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りんみや 陸風4

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「・・・おい、葛・・・あの情報ルートは、全部は・・・それなら、こちらから連絡して組み入れられるようにして渡すから・・・」
「いや、全部は必要ないんだ。あれはリッキーの一族のものだからね。そこまでは必要ないし、私たちでは使いこなすのが一苦労だ。・・・もう、事業のほうは十分だ。少しは身体を休めて、ゆっくりとしなきゃ駄目だよ。働きすぎ、いくらギャランティー稼いだが、教えてやろうか? 」
 そんなものはどうでもいい。ただ、やることがなくなったから働いていただけだ。勝手に銀行の残高は殖えているだろうが、ここ数年、見たこともない。
「悪かったな? うちのオフィスやら私のアパートメントの解約なんかの費用とおまえのサービス料は請求してくれるかい? それを振込みするから、計算出来次第に・・・」
 仕事以外に頼んでしまったのだから、その費用は請求してもらわなければならない。それはビジネスの基本だ。それなのに相手は一瞬、沈黙して聞こえよがしのため息を吐き出した。
「・・・それは本気で言ってるの? リッキー・・・」
「本気って当たり前じゃないか。こんなプライベートなことで、おまえを働かせてるんだ。そのギランティーを支払うのは常識だ。おまえこそ、何を言ってる? 働きすぎなのは、おまえのほうじゃないのか?」
 変り者だと思っていたが・・・年々にリィーンに似てくるなあ、と葛は呟いて笑いだした。そんな問題ではない。城戸は解雇されているわけでもないし、ましてや友人で、その友人の手伝いをしたぐらいで請求書を送れ、などと言われるのもおかしい。だいたい、情報管理部門は城戸から葛の管理に変わったのだ。先任者からの引継ぎに対して、個人的な支払いなど必要はない。
「・・・ボケてる・・・」
「えっ? なんだって? 葛。」
「ボケてるよ、リッキー。しっかりしてくれよ、そんな年じゃないだろう? 情報管理部門は私が引き継いだ。その引継ぎの手続きに対して、きみが支払う義務は生じない。まず、それが一点。それから・・・リッキーが病気で身動きとれないんだから、友人の私が、きみのプライベートの手伝いをすることに対しても支払いの義務は生じない。これが二点目だ。よって、きみは私に対して支払う義務はない。強いて挙げるなら、「ありがとう、助かったよ。」というお礼の言葉を頂くぐらいのことだ。」
 わかったか?と念を押して葛は笑っている。あまりに他人行儀なことをいう友人だ。ビジネスライクな関係者なら、それでいい。だが、すでにその関係は『見えない篭』に参加した時点で越えている。
「おまえの嫌いな働き損というやつだぞ。」
「損にはならないな。損益分岐点というものは友情とは相殺できない。・・・忘れてるみたいだけど、私はきみの友人という関係であって仕事仲間ではない。そんなものは十年以上前から関係に変化はしていないんだが? 歳幸様からゆきちゃんと呼び変えた時に、私もきみと友人になったはずだよ。」
 はたと城戸は気付いた。スタッフは仕事として、宮脇を守っていたわけではない。本気で入れ込んで守っていた。先日、多賀や九鬼からも申し渡されたことだ。まず、自分が首謀者だ。それを忘れていると葛は指摘している。
「・・あ・・葛・・・じゃあ、本当に親切というやつ?」
「そうじゃなかったら、ボランティアと呼んでくれても構わないよ。まあ、私のボランティアは友人限定だけどね。・・・とにかく、仕事のことは気にしなくてもいいから、ゆっくり身体を休めてくれ。随分、酷いってタガーが心配してるよ。本当に大丈夫か?」
「ああ、身体は大丈夫だ。もう、すっかり良くなってる。・・・ごめん、助かった。」
 背後から多賀は、「どこが大丈夫だってぇぇぇ・・・」と叫んでいる。向こうにも聞こえたのか葛は大笑いしている。
「後ろでタガーが叫んでるじゃないかあ・・・リッキー、無理しなくていいんだ。もう慌てる必要なんて、どこにもない。美愛とこれからずっと一緒に居ればいい。きみよりも長生きな女王さまだ。きみはその子を育てればいい。それがきみには一番だと私は思うんだ。子育ての才能がリッキーにはあるよ。実務経験者の私が保証する。」
 いつものように穏やかな葛の声に、城戸は、「ああ」と同意した。あの壊れた一年の頃、葛も半年近く手伝ってくれた。その頃から葛は変わらずに自分を友人として扱ってくれている。
「心配させてたんだってな? クッキーが言ってた。」
「そりゃそうだろう。きみが一番打撃を受けてるはずなんだから。・・・それなのに、リッキーは連絡する度に、『うるさい』って一喝してくれるもんだから・・・本当に、どうしようか、って途方に暮れた。」
「ごめん、仕事以外の話は聞きたくなかった・・・それで・・・」
「うん、そうなんだろうとは思ってた。・・・もういいよ。終わったことだ。ちゃんとリッキーは捕獲されて手当てを受けてる。煩い医者で残念だろうけどな、まあ、キムよりはマシだと思うよ。あっちのほうが容赦しないからな。」
「そうかなあ、キムのほうが優しそうな気が・・・いや、あっちは漢方薬で攻められるのかぁ・・・それのほうが辛いな。」
「だろう? そのうち、私も日本に行く。それまでには健康になって、観光地の案内ぐらいはしてくれよ。」
「そんなもの・・・今更? ・・・おまえ、何度も来てるくせに?」
「仕事以外では日本には行ったことがないんだ。観光なんてしたこともない。うちの未来のクィーンと同伴で観光というのも楽しそうだ。」
 クスクスと葛の笑い声が聞こえる。ちょっとばかり予想して楽しんでいる。まだ。葛は美愛と実際に対面はしていない。なにせ、波乱含みだった交替劇があって事態の収拾と、水野の全体を掌握するのに忙しかったからニューヨークを離れるわけにはいかなかった。それだけに城戸を捉まえるのが難しかった。それは九鬼も同様だ。早く捕捉しなければ、城戸は壊れるとわかっていても、現実の仕事にかかりっきりになった。五年も野放しになったのは、そういう事情もあってのことだ。当人が日本に現われてくれなかったら、今だに情報管理部門は無尽蔵に利益を生み続けていただろう。
「じゃあ、タガーに苛められて待ってるとするよ。・・・でも、どうしても、という時は声をかけてくれ。クッキーは若いから、無理する時がある。そういう時はパックアップしてやりたいんだ。」
「ああ、わかってる。じゃあ、また、連絡する。そうだ、今年のうちにDGが捕獲された珍獣を拝みに行くって言ってた。あっちのほうが先に行くだろう。」
 さすがに葛はおいそれと動けない。クッキーが日本にいるので、水野の事業全体の管理は葛が担当している。指示を出すのはクッキーでも実際にチェックするのは葛の仕事だ。クッキーがニューヨークで指揮するようになれば、水野のオフィスも活動が楽になる。その下準備の段階だ。何年か後に、九鬼はニューヨークのオフィスの玉座に就く。それまでは葛も離れるのは難しいだろう。
「おまえも無理するな。おまえのスタッフは優秀だ。」
「ああ、任せられるものは任せているよ。以前のように自分で動くのは体力的にきつくなってきたからな。・・・・落ち着いたら、トランクルームの荷物リストを送る。それでは、これで。」
作品名:りんみや 陸風4 作家名:篠義