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りんみや 陸風5

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「それはそうだと思うけど・・・三人がセットになるというなら、日常をそういうふうに過ごすことで解決しないか? 」
「じゃあね、リッキー・・・あなた、みやくんに添い寝してた時、どう思った? それぐらい信頼して委ねられてることに幸せを感じなかったの?」
「感じていたね、確かに・・・ゆきは子供だったから、誰かがいないと寂しいって言うから・・・それと同じことをふたりがかりでやるというのか?」
「そうよ、両親が揃うということは、同じベッドで眠って目を覚ますことだわ。それをやるには、あなたに正式に父親になってもらわないとできないの。結婚してくれるの、してくれないの? どっち?」
 しろというなら籍ぐらい動かすのは城戸にはなんでもない。離れられないということは城戸にも重々承知のことだ。自分は子供なしには神経がおかしくなる。その子供の他に母親がついてくるというのが理解できない。答えを逡巡している。是と言えばいいのだろうとはわかっている。それでも、・・・いきなりすぎて答えられない。
「ちょっと時間を貰えないだろうか?」
「それは私とは結婚するのに不都合があるということ? 」
「いや、そうじゃないんだ。・・・リィーンにも相談して、それから・・・」
 少しばかり年長者の意見が聞きたい。こういう場合はどう対処するものなのか、城戸にはわからない。過去に一族から結婚を奨められた時は一も二もなく断った。それは自分には不利益だったからだ。今度は違うから厄介だ。子供を手放せないのだから、屋敷には住むことにはなる。そういう意味では自分の名前が水野であろうと城戸であろうと気にならない。ただ、相手が問題だ。城戸にとってマリーはゆきの奥方でしかない。それ以前はゆきの姉としか認識していなかった。
「それでは質問を変えるわ。美愛の父親にはなってくれる?」
「・・・それは・・・そのつもりだ・・・」
「では、交渉は成立よ。近日中に書類を作成させる。あなたは、それにサインしてくれればいい。それで、あなたは美愛の正式な父親になれる。」
「ちょっと待ってくれ、マリー・・・そう簡単なことじゃないだろう。きみは水野の・・・」
「そうね、次期当主の妻だったわね。これからは、みやくんの代わりの仕事が控えているのは承知してます。だからね、始終、屋敷にはいないから・・・私が気に入らないなら、適当に美愛の前でだけ夫婦のフリをしていてくれれば、それでいいわ。」
「気に入らないも何も、私はきみのことを知らないし、きみだって、私のことを知らないだろう。もう少し、互いに理解する時間は必要ではない?」
「それは籍を入れてからでもできるわ。これから美愛を成人させるまでには理解できるでしょう。あなたが水野を離れるつもりなら別だけど、それはできないんでしょ?」
「・・・そうだね・・・できないよ・・・美愛と離れたら、私は生きてる気がしないのは事実だ。」
「では、答えはひとつよ。結婚してくれるわね?」
 勢いで押し切られている。ゆきの奥方は強引でプライドが高いのはスタッフでも有名なことだ。城戸にとって、結婚するという事実はメリットだらけだ。美愛を正式に自分の娘にできて合法的に屋敷に住まう権利も発生させてくれる。それに美愛がいらないと九鬼に自分を返すこともできなくなる。自分の手元に娘として美愛が手に入る。これなら絶対に離れることはできない。ただ、ひとつだけ城戸にはできないことが存在する。
「・・・結婚するのは構わない・・・ただし、戸籍上ということなら引き受ける。」
「それは・・・どういう意味?」
「結婚して籍を入れて夫婦にはなる。だが、きみがゆきの奥さんという事実だけは消したくない。それだけは勘弁してほしい。」
「あの・・リッキー・・・私は本当に夫婦になってほしいのよ。」
 真理子には城戸が拒否している意味はわかった。別に夫婦になるというのだから、そういうことも覚悟して真理子は考えていた。城戸を理解するのに簡単で手っ取りばやい方法だし、城戸に嫌悪感は持っていない。それを相手は拒否する。なんとも照れたように城戸は微笑んで、「ゆきの奥さんに手は出せないよ。」と頭を下げた。
「私はゆき以外と接したことはないから、日常的なことはマリーが教えてくれるかい?」
「ええ、もちろんよ、リッキー・・・あの・・・リッキー、私は・・・」
「きみはゆきを愛していればいいんだ。私は美愛の父親にしてもらえるだけで十分すぎるほどだ。そういうことなら、私からお願いしたかったぐらいだ、ありがとう、マリー。」 穏やかで静かに微笑んだ。それ以上に真理子には言えなくて、頷いた。これでいいのかもしれない。みやくんを大切にしてくれた人だ。その人は娘も大切に育ててくれるだろう。
「こちらこそ・・・唐突にごめんなさいね、リッキー。」
「いいや、この間、佐伯さんたちが、そんなこと言ってたよ。まさか、と思ってたからびっくりした。ゆきは眠るのを見守るだけだったけど、この子は成長するから・・・とても嬉しいな・・・」
 その言葉が意外なほどに大きくて、ふたりは顔を見合わせて苦笑した。それが城戸の嘘偽りのない気持ちだろう。ゆっくりと真理子が城戸の傍に腰掛けた。ぴったりと寄り添うのは抵抗があって、少し空間は残っている。
「私は水野真理子、よろしくね、リッキー・・・そういえば、あなたって名前を知らないわね。」
 真理子が差し出した右手に城戸も手を差し出した。
「そうだろうね、私は城戸陸風という名前だ。今度からは、水野陸風になるけどね。」
「日本人?」
「半分はね、でも国籍はアメリカだ。母親が華僑でアメリカ国籍なんだ。」
「あら、それなら国際結婚ね。そちらの家族に挨拶しなければいけないわ。」
「両親は、もういないんだ。だから、家族はいない・・・一族には連絡くらいはするとしようかな。マリー、佐伯夫婦とリィーン夫婦に挨拶しなければいけないんじゃないのかい? それとも、これは事前に伝えてあるの?」
「いいえ、伝えてはいないけど・・・一族って何? お祖母さまの一族のこと?」
「母方の華僑の一族だよ。私はそこの一員だから、仕事も辞めてしまったし一度、正式に連絡しないといけないとは思ってた。今まで、随分とバックアップしてもらっていたのでね。」
「リッキー、あなたって、どんな仕事していたの?」
「・・情報を売買するようなものかなあ・・・マリーも勤めていたね。どんな職種?」
「私は臨床の仕事よ。臓器の取り扱いが多かったから、そういうことには詳しいの。」
 互いに何も知らないから、こんな話が延々と続いた。まるで、釣り書の読み合いでもしているような行為だ。城戸はさすがに心配になってきた。互いの性格さえわからないのに、いきなり結婚して破綻などしようものなら、そちらのほうが問題だ。
「本当にいいのかい? マリー・・・少しお互いを理解することから始めたほうがリスクは減少すると思うんだが?」
「えーっと、たぶん大丈夫だと思うのよ。・・・口では言い表わしにくいのだけど、私もリッキーもみやくんに関わってた。だから、大丈夫なんじゃないかと・・・そういう感じなんだけど・・・」
作品名:りんみや 陸風5 作家名:篠義