SDSバスターズ~ピエロ退治します~
<章=秘密☓2→バレンタインデー>
放課後になり、俺は重い足取りで科学準備室に向かった。
部屋の前に立ち、大きく一度深呼吸すると、勢いよくドアを開けた。そこには、見慣れたいつもの顔と見知らぬ顔、かわいらしい少女二人に少年がいた。
見慣れた顔が面倒くさそうに、俺を呼び寄せた。
「おお、和真。早く入れ。そして、ドアを閉めろ」
俺は渋々言われたとおりにした。中に入ると、イスを勧められたので、素直に座った。
「で、何の用? アニキ」
そう言い放ち、俺は思いっきり見慣れた顔を睨みつけた。
「おいおい、学校では先生と呼べ、愚弟」
そう、俺の担任、鈴木(すずき)雅人(まさと)は俺の実の兄であった。しかし、二人の関係を知る者は少ない。田口と教えてないのに山田、だけであろう。なにせ、顔も性格も違うので誰も気づかない。しかも、鈴木なんて名字はざらにいる。
兄貴が俺に個人的な頼みがあるときは必ず、科学(こ)準備室(こ)に呼ぶ。そして、この場にこの四人がいると言うことは、俺らの関係を知っているということだろう。なら、隠す必要もない。思い切り言い争える。
「用は何なんだ、と聞いているんだよ。バカ兄貴」
それに何故菊野がここいる。一瞬分からなかった。教室ではコロコロと表情を変えていたのに、今は全くと言うほど動いていなかったからだ。
「まだ分からんか」
そういって、兄貴は目を指さした。
「普通分かりませんよ、鈴木先生」
机に腰掛けていた男性、多分彼が佐久間先生だろう、が呆れたように言った。
「そうね。バレたら逆にダメだと思うわ」
黒髪の少女が付けたした。彼女が多分逢河さんだな。確かに菊野と違った可愛さだ。
「それもそうだけど。なぁ、もう言った方がいいんじゃね?」
佐久間先生が言った。一体何を? 俺が首をかしげていると二つの声が同時に彼の意見を否定した。
「「嫌だ」」
「面白くねーじゃねーか」
「そうだよね! さすが雅人くん!」
声の主は、鈴木先生と少年だった。彼が天野君……。恐れ多いな。とりあえず、心の中で拝んでいた。
「いえいえ。そんなことありませんよ。ただ愚弟イジリは俺の趣味でしてね」
これだけはやめられません、と兄貴は天野にいった。
そして、二人で盛り上がっている。俺をいじることの楽しさについて。
その時、ふと違和感を覚えた。何だろう。
(ああ、そうか。兄貴が敬語使ってるからか)
何故、年下であるはずの天野に敬語を使っているのか。
俺が思案にふけっているなか、二人の会話を横目に今まで黙っていた、菊野が口を開いた。
「私たちを見て何かお感じになられませんか? ちなみに私はアリアです」
その瞬間、悲鳴ともとれる叫び声が部屋中を走った。あれ? デジャヴ?
「何で!? なんで言っちゃうのさ」
ということは、彼らはみな昨日の彼らなのか?
「ま、いいんじゃねーか。ちなみに俺は源な」
そう言って、佐久間、もといゲンは豪快に笑った。
と、なると。
「エリーちゃん?」
俺は逢河さんを指さし、言った。
「他に誰がいるのよ」
うん。分かった。
「詐欺だろ。これ」
俺は呆然としながら、呟いた。誰が分かるか。全くの別人ではないか!
「っていうか、兄貴この人たちと知り合い?」
目下の疑問はこれだ。
「話すと長いぞ」
またか、もう慣れたよ。俺は手を振って続きを促した。もう、何も怖くまい。
「ゲンと俺は同級生だ」
しばらく、沈黙が流れた。
「……」
え?
