雪の王国
間髪いれず突っ込んだのはディークだった。楽しそうに笑っているシェルが「冗談冗談」と手を振ってジェスチャーする。シェルが来てから数時間しか経っていないというのに、優希は既にこの光景に慣れてしまっていた。ただ、本当にこの二人は仲が良いんだろうとしか思っていないようだが。
「ユーキ君、この説明でなんとなく分かったかな?」
「あ、なんとなくは……」
まだよく理解はできていなかったが一応頷く。分からないことは随時聞いていけばいいだろう。
「それで、春が来るとは?」
一息付いて、ディークが本来の話題に戻す。シェルはニコニコしたまま頭をポリポリ掻いている。
「あーそれね。実はそれ以外よく分からないらしい」
「何だ、それだけか」
これでは拍子抜けしてしまう。もっと詳しい内容なのかと期待していた優希も、少し落胆して肩を落した。
「まぁ、いつも通り過ごしてればいいんじゃないかな。……じゃ、伝えたし俺帰るよ」
そう言って、立ち上がり外套を被る。来た時と同じ様にフードを目深に被り、前をしっかり合わせた。
「ああ、わざわざすまんな」
「え、もうこんなに暗いのに帰るの?外も雪が強くなってきたみたいだけど……」
窓の外を見ると、既に日は落ちて吹雪き始めていた。強くなり始めた風が窓枠をカタカタ鳴らしている。心配した優希が声をかけるが、シェルは「大丈夫」と笑った。
「このくらい慣れっこだよ。それに、ここからは見えないけど村も結構近いんだよ?あ、でもユーキ君がそういうなら泊まって行こうかな」
「帰れ」
ピシャリと拒否され、苦笑して手を振る。
「はいはい。じゃあね。ユーキ君、今度村に遊びに来てよ」
「あ!明日行く予定だから」
「そうなんだ。じゃあ楽しみにしてるよ。何にもないけど、村を案内するよ」
優希が伝えると、シェルは嬉しそうにニコリとして提案してくれる。優希としては明日もシェルに会えるのが嬉しかった。数時間話しただけだったが、いつもニコニコして話しも楽しい男で、彼を嫌いになる人などいないだろう。
「俺が居るから必要ない」
「ディーク!」
「アハハ、じゃあまた明日!」
先ほどからもう何度目だというやり取りをして、シェルが手を振って出て行く。外は夜だということもありとても寒かったが、優希は出来るだけシェルが遠くに行くまで手を振り返した。
シェルが見えなくなった頃、漸く部屋に入ると、身体は冷え切っていた。ディークは何やら言いたそうだったが、優希のために風呂の用意をしに行ってしまった。
優希は翌日の村訪問を楽しみに考えながら、お茶の後片付けをしたのだった。