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パワーショック・ジェネレーション

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 NEXAの暗殺者はたしかに、国内に潜伏していた不穏分子を完封した。だが、執念は相手のほうが一枚上手だった。彼らは自分の命さえ囮にして、証拠となる資料をそれとわからぬ形で自国に送っていたのだった。


 7月17日

 電気はついに極東の地で蘇った。科学的に納得できない事情はともかく、まずは国交回復であると、列強諸国は我先にと密使の船を送った。これに対しNEXAは、巡視船や沿岸の砲台などをもって外国船をことごとく追い払った。

 その日、NEXA本部に一つの報告が入った。海外に潜入している諜報員からだ。 日本の鎖国姿勢に危機感を募らせた列強諸国は、『地上で唯一の発電国となったのをいいことに、科学文明帝国による一極支配の野望を抱いている』と日本を悪役に仕立て上げ、制裁に向けて軍備を整えはじめているとのことだった。
自室でそれを知った孫は、珍しく怒気をこめて言った。
「今まで日本をないがしろにしてきたくせに、電気があるとわかった途端にこれだ!」
「局長……」
 和藤は不安げな瞳を孫へ流した。
「核弾頭の開発を急がせてくれ」
 日本国内には原発由来の核燃料が密かに残されていた。戦艦や要塞を一から造ることを考えたら、核ミサイルの開発などたやすい。
「……」
「心配するな、栄美。第一、わが国は直接誰かに迷惑をかけたわけではない。従って彼らには他国に攻めこむだけの理由がそろわない。それでも、権力にのぼせ上がった愚か者はなにをしでかすかわからない。だから万が一に備える。それだけのことだよ」
 ニコはこの会話を密かに録音し、翌日、隙を見てアルに送信した。 


 7月18日

 バクたちの焦りは頂点に達しようとしていた。
 孫は構想を練り上げた当初、核開発など予定していなかった。外国が日本を忘れている間に技を磨き、充分に力の差を見せつければ、大袈裟な兵器など必要ないとさえ口にしていた。だが、日本の実態は海外に知られることとなり、孫の『ささやかな復讐』のシナリオに大きな狂いが生じはじめた。このまま問題を放置しておけば世界中との開戦もあり得る。とはいえ孫の言うとおり、日本は隣国を侵略したわけでも宗教的対立があるわけでもない。諸国首脳が世論を納得させるだけの大義名分を探している間は、睨みあいが続くだろう。だが、ケンカは意外と些細なきっかけで起こるもの。一時たりとも油断はできない。

 ルウ子は手にしていた鎌を丸太小屋の外壁に突き刺し、孫の愚行を嘆いた。
「あんの腐れ納豆、本気で勝てると思ってるらしいわ!」
 バクは言った。
「勝てるもなにも、戦争なんか起こらないだろ?」
「わかってないのね。ヤバイ兵器を隠し持っているらしいっていうだけで、たしかな証拠もないのに平気で戦争しかける国だってあるのよ。そいつらがどれほど世界を迷惑させたことか……」
「それでも、孫には核(切り札)がある」
「マスター・ブレイカー最大の弱点、忘れたの?」
「弱点……あ!」
 バクは手を打った。
 たとえ長距離ミサイルを開発したとしても、ニコの影響下、つまり本土上空にあるときしか制御できないのだ。
 蛍は開戦した場合の日本の未来を仮想した。
「わが国には負けしかありません。海上で現代兵器を使えない以上、物量に勝る列強は難なく日本各地に上陸を果たすでしょう」
「上陸した何万もの兵がいっせいに首都へなだれこみ、この国はっ!」ルウ子は壁に刺さっていた鎌を引き抜くと、蛍が手にしていたキュウリを奪い、これを真っ二つにした。「はいおしまい!」
 バクは草の上に落ちたキュウリの片割れを拾い、そのまま頬張った。
「クソ……どうすれば孫を倒せるんだ……」
「リスクは高いですが……」蛍は北の空を見上げた。「離島の首脳陣に本土の現実を見せ、海軍に動いていただく、というのはどうでしょうか?」
「現実?」
「ニコさんによれば、NEXAの兵器生産は大電力と送電効率を考慮し、主に統京湾岸で行われているとのこと。海の上からほんの一部でもいいんです。その恐ろしい光景を見てもらえれば、島人の心に変化があるかもしれません」


 7月23日

 バクたちは離島海軍の将、大村猛に『統京湾岸調査団』の結成を提案した。日本の『鎖国返し』に列強が色めき立っているという話に、大村は乗ってきた。離島海軍の中には遠洋調査隊という小さなチームがある。航海先で知りあった、国境や肌の色を越えた海の男同士の交流によって、海軍は海外情勢に多少は通じていた。
 大村はバクたちに言った。
「それは連盟としても無視できねえ問題だ。離島は正式に日本から独立したわけじゃねえからな。大戦に巻きこまれんのはゴメンだ。俺がジジイどもに話をつけてやろう」
 あくまでも離島の安全を中心に据えた考えだが、この際、協力が得られれば理由はなんでもよかった。


 7月27日

 その日、宮根島で伊舞諸島地区だけの臨時会議が開かれ、各島の首脳陣から一人ずつと、バク一行と大村、計十三名の調査団を送り出すことが決定した。


 7月31日

 統京湾での偵察を終え、母港で船を降りた調査団に言葉はなかった。


 8月5日

「NEXAがいかにヤベえ連中か、それはわかった。だが、各島に散らばる兵力をあわせても三千に満たない小勢が、政府をも手なずけちまった巨人相手にいったいなにができるってんだ……ってのが、ジジイどもの言い分よ」
 大村は口をへの字にしてだらしなく両手を挙げた。
 大村は隣島で開かれた連盟本会議に出席し、ついさっき宮根島に帰ってきたところだった。
 先日の調査団の報告を受け、会議は紛糾した。独立宣言。列強との交渉。他国への移住。無為静観。様々な意見が出た。NEXA討伐派はごく少数だった。海戦ならともかく、現代兵器で迎え撃たれる上陸戦は自殺行為である。というのが大方の批判だ。
「根性なしめ!」
 バクは桟橋に転がっていた空の木箱を蹴り壊した。
 大村はバクをなだめた。
「まあそう言うな。あんたらと島の民じゃ、生きてきた環境がちがいすぎる。血路を開く、なぁんてことはほとんど経験してねえからな」
「海軍だけでもなんとかならないのか?」
「なると思うか?」
「聞いてみただけだ」
 バクが下を向くと、大村はぼそっと言った。
「ただし、民が動けというのなら、動く」


 8月6日

 離島連盟には、地区人口の八割分の『署名血判』を持ってくれば、その地区の海軍は独自の判断で動いてもよいという、有事における超法規的な例外が存在した。
 その日バクたちは、単純に数を稼ぎたいという理由から、伊舞諸島最大の島である雄島(おしま)へ渡った。
 島の人間関係は都市の人々とちがって濃密であり、人数が集まれば批判が批判を呼んで、それだけ保守的になってしまう。その経験からバクたちは、一軒また一軒と、しらみつぶしに民家を訪ね歩くことにした。
 一行はNEXAの脅威を説き、海軍をもって彼らを討つべきであると、署名血判の必要性を訴えていった。