小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

あやかしの棲む家

INDEX|22ページ/87ページ|

次のページ前のページ
 

「幼い頃から決して開けてはならないとお母様などにきつく言われてきましたが、それ以上のことはなにも知りません。お母様に聞けば、もしかしたらお姉様、菊乃さん……知らないのは私だけかもしれません」
 もしかしたら行方不明者がそこにいるのではないかと克哉は考えていた。
「じつは、あの部屋の中を見たんですよ」
「そんなこと、どうやって?」
「この屋根裏には穴がありまして、覗き穴です。おそらくすべての部屋が覗けるようになってるんですよ」
「私の部屋も?」
「いやいやいや、決してあなたの着替えやそういう場面は見てませんよ!」
「私の着替えがなにか?」
「いや、べつに」
 着替えを見られると恥ずかしい。という感覚がこの閉鎖された屋敷で育ったせいでないのかもしれない。
「どこにありますか、開かずの間の覗き穴は?」
「見る気ですか?」
「はい」
「本当に?」
「はい、あの部屋になにがあるのか私も気になっていましたから」
「そこまで言うのなら教えてあげますよ」
 あのときの恐怖はまだ拭えていない。それを人に勧めることも躊躇われる。しかし本人が見たいと言っているのだ。
 克哉は穴を指差した。
「そこの丸の中に小さな穴があります」
「わかりました」
 美花は手と膝をついてその穴を覗いた。
「……薄暗くて……なにかあるようには……ただの部屋……みたいです」
「本当に?」
 替わってもらい克哉が穴を覗き込んだ。
 薄暗くて何も見えない。だが、徐々に部屋が蒼白く見渡せるようになってきた。
 ――部屋に誰かいる。
 部屋の中心で蹲っている男の姿。
 あの男はいったい誰だ?
 行方不明者なら声を掛ける方法を考えたほうがいいかもしれない。
 そのとき、男が鬼の形相で振り向いた!
「久しぶりだな克哉」
 おぞましく頭の中に木霊した声。
 克哉は声を詰まらせそのまま後ろに倒れてしまった。
「どうしましたか?」
「……い……だれか……いた……しかも俺の名前を呼びやがった」
「本当ですか?」
 美花は穴を再び覗いた。
「なにも見えませんし、だれかいるような気配もありませんけど?」
「そんな馬鹿な。あんただって俺の名前を呼ぶ声を聞いたろ?」
「いいえ、なにも」
「嘘だ……たしかに俺の名を……」
 なぜ克哉の名前を知っていたのか?
 もしかしてあれが知り合いのルポライターだったのか?
 克哉はそんなことはないと首を横に振った。あの形相は人成らざるモノだった。怪物だ、怪物の顔だった。
 蒼い顔をする克哉に美花は心配そうに寄り添った。
「大丈夫ですか?」
「もう駄目だ。もうこの屋敷を出たいよ。じつは記事の話も、行方不明者捜しも、全部表向きの理由なんだ。本当はもっと大切な目的があったんだが……それも命あってのことだ」
「本当の目的?」
「ちょっと口を滑らせちまった。言えないんだ、ちょっと風に当たるか」
 克哉はよろよろと歩きながら開いた雨戸に向かった。
 美花もついてきた。少し厳しい顔をしている。
「本当の目的とはなんでしょうか?」
「なあ、美花ちゃん。もしもこの屋敷から出られたらどうする?」
「絶対にありえないことですから」
「俺も今は出られない。でも出られたらどうするって考えたことないのか?」
「そんなこと考えても悲しくなるだけですから……。もし出られたとしても、別の呪いが私を……外では生きていけません」
 外に出るだけでは救われない。
「呪いのこと聞いていいかい?」
「…………」
「なんだか薬飲まなきゃいけないみたいだけど、飲むのを拒んでるんだろ?」
「そこまで……そうですか。私いくつに見えますか?」
 いきなりの質問に克哉は少し戸惑いを浮かべた。
「いきなりなんだ……う〜ん、一五前後だろう?」
「お母様は?」
「三〇はいってない。もしかしたら二五前後か」
「私とお姉様は七歳です。そして、お母様は一九歳です」
「それが呪いか……」
「あまり驚かれないのですね」
「世の中にはもっと驚くことが多いもんで」
 さらに克哉は続ける。
「早死にするとわかってて、それを食い止める方法がわかってたらすがりたくなるよな」
「わたしはいつ死んでも構いません。でも薬への渇望が抑えられない」
 美花は今にも泣きそうな表情をしていた。
 克哉は手を差し伸べて抱きしめてやりたいと思った。
 だが、美花は背を向けて歩き出した。
「もうすぐ朝食の時間です。私がいないとわかれば、家の者が探すことになるでしょう。そうなる前に行きます」
「朝食のあと話せるかい?」
「朝食後は授業がありますから、午後過ぎなら時間があると思います」
「授業?」
「慶子先生に勉強を教えていただいているのです」
「じゃあ、また」
「はい、失礼します」
 美花は屋根裏から去っていった。