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天気予報はあたらない

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 「兄貴、泣いたん。」

 こういうとき、弟という存在はずるいと思う。些細な変化に気がつきすぎて、余計な爆弾を落としてくる。そういうところも浩二のいいところだから、直せとは言わないけど、少しは空気を読んでほしい。

 「泣いた、っていったら。」
 「泣かしたやつをぶん殴る。」

 即答かよ、と思ったけどその単純さに少し体が楽になった。ずっと、俊二のことが頭の中でグルグルしてしまっていた身には、なんとありがたいことなのだろうか。

 「そんなこと言ったら、おまえの尊敬している人を殴ることになるぞ。できるの。」

 だって、泣かしたのは、俊二だから。
 ちょっとカマをかけてみる。体育会系で育った弟にとって、先輩後輩とかはけっこう厳しく体に叩き込まれているので、きっと悩むのだろうと思っていたのだが。

 「誰であろうと、兄貴を泣かしたやつは、敵だし。関係ねぇよ。」

 泣かすな、お前まで。
 泣きそうになるのを必死にこらえて、嘘をつく。

 「ばーか、考えすぎ。」
 「なにが、ばかだよ。」

 浩二はむっとした表情を一瞬で作り上げる。

 「劇の練習で泣かなくちゃいけなくて、それで本当に泣いただけだって。」

 あながち、嘘じゃないし、そんなに罪悪感は感じない。

 「ふーん。それならいいけど。」

 ちょっと疑ってはいるが、話したくないというこっちの空気がよめたのか、そっからは何も聞いてこなかった。このままもなんか気まずいので、話を変えてみる。

 「浩二。」
 「なんだよ、兄貴。」
 「もう、ファーストキスはしたん。」

 浩二の顔が一気に赤くなる。部活ばっかりしていたせいか、こういう話題にはかなり疎い浩二にはこういう話が一番動揺させられる。

 「いいだろっ、別に。」
 「ふーん。」

 少し茶化すように返事をする。やっぱりこういう弟の姿はかわいいものだなと実感する。さっきまで、兄貴を守るだなんて言っていて人とはまるで別人のようだ。

 「いいんだよ、ファーストキスはほんとに好きな人とするんだから。」

 なんて、純粋なのだ。さらに意地悪してみたくなる。

 「じゃあ、兄ちゃんとしてみようか。」
 「やだよ。」
 「んな、一回も二回もかわらないって。」

 そうだよ、ファーストキスでもなくて、そんな特別な意味合いなんてなかったのに、あの時のキスは、特別になってしまったんだよ。

 「やーめーろーよ、ふざけんな兄貴。」

 力いっぱい浩二に蹴られて、その痛さに悶えながらも、再び俊二のことでグルグルしだすのであった。
 たぶん、今日は眠れないのだろう。

作品名:天気予報はあたらない 作家名:雨来堂