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ひとりぼっちの魔術師 *紅の輝石*

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4-1/2.留まらない気持ちと信じる心。



-本当はそこにあることを知っている。
 それなのに、真実に目を背けて。
 息をしていく為に。
 空を見上げる為に。-


小さな丘の上。
日が昇る頃にやってきて、日が沈む頃に又君は姿を見せる。
その行動が僕にはどうにも不思議で。
勇気を出して君に声を掛けたのが、数日前のこと。

「ねぇ、どうして何時も何時も似たような時間に来るの?」

僕の問いかけに君は、少し悲しそうな表情を浮かべ、振り切るかのように。
一呼吸置いて。
今度は笑顔で、

「待っている人がいるんだ」

と僕に告げる。
そうなんだ、と短く答える僕に、君は続きを喋りだした。
指の指すのは、南南西。
山に囲まれて見えないが、指した先には、小さな国があるのだという。
過去を遡って、歴史を紐解くとそこは必ず戦場になっていたのだとか。
僕の中にある歴史物語を辿ってみると、確かに君の口にした土地の名前があった。
その記憶さえも、戦場だった。
 
小競り合いは、段々と広がり。
少しでもその地域に係わり合いのある者達を巻き込んで行く。
君の待っている人の仕事は、畑を耕す事。
誠実でまじめな人、と君は少し照れながら待ち続ける人を評価した。

-必ず帰ってくる、だから…。-

「初めて出逢った場所で待って欲しい、って」

君は、その言葉を信じて。
待ち続けている。
一日に二回の理由は、どうしても仕事が抜け出せないからだと言う。
本当は一日中。
そして夜、ずっとここで待っていたいそうだ。
だが野犬の群れや、盗賊と出くわす可能性がある。
それが理由で出来ない、と無念そうな表情を浮かべていた。
今日も君はここで、誠実でまじめな人を待ち続けている。
じっと、その方向を見ながら。
時々、涙を流しながら。
僕はそんな君の隣にずっといた。
待ち続けている人のことよりも、僕は君の話が聞きたかった。
君の知っていることを、君の日常を。

尋ねると君は何でも答えてくれる。

「コレは独断なんだけどね…」

と必ず前置きして、君の言葉を聞かせてくれる。
僕にとっての知らない歴史と、知識。
まだまだ知らない事が沢山あるから、こうやって。
君の隣でずっと、言葉を、世界を。
知って、いきたいんだ。
美味しいものを食べたり飲んだりするよりも。
有意義な時間。
僕の呼吸が聞こえるから。

今日の夕日も沈んだ。
君は名残惜しそうに、立ち続ける。
空の色が、闇に侵食されていく。
僕は、君の手を。
綺麗なその手を、そっと掴んでぎゅっと握って。
体温を感じていた。
握り返してくるその手からは、君の強い想いが。
痛いほど、痛いほど伝わってくる。

待ち続ける事が君の言う本当の仕事だと言うのなら。
それは、とても哀しい事で。
寂しい事で。
何の生産性も、何の思い出も創り上げない。
何処まで君は、その先にあるはずと信じきる時間を思い続けるのだろうか。
 
優しいはずの夕日は、君にとっては非情な光でしかなく。
その優しい胸の中を何度もえぐり続けているのだろう。
僕が今できる事は。
こうやって、強く強く君の手を握り続ける事。
君の中に他の誰かがいても。
今は、僕が君の事が好きで。
君の隣にいるのは、暖められるのは。
僕だけだから…。

信じる、と言う事の甘くも痛々しい姿は。
神々しくも、虚しい。
 
-本当に悪いのは、だぁれ?
きみ?
それとも、ぼく?-