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パワーショック・ジェネレーション

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「タチから便りがあった。『チーム地球』の協力を得て、このたび統京に新たな政府が立つそうだ。先週、日本の四十七国の代表が集まり、国家統一を宣言した。戦国の世は終わりだ。首相も内閣もすでに決まっている」  
「政府ったって、どうせまた綱渡りの半軍事政権だろ?」
「いや、今度のは案外しっかりしているようだ」
「ふーん」バクは一応は信じてやるという顔をした。「で、チーム地球ってなんだ?」
「さあな」
「さあな……って、どんな組織かくらい書いてあったんだろ?」
 なにを思い出したのか、昭乃は額にびきっと青筋を立てると、いきなり怒鳴りだした。
「ともかく、百聞は一見にしかずだ! 来月、統京で世界同時中継による重大発表がある。おまえたち二人には、村を代表してそれを見てきてもらう」
「は? 中継? 発表?」
「たしかに伝えたからな!」
 昭乃はどすどすと地響きをたてながら去っていった。
 喜ばしい一報だというのに、いったいなにが気に入らないというのか。
 わからずじまいのまま、月日は流れた。


 6月3日

「ナントカビジョンっていうのは……あれか?」
 バクは新統京タワーの中腹、大展望台の壁面を独占する大きな平板を指した。
「東西南北に同じものが一つずつあるよ」
 ミーヤは『統一政府』が発行したパンフレットを見ていた。
 日はすっかり西に傾き、コンクリートの林を琥珀色に染めていた。
 集合時間は日没後とあり、バクたちはそれにあわせてタワー下へやってきたのだった。
 タワー以外の旧NEXA施設群はすべて解体撤去され、そのスペースは広々とした公園になっていた。そこにはバクたちと同様、緊急中継の知らせを受けた地域の代表者たちが続々と集まってきていた。公園はタワーを中心としてすり鉢状の階段が広がる、太古の劇場を平たくしたような造りだった。
「この辺にすわろっか?」
 ミーヤが言うと、二人は段差の上に腰を下ろした。
 日が沈み、辺りが暗くなってくると、そこらじゅうにかがり火が灯った。
『あ、あー、きこえますかぁ?』
 突然、耳をつんざく大音量が響き渡った。女の声だ。
 割れと残響が著しいその音は、明らかに生声ではなかった。
『えー、皆さま。誠に恐れ入りますが、カウントダウンをお願いします』
「なんだって?」
 バクは思わず聞き返した。
『さん、にぃ、いちぃ……』
 脳天気な独りカウントはそこで途切れた。
 沈黙。
「?」
 バクとミーヤは顔を見あわせた。
『えっ? ご挨拶が抜けてる? は、ひゃ、ごめんなさい!』
 女はそばにいた男と台本の確認をはじめた。本人は声をひそめているつもりなのだろうが、その音は増幅されて、数万の耳もとにすっかり届いていた。
『えー、失礼しました。わたくし、チーム地球の報道官を務めさせていただいております、松下蛍と申します。さて、今日という日を迎えるにあたって私たちは、紆余曲折、意匠惨憺、粒々辛苦(つぶつぶしんく)……ん? つぶつぶ?』
 ガサガサと紙をめくる音。
「け、蛍? あの蛍なのか?」
 バクは目をこらすが、遠すぎてよくわからない。
 蛍はマイクを手にしたままささやいた。
『これ、なんて読むんでしたっけ? えっ? 時間が押してる? 私のせいですか? ひあぁ……』
 薄い本がパシと閉じる音。
『えっと……と、とりあえずスクリーンをご覧くださいっ』
 ざわつく聴衆。
「ったく、カウントダウンはどうなったんだよ」
 バクが蛍の醜態を嘆いていると、ミーヤがスクリーンを指した。
「な、なんか映ったよ?」
 真っ黒だった平面に、突如として砂漠の景色が広がった。
 人々は画(え)の内容よりもスクリーンの明かり自体に驚き、歓声をあげた。
 バクはそれでようやく実感した。
 そう、電気が復活しているのだ!
 茫漠とした鳥瞰だった。どこまで行っても砂しかない。生き物などとても住めそうにない土地だ。日はまだ昇ってまもないようで、灼熱地獄というよりは、夜の間に冷えきった大地を焙っている最中といった感じだ。
 バクは言った。
「あんなの映してどうしようってんだ?」
 ミーヤが画面を指した。
「あれ、なんだろ?」
 一ヶ所だけ極端にコントラストのちがう、黒光りする湖のような広がりがあった。
 そこにカメラが寄っていく。
 正体は太陽に顔を向けた無数のパネルだった。よく見ると、透き通ったドームが敷地をすっぽり囲んでいる。砂防用なのだろう。
 カメラが地上に切り替わる。
 巨大パネルの足もと。画面の右側から金髪の少女が現れた。
「あーっ!」
 バクとミーヤは同時に叫んだ。
 少女は一礼した。
『どうも橋本ルウ子です。一部の人は知らなかったと思いますが、三年前からチーム地球のカントクやってます。えっと……本日をもちまして、すべての国と地域に電気が行き渡りましたので、ここに世界電力の復活を宣言します』
 水を打ったような静寂。
 バクもミーヤも、あまりに唐突の知らせに言葉がない。
 ルウ子はなにも変わっていなかった。顔の左右に黄金の竜巻を装備。紺色のブレザー。挑発的に短いチェックのスカート。瑞々しい太腿に走る傷痕。十二年前、NEXA所長室での屈辱の初対面(傍点)。六年前、泡まみれのジョッキ片手に蛍とじゃれあっていた最後の晩。写真の中から飛び出してきたのかと思えるほど、あのときのままだった。少なくとも見た目は。
 バクはそれがうれしくもあり、少しだけ哀れにも思えた。
 ルウ子は片手を広げた。
『そこにあるのはすべて太陽光発電のパネルです。知っての通り、太陽光は環境負荷が少ないクリーンなエネルギー。なるべく自然を壊さず、それまでどおりに電気を使えるのなら、それに越したことはない』
 聴衆は聞き入っている。
 ルウ子は続けた。
『みんな頭ではそれをわかってる。でも国家とか人種とか宗教とか個人の都合とか、いろんなしがらみが邪魔してる。そこであたしは、何人(なにじん)だろうと何教だろうと何歳だろうと長者だろうと一文無しだろうと、気持ちさえあれば誰でも参加できる『チーム地球』を設立し、このプロジェクトを取りまとめました』
「取りまとめた? 脅迫したとか強制したのまちがいだろ?」
 バクのツッコミにミーヤが苦笑いした。
『人材や物資は集まった。問題はパネルをどこに展開するかだった。そこで白羽の矢が立ったのが、砂漠。こんな死に満ちた世界に人を生かす種が隠されていたなんて、世の中まだまだ不思議なことだらけよね』
 聴衆は見入っている。
 ルウ子は続けた。
『で、そんなペラペラの板で世界の電気をまかなえるのかって? 驚くなかれ、世界にある砂漠のうちの五パーセント。たったの五パーセントよ。そこにパネルを置くだけでいいの』
 信じられないという聴衆の顔、顔、顔。
 人類史上最大ともいえる大偉業を、クラスの委員長が教室で語るかのように、さらっと口にするルウ子。その陰でいったいどれほどの苦労があったのか、あの李(すもも)のような幼顔からはなにも感じ取れない。