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島原あゆむ
島原あゆむ
novelistID. 27645
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【第五回・禄 】白い天使に懐かれた

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真っ白な迷い込めば自分が何処にいるのか見失いそうな音もない真っ白な空間
そこにだたぽつんと精巧な人形の様にも見える人物が一人膝を抱えて浮かんでいた
薄青の長い髪で顔は見えない
身にまとっている物は今のものではない
膝を抱えたその人物の周りには無数の玉が浮かんでいた

白い息を吐きながら泣く悠助
その悠助が呟いた言葉にあわせるかのように白い空間の人物の膝を抱えていた手の指がピクッと動いた



       
         「沙織ちゃんなんかいなくなっちゃえばいいのに…っ」




「ふぇぇえええ!! ふぇええええ!!」
一向に泣き止まない沙織を交代であやす緊那羅と京助そして母ハルミ
「おしめは替えたしミルクもやった…ぬゎぜ泣く;」
疲れきった表情で母ハルミに抱かれて大泣きする沙織に京助が言った
「お母さんが恋しいのかもね…」
母ハルミが体を揺らして沙織をあやす
「いくらなんでも泣きすぎだろ; 血管切れるぞ?;」
京助が母ハルミから沙織を受け取った
「ふぇぇええええ!!! ふぇ…ふぇぇえええ!!」
顔を真っ赤にして泣く沙織をみて京助が溜息をつく
「…脅えてるっちゃ…」
京助に抱かれた沙織を見て緊那羅が呟いた
「は? 脅えてるって…俺に?;」
京助が聞くと緊那羅が首を横に振った
「違うっちゃ。京助じゃなく…もっと違う何か…」
緊那羅が沙織の頬に手を当てると沙織がすがるように緊那羅の手を小さな手で掴もうとする
「赤ちゃんは敏感だから…何か見えているのかもしれないわね」
母ハルミが石炭をくべながら言った
「…悠ちゃんもアンタもよく天井とか指差して泣いたりしてたわ」
笑いながらストーブの蓋を閉めた母ハルミが京助の頭を軽く叩いた
「おもしろいのよー悠ちゃんてばどんなに泣いていても京助がヘッタクソな子守唄歌うとすぐ泣き止むの」
母ハルミが思い出話を話し始めた
「…子守唄…?」
緊那羅が呟くと京助が緊那羅を見た
「なぁ…前歌ってたアレ子守唄か?」
京助が緊那羅に聞く
「前?」
緊那羅が首をかしげた
「ホラ! かなり前に縁側で……悠が寝ちまった時の」
京助が言うとしばらく考え込んだ後緊那羅が口を開いた
「…この歌…どこかで…」
母ハルミが目を閉じた
日本語なのかそれともどこかの言葉なのかそれすらわからない言葉がメロディーを刻み茶の間に響き渡る
そんなに大きな声で歌っていないにもかかわらず部屋全体を包み込む緊那羅(きんなら)の声
歌い終わる頃には沙織に小さな寝息が聞えていた

白い白い場所
でもその白さは雪じゃないくでもその場所は全てが白かった
「…誰…?」
自分の目の前に膝を抱えて浮かんでいる人物に悠助が声を掛ける
『来ては駄目…』
頭に直接聞えた言葉に悠助が周りを見渡す
周りはただ白く何もない見えるものは白
「…ここどこ?」
悠助が目の前にいる人物に再び聞く
『戻って…戻って…来ては駄目…ッ!』
だんだんと大きくなるその声に悠助は耳を塞いで目を閉じた
声が聞えなくなり悠助はうっすらと目を開けた

辺りは白かった
比較的近くで犬が吠える声がする
結構遠くでバイクの走る音が聞こえる
それは雪の白さでまわりは見たことのある景色
「…あれ…?」
振り返ると一人のおばさんが足早にやってきて悠助の横を通り過ぎていく
空を見ると灰色の雲から白い雪がゆっくり降ってきている
前を見てもさっきまでいた膝を抱えて浮かんでいる人物の姿はなくあるのは電信柱と道とその上に残るさっき通っていたおばさんの足跡
「…なんだったんだろ…」
悠助が白い息を吐きながら呟いた
公園に続く秘密の抜け道も雪で埋まって何処にあるかわからなくなっている
「…はぁ…」
帰りたいけど帰りたくないそんか気持ちで悠助は抜け道を後にする
特に行く宛てもなく…というか行き場所がないらしい暗くなりつつある雪道に残る足跡を雪が埋めていった