかったと思う。そうでなければ、この二人の口止めはどうなっていたのか?
 ここでさらに克哉は厚かましくお願いをすることにした。
「そうだ、食事件なんですが、私じつは菜食主義者なんで……」
「さいしょくしゅぎしゃ?」
 また瑶子は首を傾げた。
「つまり野菜や果物しか食べないんだ」
「神の教えですか?」
「まあ、そんなところだな。だから運んできてくれるなら、肉類は避けて欲しい。でも魚は食べていいことになってるから、たまには魚も食べたいもんだ」
「わかりました。食事の件も承知しましたけど、どうしてあなたここにいるのですか?」
 それがもっと重要なことだった。
「取材で山に入ったら道に迷ってしまって、この屋敷に入ったら出られなくなってしまったわけですよ」
「道に迷ったなら、こんなところに隠れていないで、家の者に道を尋ねればいいのに……あっ、もしかして今のうそですか? うそをついたら地獄に堕ちますよ?」
「まいったなぁ。家のひとにこんなこと言いたくはありませんが、この屋敷、地元では鬼屋敷って呼ばれてまして、大変恐れられてるそうなんですよ。なんでそんな噂をされるのかなっと思いまして、記者として取材に来たわけなんですよ」
「鬼屋敷? 恐れられている?」
 どちらの言葉も瑶子には実感できなかった。
 突然、瑶子は何かを感じ取った。
「あ、お客さんが来たようです」
「客? どうしてわかったんですか?」
 克哉は驚いた。なにも感じなかったからだ。
「すみません、急用ができましたので、お話はまたあとで」
 瑶子は軽く頭を下げて屋根裏を下りた、るりあもいっしょに屋根裏を下りたが、すぐに別れた。
 ここからまず向かったのは菊乃のところだ。
 菊乃は食堂にいた。
「あっ、菊乃さん、どなたか来たみたいです」
「宅配でしょう。今日はずいぶんと遅い時間のようですが」
 二人は早足で玄関に向かい、屋敷を出ると正面門まで急いだ。
 門を開くと数人の男がリアカーから荷物を下ろす作業していた。
 菊乃が門を出た。
「ご苦労様でした」
 と言って菊乃は男の一人に小袋を渡した。金品かなにかが入っているのだろう。
 大量の荷物を下ろし追えた男たちは逃げるように去っていく。
 まずは菊乃が門の中へと荷物を一つずつ運び入れる。その荷物を今度は瑶子が台車に乗せて運ぶ。
 二人が作業を進めていると、この場に美花がやって来た。
「私の荷物もあるから、丁重に私の部屋に運んで頂戴。ほら、そこの箱とそこの箱、印がついているでしょう?」
 美咲はいくつかの箱を指差した。箱には?咲?という文字が書かれていた。
 その荷物を台車に乗せながら瑶子は尋ねる。
「いつの間に美咲さまの荷物なんて、あたし聞いてませんでしたけど?」
 菊乃は知っているのか知らないのか、黙々と作業を続けて答えない。
 自ら美咲が答える。
「別にあなたたちに関係ないでしょ」
「中身はなんですか?」
「だから関係ないって言ってるでしょう、しつこいわね!」
「……すみません」
 瑶子は肩をすくめた。
 美咲は自分の荷物が運ばれる一部始終を見守った。部屋に荷物が運び終わると、艶やかに微笑んだ。
 結局、荷物の中身は教えてもらえなかった。
 瑶子は再び荷物運びの作業へと戻った。
 荷物はまだたくさんある。屋敷の中へ運んだあとは、仕分けの作業なども残っている。仕事が終わらせるのには、まだ時間がかかりそうだ。
 正面門まで戻ってくると、菊乃はまだ黙々と作業を続けていた。
 瑶子が戻ってきたのは確認した菊乃は別のことを頼んできた。
「ここはもう大丈夫ですから、夕げの片付けをお願いいたします。それが終わったらもう今日は休んでよいですよ」
「はい、わかりました」
 いつも瑶子は夜の仕事が少ない。菊乃は瑶子が部屋に戻ってからも仕事をしているらしいが、なぜか毎日瑶子だけ早く仕事が終わり、部屋で休むようにと言い付けられている。一〇時ごろになると、一切部屋を出ずに寝るようにと、きつく言い付けられていた。
 瑶子は多少疑問に思うが、この屋敷には決まり事も多く、それらの理由は教えられないことが多いので、その一つとして特に気にせず過ごしていた。
 瑶子の一日の仕事が終わり、入浴をすると就寝の準備をする。
 そして、夜は更ける。