【第五回・禄 】白い天使に懐かれた
地面に付いた手に反動をつけバク宙をして後ろに着地した慧喜が三又鈎を構え直した
「…助けは要らないって言っただけのことはあるね」
頬にできた擦り傷を撫でながら慧喜が微笑む
「今日のところはここまでにしておくよ。この傷跡が残ったら嫌だしね」
慧喜がそう言いながら三又鈎を振るとアラ不思議フッとあの大きな三又鈎が跡形も無く消えた
「慧喜!」
緊那羅が慧喜を呼んだ
「…何?」
眼光鋭くしかし口元は微笑んでいる慧喜が緊那羅を振り返る
「京助と悠助…は…」
「…あの方達の興味を惹くのは俺だけでいいんだよ…あの方達は俺だけ見ててくれればいいんだ…【時】も【栄野】もなくなればいい…」
慧喜がゆっくりと緊那羅に近づいてきた
「…【時】なんか来ないほうがいいと思わない?」
緊那羅の顔に慧喜の顔が思い切り近づいた
「あ」
京助とゼンゴが同時に声をあげ京助が沙織の目を手で隠した
「…ちゅーしてるんだやな…」
ゼンが呟いた
「チッスと言えなんだやな」
ゴがゼンに突っ込んだ
「接吻ともいうんだやな」
京助がゼンゴの話し方で言った
固まったままの緊那羅の両手から武器笛が落ちた
「…ごちそうさま」
目を大きく見開いたまま立ち尽くしている緊那羅の髪飾りにも口付けて慧喜(えき)が笑う
「最近のお子様は進んでるんだやな」
ゴが腕組をして頷くと京助とゼンも頷いた
「少なくともアンタよりは年上だよ」
はっとして顔を上げた京助の目の前には慧喜の顔
「やっぱり久々にやっただけのことはあるんだやな。カンッペキ失敗だったんだやな」
ゼンゴが揃って頷いた
「な…おま…ふぐっ!?;」
失敗作の結界の中にいた京助にも慧喜は口付けてきた
京助の手からずり落ちてきた沙織をゼンがキャッチすると途端にゆがみ始める沙織の顔
「ふぇぇえええええ!!!」
沙織の上げた大きな泣き声に緊那羅が我に返って振り向きそしてまた固まった
「…緊那羅としたときより長いんだやな」
ゴが耳を塞ぎながら言った
作品名:【第五回・禄 】白い天使に懐かれた 作家名:島原あゆむ