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雪の王国

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村へ


 分厚いカーテンの隙間から朝日が入り込んで、その眩しさに優希は目を覚ました。
 カーテンを開けると、雪にキラキラと反射された光が部屋一杯に入ってくる。空は綺麗に晴れ、昨晩の雪はすっかりやんだようで、とてもいい天気だった。
 昨晩の雪はそこまで強くはならなかったが、シェルは無事に帰る事ができただろうか?と考えるが、この地で暮らしてきた男なのだからきっと大丈夫だろうと自分を納得させた。
 部屋の中は寒く、温かい布団から出るのが嫌で二度寝してしまいそうになる。しかし朝食の準備をしなければいけない。
「うぅ〜さぶっ」
 部屋の中とはいえ、日本の冬よりも低い気温には3日程度いただけでは慣れる事は出来ない。急いで上着を羽織ると、部屋の暖炉へ火を付け、簡単な掃除をしてから朝食の準備に取り掛かった。

 部屋が暖まり出した頃、ディークが起きてきたようで、優希に軽い挨拶をした後暖炉の前を陣取って何か作業を始めたようだった。
「何してるんだ?」
 朝食を作り終えた優希がヒョイと覗くと、ディークは大きな剣の手入れをしているようだった。初めて見る剣をマジマジと見ていると、丁度手入れを終えたようで、鞘に仕舞ってしまった。
「今日使う剣の手入れをしていた。村に行くなら狩りに参加しようと思ってな」
 そのまま、剣を入り口付近に置いてから食卓に着く。
「普段から狩りしてるのか」
「あぁ、大抵はシェルとペアで行くんだが、村では大勢で狩りに行っているからな。そっちの方が効率が良い」
 村では定期的に腕の立つものを集めて狩りに行っていて、獲物を村人全員で分け合うということを行っていた。丁度今日がその日らしく、ディークの家は優希が増えたため、食料調達のためにディークも参加しようとのことだった。
「ごめん、俺がいるから食料も倍必要なんだよな……」
 シュンと項垂れると、ディークは苦笑して優しく頭を撫でた。
「気にするなと言っているだろう」
「うん……ありがとう」
 少し心を軽くしてニコリと微笑む。ディークはいつもそう言ってくれているのだが、やはり家事だけではなく何か他に出来ることを探そうと決めた。

 食事を食べたらすぐ出発すると急かされ、急いで朝食を済ませ、ディークから借りた外套を纏う。優希はこちらに来る時に何も持っていなかったので、他に準備すべき物はなかった。
 外では既に、先ほど手入れをしていた剣を背中に斜めに掛けたディークが待っていて、優希が来たのを確認すると外套のフードを深くなるよう直してやった。
 魔法がかかっているという外套のおかげか、身体はほとんど寒くはなかった。しかし晴れていてもやはり外気は気温が低いようで、少しばかり露出している顔や、雪にうもれてしまう足は、どうしても冷たさを感じてしまう。特に足は暫くしたらまた凍傷になりそうだった。
「寒くないか」
 ディークが心配して声を掛ける。優希は少しでも心配はかけたくないと、「大丈夫」と笑って言った。
「では行くか」
 そう言って、ディークが先頭になり出発する。優希は頑張って後を着いていっていたが、足が埋まって歩き辛く、ディークの付けた足跡をたどる様に歩くことにした。
「どのくらい歩くんだ?」
「そうだな、だいたい1時間くらいか」
 結構掛かるなぁ、と聞こえないように小さくため息をつく。ディークは苦も無く歩いているが、優希にはやはり雪の上は歩き辛かった。靴の中に雪が入り込み始めて、足もだいぶ冷えてきた。
「道に出るぞ」
 必死にディークの足跡を追っていた目を前に向けると、すぐ前方に雪を踏み固めたらしい道が見えた。これで楽に歩くことが出来るだろう。
「やった、道だ」
 とても硬く固められた雪の道は、柔らかい雪の上より断然歩きやすかった。

 ホッと息を付き安心したと思ったところで、
「うわっ!」
 盛大に転んだ。

「大丈夫か」
 ディークが少し笑いながら助け起こしてくれる。優希は恥ずかしくて顔を真っ赤にしていた。
 固められた雪はツルツルとした表面で、何の滑り止めのない優希の靴では気を抜くと滑ってしまう。
「後でブーツを作ってやらなければな」
「ごめん、頼む……」
 ポンと頭に手を置かれ、どうやらディークは慰めようとしてくれているようだ。しかし見上げれば、ニヤリと堪えきれない笑いを滲ませた顔が見えた。
「……っ!先に行くからな」
 優希は怒りか羞恥か、更に顔を赤くしてズンズンと先に行ってしまう。ディークは苦笑してゆっくり後を着いていっていたが、前方でまた転んだらしい涙顔の優希を助け起こしてからは、優希の手を強引に取って進んだ。
 最初は恥ずかしそうにしていた優希だったが、転びそうになるとディークが手を引いて支えるということを数回繰り返したあと、諦めたのか手を握り返すようになった。
 村の入り口が見えるまで手を繋いで行き、外で待っていたらしいシェルに見つかって盛大にからかわれたのだった。




 村は不思議と全体が暖かい気がした。聞けばこれも魔法らしく、国にかけられた魔法の下位版とのことだった。それでも年に何度か掛けなおさねばならないというのだから、国にかけられた魔法がどれだけ強力なものなのかが分かる。
 魔法で暖められているため地面には雪がなく、土がむき出しになっている。ロッジのような木の建物の周りには住人が植えたのだろう、色とりどりの花が揺れていた。

 村中央の広場には大きな焚き火があり、沢山の男達が集まっていた。皆外套を見に着け、それぞれ武器を持っている。おそらく狩りの参加者だろう。
 入り口で合流したシェルは昨日来た時と同じ様な格好をしていたが、背中に大きな弓を背負っていた。後で狩りに参加するらしい。
 普段はディークと二人で狩りをしているのだが、ディークが村に来る日はこうして村の狩りに参加するそうだ。
「集団って言ってもある程度は個人で狩りするんだけどね。協力するのは大きな獲物を狙う時だけだよ」
「へー」
 大勢で大きな獲物を狩るなんて、まるでゲームのようだと思った。
「俺も行ってみたいな」
 思わずと呟くと、すぐに「だめだ」とディークに止められてしまった。
「ユーキが行っても邪魔になるだけだ」
 冷たい言葉に心臓がチクリと痛む。ディークの言葉はそのとおりで、武器も扱えない優希が行ったところで完全に足手まといになってしまうだろう。
「まったくもっと素直になれよ。ディークはね、万が一ユーキ君が怪我でもしたら大変だから心配して言ってるんだよ」
 ディークを見れば、そっぽを向いてしまってどのような表情をしているのかは伺い知れなかった。ツンデレというやつだろうかと思い、ぷっと笑うと、ディークはむっとして「あそこだ」と広場に面した大きな建物を指差した。
「あそこに魔術師が住んでいる」
 その大きな建物は、周りのロッジと同じ様な外観ではあったが、小さな看板がぶらさがっており、何か商売を行っているのだろう。
「なに、魔術師に用事?」
 シェルが口を挟む。そういえばシェルは優希が魔法のことについて知らない、と説明していなかったと思い出し、優希は先日あったことを話した。
作品名:雪の王国 作家名:banilla