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雪の王国

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予言


 1日も休むとすっかり体調もよくなり、凍傷も驚くほど回復した。
 優希が休んでいる間にディークは部屋を作ってくれていたようで、手作りの家具が並んだ部屋は、1日かそこらでこんなに作れるのかというくらい立派だ。
「こう見えて手先が器用なんだ」
 照れくさそうにそう言ったディークの身体はとても汚れていて、急いで作ったのだと分かる。
「あ、腕怪我してる」
 急いで作ったからだろう、ディークの腕が切れて少し血が滲んでいるのに気付いた。
「気にするな」
 そう言われても、自分のために怪我をしたディークに申し訳ないと腕を取る。
「俺のせいだね。手当てするから何かない?」
「大丈夫だ」
 何故か顔を赤くしたディークが拒むが、どうしてもなんとかしてやりたい。
 そう思いながら傷の様子を見ようと手を伸ばすと、自分の指先がほのかに熱くなっているのに気付いた。
 疑問に思う暇も無く、そこから温かい光が広がる。
「えっ?!な、何?!」
 光はすぐに消えて、驚いた優希は自分の指先をマジマジと見た。
「ユーキは回復魔法が使えるのか」
「ま、魔法?!そんな、ゲームじゃないんだから……」
 見ると、ディークの腕にあった傷が跡形も無く消えている。
 どうやら、本当に魔法を使ったらしい。優希は信じられないといった様子で自分の指先とディークの腕を見比べているが、やがてここが異世界だということを思い出し、何でもありえるという結論にいたった。
「俺、魔法が使えるのか」
 魔法と言えば、子供の頃誰しも真似事をして遊んだだろう。優希もその一人で、自分が魔法を使えるようになったかと思うととても嬉しい。
「ユーキの世界では魔法はなかったのか?」
「ないよ!魔法なんてゲームの中の世界でしか使えないんだ」
「不便そうだな」
「そんな事無いよ。魔法は無いけど、色々な技術が発達していて生活に困ることはないんだ」
 ディークは感心したようだ。優希はもう一度魔法が使ってみたいと指先に力をこめたりしていた。
 しかし先ほどと同じ様にはならず、落胆する。
「回復魔法はどこか怪我や悪いところが無いと使えないぞ」
「そうなのか……」
 ディークは明らかにがっかりした優希に優しく微笑むと、優希の頭にポンと手を乗せる。
「俺はほとんど魔力がないからよく知らんが……。村に魔法に詳しい者がいる。明日行って聞いてみようか」
「えっ村があるの?」
 雪原で倒れる前、このディークの家意外に建物は見当たらなく、村があるとは知らなかった。
 てっきりディークは一人きりで暮らしていると思っていたのだ。
「少し歩くが……行けるか?」
「うん。頑張るよ」
「ではその格好では寒いだろうから外套を貸してやる」
 部屋が温かいのとずっと寝ていたので気付かなかったが、確かに優希の薄着の格好では寒いだろう。
 起き上がると部屋の中とはいえ肌寒さを感じた。
「ありがとう」
「いや、丁度買い物にも行きたかったからな」
 そう行って部屋から出て行き外套を持ってくる。外套は動物の毛皮のような質感で触ると不思議と温かかった。
「気持ち良い手触りだなー。なんかこの外套自体が温かいな」
「温度を調節する弱い魔法がかけてあるものだ。ユーキの格好でも寒くないだろう」
「へー、便利なものがあるんだな」
 魔法がかけてあるという外套を羽織ってみると、確かに温かい。室内なのでそこまで効果は実感出来ないが、羽織った瞬間に丁度よい温度に包まれる感覚がした。
「俺は風呂に入ってくる」
 そう言ってディークが出て行く。優希のために部屋の準備をして汚れていたのを思い出し、引き止めてしまって恥ずかしくなった。
 何かお礼がしたいと思い、そろそろ夕食の時間だと思い出す。
「そうだ、これから俺が飯を作ろう」
 一人っ子だった優希はそれなりに母の手伝いをしていたため、高校生男子にはめずらしく家事が得意だった。優希が休んでいる時ディークの料理を食べたが、はっきり言ってあまり料理上手とは言えないものだった。これから住まわせてもらうのだから家事の得意な優希が料理をするべきだろう。
 そうと決まればと早速台所へ行く。
「よかったあんまり俺のいたところと変わらないな」
 流石に電気ガスはないようだったが、火を直接付けるタイプのコンロと、小さな洗い場がある。
 食材は野外の貯蔵庫にあるようで、そこへ行ってみると、やはり見覚えのある食材などが置いてあった。驚いた事に米もある。
 調味料は味噌のようなものと塩と砂糖だけのようだったので、適当に炒め物と味噌汁を作ることに決めた。

「よしっと、まぁこんなもんだな」
 出来上がった料理を並べてディークを呼ぶ。

 ディークは風呂に入ると言って10分もしないうちにさっぱりして出てきていた。まるでカラスの行水だ。美味しそうな匂いに気付いて台所に来ると、珍しそうに優希の料理を見ていた。
 優希がこれから料理を作ると伝え、「そうしてもらえるとありがたい」ということで、これからは料理は優希の担当になった。

「うまそうだな」
 料理を見て褒めてくれる。ディークは微笑むと優希の頭を優しくなでた。
「へへ、調味料が俺の世界のとあまり変わらなかったから取り合えず適当に作った」
 ディークは照れくさそうに笑う優希に目を細め、頬を擦る。ディークから出る甘い空気に耐え切れず優希は先に席に座った。
「冷めないうちに食べてみてよ」
「……ああ」
 少し残念そうにディークも座る。そして食べようと手を伸ばすと、突然ドンドンという大きな音が響いた。
「なんだ?!」
 驚く優希に、ディークは明らかに嫌そうな顔で立ち上がり玄関へ行く。どうやら大きな音は家の玄関を強く叩く音のようだった。
「お客さん?」
 ディークは無言でツカツカと歩いていく。優希も慌てて後を追った。

「もう少し静かにノックしろ」
「うおっと!」
 玄関の扉を勢い良く開けると、強く叩いていた人物が勢い余って飛び込んでくる。
 その人物は先ほど優希が借りたものと同じ様な毛皮の外套をまとった、これまた背の高い男だった。200cm近くあるディークより少しだけ低い身長だが、優希からは見上げるような高さだった。
「やぁ」と言いながら外套のフードを取ると、人の良さそうな顔立ちが覗いた。年齢はディークと同じくらいだろうか。
「あれっ、お客さん来てたの?見ない顔だな」
 優希は自分の事だと分かり、慌てて自己紹介をする。
「あ、優希といいます。えーと……居候させてもらってます」
「えぇ!あのディークが?!これまた珍しいなぁ!俺シェルっていうの。ディークの相棒。よろしくね」
 シェルと名乗った男はニコリと微笑み、手を差し出す。優希が慌てて手を掴むと、嫌そうな顔をしたディークが間に割って入った。
「何の用だ」
「相変わらず冷たいなぁ。立ち話も何だからお邪魔しますよ」
 そう言って勝手に中に入ってしまう。いいのかと優希が視線でディークに問いかけると、「いつものことだ」と呆れたような返事が返ってきた。

「おっなんか美味しそうな匂いすると思ったらやっぱりこれから飯だったか。丁度良いから俺もご馳走になろうかな」
 シェルは部屋に入ると、当たり前のように食卓にドカリと座った。
作品名:雪の王国 作家名:banilla