「それだけ!? どこが長いんだよ」
「長いじゃないか。お前に説明するのに、八文字も要した」
こんのバカ兄貴、どれだけ人をバカにしやがる。もういい、何も聞かないよ!
兄から情報を引き出すことを諦め天野に向き合った。
「で? なんで、そこまでして、学校(ここ)に来たんです?」
俺は腕を組み、少し苛立ちながら問うた。この怒りは兄に対するものだったが。
「話すと長くなるよ?」
ニヤニヤと笑いながら答えたセシルを見て思った。人選をミスった。この人も兄と同類だ。
「やっぱ、ゲンさん、答えてください」
俺はすぐさま軌道修正した。俺の横でセシルが、僕ちゃんと答えるつもりだったのに! と叫んでいた。まるで幼稚園児が駄々をこねているようだ。
「えー、あー、じゃあ言うとだな。お前は昨日俺らの仲間になることを決めた。SDSの仕事はおおまかだが以前ボスが説明したと思う。覚えてるか?」
主なものでいいから、言ってみろ、と俺に言った。
「ピエロの退治?」
「そう。ピエロというのは特定の感情が一定の容量を超えると生まれる。そして、それが集まったり、人にくっつくと、なんていうかな、良くないことが起こる」
ゲンの説明に俺は耳を傾け、兄貴はボーっと空を眺めていた。アリアは何も変わらず、エリーはじっとゲンを見ていた。あれだけ騒いでいたセシルも今は静かだ。
「良くないことって?」
俺が質問すると、ゲンは苦笑いを浮かべ答えた。
「この世界じゃあ、事故が起こるな。へたすりゃ、人が死ぬ」
俺はごくりと唾を呑んだ。
「俺、前背中にピエロくっつけた人とか、交差点でピエロがたまっているとことか見たんだけど、何もなかったよ」
俺は以前自分が経験したことを伝えた。
「青とか、黄いろとかなら人にくっついても害はない。感情ってのは必ず、何かしらの要因があって湧くものだ。その要因がなくなれば自然にピエロも消える。その交差点で何も起こらなかったのは、幸運にもそう言うことだろう」
「じゃあ、何も退治する必要ないよね?」
エリーがそうもいかないのよ、とため息交じりに話した。
「確かに青とか、黄色なら問題ないわ。問題なのは黒、よ。黒のピエロは要因、私たちは感情要因(ハーツ)と呼んでるわ、が消えても消えないの。さらに、黒ピエロ、ツォーンが人にくっつくと碌なことがおこらない」
エリーは、はぁとため息をついた。ゲンがエリーの後を継いだ。初めて遭ったあいつは相当厄介なようだ。
「そう。ま、でも今はいいだろう。これはおいおい話すとして、俺らが学校に来た理由だが、それは一つ」
ゲンは人差し指を立て、俺の顔の前に出した。
「今は何月だ?」
「え? 二月、だけど……」
今は二月一日。寒さが身にしみる季節だ。
「そう、日本ではバレンタインという行事があるな? それは黒いピエロ以外のSDSが大量生産されるイベントなんだな。青春を謳歌する学生が通う学校でなんか特に」
ああ、なんとなくわかる気がする。バレンタインは傲慢、嫉妬、暴食、強欲、色欲、怠惰、全ての感情が生まれる。俺のように、バレンタインをただの平日と同等に扱う若者は少ないだろう。
「話が早くて助かる! いやぁ~雅人君! 君の弟は実に優秀だよ」
セシルは、俺の表情から話を理解したことを読みとったのか、大げさに手を広げながら言った。なんだか、変な感じだ。たった一度しかあっていないが、セシルにはあの容姿が一番あっている気がする。
「大したことないですよ。そんな褒めないでください。愚弟が付け上がります」
「おい、何回愚弟って言うんだよ」
俺は相変わらずな兄の態度に、我慢できずに突っ込んだが、そこは十も年上の兄だ。華麗にスル―された。
作品名:SDSバスターズ~ピエロ退治します~ 作家名:夢見☆空