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天気予報はあたらない

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 刺し障りのない話をして、二人っきりの夜は更けていく。
 少し前に俊二から始発に乗ったというメールが入った、と浩二に告げれば、相変わらず、そっすか、と簡単な返事が返ってきた。

 ――悪気は、ないんだよな。

 時間潰しをしている間に、徐々に気持ちを整理することができていた。浩二の態度を見るにつれ、本気で啓太のことで必死なのだと理解でき、それ以外のことなど目に入っていないのだということをうまく咀嚼し、ずっと後ろを向いてきた気持ちが少しだけ楽になった気がした。

 店内は深夜帯で一時来客が減り、まどろんだ空気を醸し出していたが、朝を迎え朝向けのメニューへと準備をするために慌ただしくなり始めていた。

 同時に始発が動くことで繁華街で夜通し飲んでいたのだろう学生のグループがなだれ込むように店内へ流入し、飲み会最後いの締めとして各々自分のコンディションに会ったものを騒がしく注文していく。

 その様子をみて浩二が軽く舌打ちをした。

 「うっせぇな。」
 「まぁ。仕方ないじゃん。睨むなって。」

 俊二が夜通し遊んでいると思っている浩二にとって、彼らは同類に見えて仕方がないのだろう。

 ただ、この状況でからまれるのはあまり好ましいことではない。いくら図体がでかくて力のある浩二がいたとしてもだ。そういうトラブルを避けること、これが自分の今の使命なのだと勝手に決めて、制止を心掛ける。

 「そ、それはそうと、もうすぐだとおもうんだけどな。」

 俊二の行く大学からここの駅までの所要時間からすると、昼間だったらもうすぐ着いてもいころだろう。ただ、今は早朝なので普通電車しか動いていないのかもしれないのだが。

 「とりあえず、俺、そっち座っておくな。」

 俊二が来たときに、浩二の向い側に座ってもらったほうがいいだろうと思い、浩二の横にそっと座る。ただ、それだけのために無意識に行ったことなのだが、今までで一番近い浩二との距離感に、胸が高鳴る。

 ――だからといって。浩二の中に俺は存在しないんだけどさ。

 そう思えど、今まで見てきた浩二を捕らえる視覚以上に、そばに寄った時の体温や、浩二の匂いに頭の中では徐々に感覚が麻痺してしまいそうだった。

 そのまま、少し黙る。お互いに何か話すことを探すが、この隣どうしという形態は、なんか話づらことに気が付く。

 そんなことを考えていると、先ほどまでいた学生の集団の注文が全部揃ったようで、テイクアウトした彼らは騒がしさの後に残る余韻だけを残して過ぎ去った。

 これで少し落ち着くなと思った瞬間、目の前に待ち人が現われた。

 「悟志、お待たせ、って浩二もいたんだ。」

 そう言うと、思惑通り俺たちの目の前に座る。手にはドリンクが乗ったトレーがあって、それを片手で器用にテーブルに下ろすと、ストローを差し込んだ。ただ、その間にも浩二は未だ無言で、胸がドキドキして仕方がない。

 「おう、俊二。遅かったな。」
 「あ、本当はもちっと早く着いてたんだけどさ、あいつの注文が遅くてさ。」

 ――ん。あいつって、俊二は誰をつれてきたんだ。

 内心、しまったと思った。俊二が誰かを連れてくるという可能性を考えていなかったのだ。これは浩二も一緒だろう。高校の友人だったら自分が連れだせばまだいいのだが、大学で知り合った人ならどうしたらいいのだろう。それに、高校でも、大学でもこんな話の内容は公でできるはずがない。

 ――誰だ。いったい、誰なんだ。

 緊張感が高まっていく。ふと横に居る浩二の顔を見る。当の浩二は誰が来ようときっと言ってしまうだろう。それくらい余裕のない表情を醸し出していた。

 それは、俺が責任を持って防がなくてはならない。だから、はやく今から来るのが誰なのか知りたいのだ。

 「ほら、こっちだよ。」

 俊二が手招きする先には、自分の中で消しても消しても、何度もよみがえって仕方がない、その姿があった。

 「な、なんで、こ、ここ……。」

 言葉がうまく出ない。隣に座る浩二も明らかすぎる大きな動揺に心配そうに見る。

 その人物はテーブルに自分の注文したトレーをおくと一気に自分のことを抱き寄せた。

 「悟志。会いたかった。」

 頭の中がぐるぐるする。確かに決別したのだ。あの日、あの時、あの場所で。再起もできないくらいにコテンパンにやっつけられたのに、今、会いたかったと言って抱きしめられている。この状況は、一体なんだ。

 「ゆ、ユーちゃん。な、なんで。」

 なんで、としか言葉が出ない。人違いなのではないかと考えて、何度、自分の知っている幼馴染の情報と照らし合わせても合致するのだ。

 手がゴツゴツして大きくて、体つきは自分よりも一回り以上大きくて。

 意外と子供体温だから、人よりも体が温かくて。

 「それがさ、大学のバスケットの推薦でこっちの大学の説明会来たらさ、シュンと知り合ってさ。」

 バスケットボールを真面目にやっていて。

 それでいて上手で。

 声が渋い重低音で。

 「このこと話してみたら、偶然、知り合いだっていうんだよ。わやすげぇべ。なっ、シュン。」

 北海道弁を使っていて。

 社交的で。

 「そーなんだよ、悟志。偶然でさ。ってかお前、よく朝っぱらからそんな油もの食べれんな。」

 マクドナルドに来るときは、絶対フィレオフィッシュを頼んでいて。

 全てが、空白の何年かを埋めていくように自分と雄平の間を詰めていく。

 この手を今すぐほどかなくては、いけない。そう冷静になるべきだと思い、あたりを見回す。

 俊二はきっと何も知らないのだろう。俺と雄平がどんな別れ方をしたのか。きっと、不慮の転校くらいに思っているのだろう。

 じゃなきゃ、そんなしてやったり顔なんてできるはずない。そして、浩二はそんな様子を醸す俊二にイライラしてるのだろう。ようやっと重い口を開いた。

 「俊さんさ、得意気になってんじゃねぇよ。」
 「なんだよ、いきなり、どうした、浩二。」

 普段、あんなに浩二は俊二のことを慕ってきたのだ。急に投げかけられる暴言に動揺してもしょうがない。

 「なんなんだよ、お前は。」
 「お前って、なんだよそれ。」
 「兄貴は、あんなに傷ついて苦しんでんだぞ。」

 すごい剣幕で、俊二に詰め寄る。浩二はもうここが店内であるということは、意識から外れてしまっているようだった。

 「こーちゃん、ちょっと……。」

 一度、制止を図る。ここで暴れられでもしたら、それこそ大問題だ。しかし、それでも浩二はもう止まる気はないようだ。

 「だいたいさ、なんでそんなに人の人生ひっかきまわすんだよ。」

 声は抑えつつも責める気持ちには変わっていないようだった。

 「そいつ、悟志さんに何したか知ってんの。」
 「なんだよ、それ。」

 俊二が、表情を逆転させてこちらを見る。知らない情報が多すぎるのだろう。目が泳いでしまっている。浩二が言葉を紡ぐ。

 「そいつは、悟志さんの……。」
 「こーちゃん、何言ってんの。違うよ。」
作品名:天気予報はあたらない 作家名:雨来堂