天気予報はあたらない
しかし、その指はリモコンのボタンを押せずにいた。予想外が起こったからだ。
解散を告げられた相方は、無表情で相方のダメ出しを始めたのだ。くどくどと相方を一方的に責めた後、低俗な暴言を吐き口喧嘩に持ち込もうとしていた。
まるで、自分が悪いから解散になったと言わんばかりに、相方のピンで頑張ると言った解散の理由など、はじめからなかったかのように消してしまおうとしているようだった。
『お前となんか、もう一緒に居たくないんじゃ。出てけっ。』
これは、深夜番組の中のドッキリなのかと思うほど緊迫した空気が流れていた。切り出した相方もここまでとは思わなかったのだろう。カメラの存在なんて半ば忘れて、たじろいでしまい動けずにいた。
『なにやってんだよ。早く、出てけって言ってんだろ。』
言葉に強さが増す。相方の方がドッキリにかかっているような雰囲気さえ醸し出していた。その異様な空気感に目が離せなくなる。
なかなか出ていかない相方にしびれを切らしたのか、実力行使にでようと腕をつかみドアの方まで連れて行く。二人の身長差はかなり大きいはずで、いま手を掴んでいる方が、捕まえられている方よりはるかに小さいはずなのに、画面の中では逆転しているように見えた。
『わかったよっ、出てくから……。』
その手を振り払い、逃げるように楽屋を後にした。それを見送り、出て行ったドアがしっかりと音を立てて閉まるのを確認した瞬間に、急にその場に泣き崩れたのだ。
『やだ、やだ、やだ……。』
さっきまでの態度はどこへ行ってしまったのだろう。急に弱々しくなって、床に座り込む姿は先ほどとは大違いで、悲しみがどんどん溢れてくる。
まるで、自分を見ているようだった。目の前の大好きな人に、自分の本心を伝えるのが怖くて仕方がないのだ。ここで、嫌と言ってしまえば、もっと嫌われてしまうのではないのかとか、そんな負の感情ばかりが先行してしまい、自分の気持ちを表すことに躊躇してしまうのだ。
でも、結末は一緒じゃない。この人には相方がいるのだ。これは、番組の企画で相方が仕方なく引き受けたことだ。番組が終わってしまえば自然と元に戻り、その手は離されることはないのだ。ほら、今だってドッキリの種明かしをしながら二人で抱き合いながらないてる。
「なんで、結末まで見ちゃったんだろ。むなしいだけじゃん。」
そう一言呟くと、リモコンの電源ボタンを押す。消化しきれない思いばかりが心の中のをどんどん締めつけていく。でも、ここから出るしかないのだ。
靴の紐をぎゅっと締めあげる。祖父母を起こしてしまわないように、小さな声で『いってきます。』を残し、そっとドアを開け闇夜の中に一歩踏み出した。
作品名:天気予報はあたらない 作家名:雨来堂