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島原あゆむ
島原あゆむ
novelistID. 27645
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【第五回・参】ヘリカメ様

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「本当にやるんだちゃ?;」
「当たり前です」
緊那羅の言葉に乾闥婆が笑顔のまま即答する
「でも…何だか…かわいそうだっちゃ…そりゃ私もあの匂いは嫌だっちゃけど…でも」
緊那羅が照明灯の中の茶色い小さなヘリカメを見上げていった
「緊那羅」
乾闥婆が緊那羅の名前を呼んだ
「…優しいのはいいことですが優しいだけじゃ何も守れないんです」
乾闥婆が京助の手からガムテープを取った
「優しさは諸刃の刃にもなりかねないということ…覚えておいて下さい」
「でもそれが緊那羅のイイトコどと俺は思うぞ」
乾闥婆の言葉が終わるか終わらないかのタイミングで京助が言った
「京助…」
京助の言葉に悠助も頷く
「僕緊ちゃん優しくて好き~」
悠助が京助の後ろから笑顔を緊那羅に向けた
「…ありがとだっちゃ」
緊那羅が少し赤くなって笑った

ブ------…ン…

そんな和やか平和ムードをぶち壊したその音
悠助が京助にしがみつく
「動いたか…」
照明灯の中から消えた茶色い影
「空襲警報発令だな」
京助が部屋を見渡しながら言った
静まり返った部屋に一旦やんではまた響き渡る不気味な【ブーン】という音
古いつくりの栄野家の壁や天井とほぼ同じ色をしているヘリカメ
ましてや飛行中とあらば見つけるのは困難極まりない
何処からいつ来るのかわからない緊張感の中一同目を凝らす
「いたッ!!」
京助がすばやく乾闥婆からガムテープを奪い取り適当な長さに切ってTVの方向に近づき
「捕獲!」
ガムテープを貼り付けた
中心が少し膨らんでそこヘリカメが捕らわれているということがわかる
「…よく見つけられますね…」
乾闥婆が感心する
「慣れだな」
京助がそぉっとゆっくりガムテープをはがすとひっくり返って足をばたつかせるヘリカメがくっついていた
それを先程のように畳んでストーブにくべようとしたその時

ガラッ

窓が開き外の冷たい空気が茶の間に流れ込む
「ひょっぅ!;」
緊那羅が変な声を上げて廊下に非難した
「おわ!;」
流れ込んできた空気 (というか風)でヘリカメのついたままのガムテープが京助の手から離れ宙に舞う
「あ! 逃げたッ!;」
そしてそのガムテープから飛び立つヘリカメを見て悠助が叫んだ
一同開いた窓に目を向ける
「母さん…京助です…過去に同じような光景を目にしたことがあります…」
窓のサッシにかかった手を見て京助がボソっと言った
たまに見える金色の触覚(正確には前髪)
一息ついてはサッシにかかる手に力がこめられ必死によじ登ろうとしていることが伺えるのだが誰も手を貸さない
開けっ放しの窓からどんどん冷たい空気が流れ込んでくる
バサバサとそこら辺にある紙類、雑誌類が音を立てている
「手…貸さないのか?」
京助が乾闥婆を肘でつついて言った
「貴方こそ」
乾闥婆(けんだっぱ)が返す
「…かるらんだよね?」
悠助が京助の服を引っ張って聞く
「まぁ…間違いないだろうな」
京助が【ヘッ】と口の端で笑った
「手を貸さんか! たわけッ!!!!!;」
「あ、降参した」
かれこれ十数分格闘していた迦楼羅がついに怒鳴った
京助が窓に近づき覗き込むと眉間にしわを寄せ迦楼羅が京助を見上げた
「上がれないなら玄関から来いよ…;」
迦楼羅の手を引っ張って室内に入れると窓を閉めた
ストーブの前では緊那羅が薪を追加しつつ暖を取っていた

「何しに来たんですか迦楼羅」
服の裾を直している迦楼羅に乾闥婆が言った
「お前がすぐに帰ってこないからだろうが!」
迦楼羅が怒鳴る
「渡したらすぐに帰るからと言われておとなしく待っていれば…なかなか帰ってこないわ…」
ぶつぶつ文句を言いながら腕を組み横目で乾闥婆を見た
「何かあったかと思うだろう! たわけ!!」
そしてまた迦楼羅が怒鳴る
「…すいませんでした…」
珍しくしおらしい乾闥婆に京助と緊那羅が少し驚く
「…まぁいい…それで? 緊那羅に渡したのか?」
いきなり迦楼羅の口から緊那羅の名前が出た