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パワーショック・ジェネレーション

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 ミーヤはその後も食い下がったが、長老衆は聞く耳持たなかった。
 所詮、彼らにとってミーヤは余所者の助っ人でしかないのだ。
 長老衆は口々に言った。
「かつての師を慕っていたとはいえ……」「大敵をかばって命を落とすなど、論外じゃ」「あれはバクの作り話だ」「バクに謀殺されたのだ」
 彼らはある意味、昭乃のことを人間扱いしていなかった。彼女も一人の女であることを、この政治家たちは忘れてしまっている。
 兵士たちはバクを連行していった。
 ルウ子と蛍は、世に災いをもたらす魔女とその召使いとして、厳重な監視のもと、富谷で管理することになった。


 6月24日

もしかしたら昭乃は帰ってくるかもしれない。一縷の望みをかけ、裁きはのびのびとなっていたのだが、それに加えて村で唯一の医師が急逝、台風による川の氾濫、山賊の襲撃と凶事が相次いだため、バクの裁判は予定よりまるひと月も遅れて、その日ようやく行われた。
 富谷では長老会議も裁判も討論会も、大勢による話しあいはすべて『議事小屋』を使うことになっていた。そこは議事堂や法廷というよりも学校の教室に近く、演壇と演台が一つずつと、イスを壁に寄せて『コの字』状にならべただけの簡素なものだった。今回の場合は、演台の正面が傍聴席で、そこから向かって左が長老衆、右が被告の席だった。弁護人は存在しない。自分のことは自分で守るしかなかった。
 裁判長は空位だった。十年以上前から、適任者がいないという理由で長が代理を務めることになっている。裁判官は彼ただ一人だ。
 裁判長席につくべく、長が演壇に上がろうとしたときだった。
 傍聴席から声があがった。
「権力が集中しすぎている!」
 百草林太郎。病で急逝した老医師に代わり、今月のはじめから正式に富谷の医師となった。まだ衰弱から立ち直ってはいないものの、百草は車椅子を持ち出して裁判に臨んだ。
 百草はその叫びを皮切りに、三権を独占する長老衆を痛烈に批判しはじめた。
 傍聴していた村民の多くは百草を支持。不当な裁判だと騒ぎ出した。
 気さくな性格の百草には味方が多かった。長老だと臆してしまうが、彼ならちょっとした悩みでも気軽に相談できると、村での評判を上げていたのだ。
 村民たちの声。
「長老以外に裁判の務まる賢者なんかいたっけか?」「百草先生がいるじゃろ」「先生を出せ!」「公平にやれ!」
 長老衆は村人たちの騒ぎに負け、臨時の裁判長に百草を指名した。
 百草が壇上の中心にすわると、ようやく裁判がはじまった。
 バクは富谷の絶対的守護神ともいえる昭乃の立場を充分に理解しておきながら、このたびのような所業に及んだ。長老衆は、侵入や脱走と、バクは今回が初犯ではないことをしつこく強調した末に、当然死刑であると言い放った。それに対し、バクはひと言、裁判長に判断を任せるとだけ口にした。
 百草は長老衆に言った。
「バクを死刑にすれば、昭乃君の後釜にミーヤを据えることは絶対に叶いません。よく考えてみてください。兄を殺された妹が、仇の地を命がけで守ろうとするでしょうか? 二人は真の兄妹ではないが、絆の深さは肉親以上のものがある。かつて同じアジトにいた私の実感です。ミーヤまでいなくなってしまったら、いったい誰が富谷の防備を取りまとめるというのですか」
 すると長老の一人が叫んだ。
「賊上がりの裁判長など笑止! 裁判ははじめからやり直しだ!」 
 だが、他の長老たちは互いに見あうだけで言葉がなかった。百草の発言はそれほど効いたのだ。昭乃の後継者問題は切実だった。
 結局、長老衆は条件つきで、死刑の要求だけは取り下げることにした。バクは絞首を免れる代わりに、富谷からは永久追放となった。ただし、ミーヤが新たな警備隊長となって生涯ここで暮らすというのが絶対条件だ。
 ミーヤは迷うことなくその条件をのみ、富谷に骨を埋める誓いを立てた。
 バクは明朝、富谷を出なければならなくなった。

 夜遅く。
 石造りの空き倉庫に放りこまれたバクは、藁山の上で眠れぬ夜をすごしていた。
 天窓から差しこむかすかな星明かりを雲が隠していく。
 バクは目を閉じた。
「俺の役目はここまでか」
 錠が外れる音がして、鉄扉が少しずつ開いていった。
 バクはあわてて身を起こした。
「あ、起きてた?」
 入ってきたのはミーヤだった。ミーヤは後ろ手に扉を閉めると、戸口に立ち止まったままじっとバクを見つめた。
「な、なにやってる。見張りはどうした?」
「外の両脇に立ってるよ」
「は?」
「大丈夫。ちゃんと話、ついてるから」
 長老衆は賊上がりのミーヤを疎んじていたが、村人たちは昭乃の妹分として彼女を密かに可愛がっていた。判決はもう覆ることはないが、牢番たちは二人の気持ちを酌んで、ミーヤの掟破りに目をつぶったのだった。
 ミーヤは続けた。
「ルウ子さんから話は聞いた。どうしてあんな嘘ついたの?」
「そっとしといてやりたいからさ。富谷は昭乃に頼りすぎるからな」
「そっか……そうだね」
 それから二人は、お互い黙ったまま目をあわせられずにいた。
 しばらくして、ミーヤがつぶやいた。
「あたしはたぶん、一生ここから出られない」
「メシだけはちゃんと食えよ」
 そっけないバクに、ミーヤは暗い顔でうつむいた。
「バクは……いいの?」
「なにが?」
「もう会えないかもしれないんだよ?」
「そうだな」
「その前にしておきたいこと、ないの?」
「しておきたいことって……」
 バクは首をかしげた。
「もういい! バクなんか誰もいない地の果てで、のたれ死んじゃえ!」
 ミーヤはバクに背を向けた。
 バクはミーヤの細い背中を見つめながら思った。
 もう二度と会えないのか。もう二度と……。
 ミーヤとのつきあいはもう八年近くになるが、お互い見えなくなるほど離れることは滅多になかった。狩りのときはもちろん、食事のときも遊ぶときも寝るときさえも、ミーヤはいつもバクのそばにいた。それが当たり前だった。ミーヤの存在を意識したのは、昭乃に捕まって富谷に軟禁された、あの時期がはじめてだった。
 空気のような存在……とはよく言うが、そうじゃない。
 彼女は水だ。
「!」
 全身に電光が駆けめぐった。
 バクはすくと立ち上がると、ミーヤを背中から抱きしめた。
「悪かった。俺はまだ自分の本当の気持ちと向きあってなかった」
「……」
 ミーヤはバクの腕にそっと両手を添えた。
「ミーヤ。おまえは砂漠の水だ。見える所に置いておかないと気がすまない」
「!」
 ミーヤはぎゅっとバクの腕を握りしめた。
「でもな、どうしても……その……ダメな理由(わけ)があるんだ」
「え?」
 ミーヤはするりと体をまわしてバクを見上げた。
「あれはミーヤを拾った日のことだ」
 バクは八年前の話をした。
「その日、俺が属していた狩人チームは、配給品発掘品(おたから)をごっそり抱えた一団を見つけた。先輩たちは逃げまどう獲物を巧みに路地へ追いこんでいった。逃げ道を失った地上人たちは命乞いをした。