天気予報はあたらない
「はい、じゃあ、今年の学園祭のクラス演目は、啓太の案のリアル白雪姫で決定しまーす。」
クラス委員がそういうとめんどくさい感じのまばらな拍手が鳴り響く。決まってからはそれに向かって一致団結できるくせに、決まるまでが非常に長い。これも、なかなか案が出ず、なし崩し的に出した自分の冗談みたいな案が通ってしまったのだ。白雪姫を題材に、現代風にやってみようなんていうありきたりなもの。それが通ってしまうから、こういう沈黙した学級会の早く決まれオーラはすごいと思う。
「それで、配役なのですが、……」
一つ乗り越えたと思ったら、もう一つの山が残っていた。
――まぁ、俺はもう案を出したことだし、あとはクラスの空気になってやり過ごすか。
「はいっ、委員長。」
そんな事を思って、クラスの中で空気と化していた矢先、クラスのリーダー格の女子が、とんでもないことを言いやがったのだ。
「あの、あたし思ったんですけど、もうそれケーちゃんでよくないかなって。白雪姫みたいなカッコ、似合いそうだし。」
何言ってんの、お前。
このクラスは文系なこともあって、若干であるが女子が多い。そのため、白雪姫なんて大役は当然女子がやるものだと思っていたのだから、突然の出馬に動揺を隠せない。
もともとが女の子みたいな顔つきもあいまって、普段から化粧をしてみたいという女子はいたが、それですら断ってきたのに、そういうことが公然とできてしまう環境ができてしまう。何か反論を、と思ったがクラスメートからの圧力がすごい。
――こいつら、これで流す気だ……。
めんどくさい、の代償はすべて俺が犠牲になることが、このクラスのなかでどうやら決定したようだ。前に座る悟志ですら、ご愁傷さまの目線を投げかけてくる。
そんな目をするなら、助けてくれよ。
「啓太さえよかったら、決まるけど、どう。」
学級委員が放った言葉の後ろ側にある、いいよね、が見えたような気がした。もはや、このクラスに見方はいないようだ。
「……はい、やります。」
「あ、じゃ、決定で。はい、拍手ー。」
そんな拍手をするな。めでたくなんかない。
しかし、そんな敵意はこの先の自分の高校生活にとってマイナスになるであろうから、心の中に軽くしまって、笑顔で答えることにしよう。そのまま、俊二に目をやると、なにか企んでいるようだ。不敵な笑みを浮かべたまま、急に俊二が手を挙げた。
「あー、じゃあ、ケータが姫やるなら、おれ、王子やるわ。」
クラスが沸いた。なんだこのイメージアップは、といじらしく思う。
そりゃそうだろうな、めんどくさいことが一気に片付いた上に、俊二だもん。
女子からの指名でなし崩し的に決まった俺とはもはや天と地の差。
まったく、ずるいったらありゃしない。
そんなことを考えているうちに、その沸いた流れですべてが決まったようだ。
「じゃ、主役の二人から一言よろしく。」
そう学級委員に言われたので、立ち上がってコメントを残そうと思ったのだが、少しひきつった顔で、
「がんばります。」
そう一言だけしか、言えなかった。
作品名:天気予報はあたらない 作家名:雨来堂