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天気予報はあたらない

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 「聞いたぜ、兄貴。」

 夜更かし中に小腹がすいたなと思い、深夜のバラエティー番組を見ながらカップラーメンをすすっていると、後ろから急に手が伸び、まだ食べかけのそれを奪われた。

 「あ、てめ。浩二、それ俺の。」

 とりあえず抵抗をするが、浩二は非常にたくましく、力なんて中学の時から決して及ばないため、すぐにあきらめる。
 しかも、後ろから抱きすくめられる形で奪われてしまったため、下手に動いて二人とも体制を崩せば、ラーメンの汁がこぼれてしまい、大惨事になりかねない。その場合に、怒り狂った母親の顔が浮かぶので、それは絶対に避けなくてはならない。

 ここは、取り返すことを考えることよりも、浩二がそれを手放した瞬間を狙って、再び奪い返そう。
 そう決心して、機会をうかがうが、その間にも、まだ半分もあったであろう、俺のカップ麺がどんどん弟の腹の中に消えていく。

 「腹減ってんなら、自分で、つくれや。」
 「ごちーそーさん。」
 「早っ。」

 悪態をついた時には、もうすでに汁も全てすすり終えたようで、そこには無残にも、空になったプラスチックケースしか残ってなかった。

 「筋トレしててさ、腹減ってたんだよ。」

 ラーメンの汁で脂ぎった唇をシャツの裾で拭う。その時に見える太い腕が、自分にはないものを見せつけれれているように感じる。
羨ましくもあり、ちょっと浩二のくせに生意気だとも思う。
 浩二は高校でバスケをやっており、これでもかというくらい、意味もなく体を鍛えている方だ。

 意味がない、といったら失礼か。

 本人の名誉のために言うが、浩二の高校のバスケ部はそこそこ強いらしく、さらには、主力らしい。実際に俺は見たことはないのだが、弟を溺愛している母親が、毎回試合を見に行く度に、その日の夕飯時に興奮気味にはなす試合のレポートを聞いていれば、たやすくそれが真実であることが分かる。

 浩二は昔っからのめり込んだら一直線タイプなので、そういった、期待されることにめっぽう弱い。だからこそ、ストイックに、その期待にこたえようとする。こんな、毎晩欠かさずにする筋トレも全ては自分に期待してくれる人のためにやっているにすぎないのだ。そんなところが、浩二のいいところだと、俺は思う。
 そのせいか、高校にして兄弟二人の体つきはまったく違い、何度も試練を乗り越えてきたその顔だちは自分よりすこし大人びていて、
一見すると浩二の方が兄に見られることがある。でも、それでも兄として、やっぱり弟よりもすこしだけ背伸びをしたいのである。

 「えらいな、浩二は。」
 「な、なんだよ、急に。」
 「そーいう、ストイックなところ、尊敬するわ。」
 「や、何いきなり、変なこと言うなよ、兄貴。」

 照れてら。

 兄としての上から目線攻撃に、すこしたじろいだのがわかる。急すぎて、よっぽど照れたのだろう。密着している分、浩二の体温が少し上がった気がする。

 「浩二。」
 「なんだよ、兄貴。」

 少し反るようにして目と目を合わせる。
 あ、やっぱり顔が赤い、笑っちゃうな。

 「汗臭い、のけ。」

 別にそんなに気になったわけじゃないけど、それくらいしかこの状況から抜ける理由が見つからなくて、つくづく、自分も弟を溺愛しているのだと苦笑する。

 「あーあ、のど乾いたな。」

 そう言って立ち上がると、冷蔵庫から麦茶を取り出す。

 「オレにもちょーだい。」
 「仕方ないな。」

 相変わらず、弟としての実力を発揮している浩二にたじたじだが、それだけ兄さんができているので、少しうれしい。

 「兄貴、ありがと。」

 そう言って振り返った浩二の姿に少しだけ気をゆるめながら、そういえば、何を聞いたのかをはっきりさせていなかったな、と思う。

 「そういえば、さっき何か言おうとしてなかったか。」
 「あー、そうそう。俊サンから聞いたんだけどさ、……」

 まさか、と思った。兄としての威厳が崩れるような気がした。浩二の目はもう爆笑寸前で、バカにされるのはもう数秒の間に察知した。

 「……兄貴が白雪姫とか、マジ、ヤバっ。」

 明日は、俊二のこと無視し続けてやろう。

 「そ、そんなに笑わなくていいだろ。」
 「どうなん、練習は。」

 興味本位での質問には答えないことにした。 もう、バカにされる種はまきたくない。

 だって、兄さんだもん。弟の前ではかっこよくいたいじゃん。
 だから、一言で簡潔に答えてやるよ。

 「あーもう、マジ、全部無理。」

作品名:天気予報はあたらない 作家名:雨来堂