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天気予報はあたらない

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 「でも、一番最低なのは、普通じゃなかった自分自身で、ゲイな自分なんだよ。あんなに嫌われても男好きな自分に蓋をしてやめることができなかった。大切な人にあんな悲しい顔させちゃった、っていう後悔ばっか。それから自分が嫌いすぎてさ、学校行かんようになって、夜眠れんようになって、ついに自殺未遂しちゃって。」

 再び衝撃が走る。さっき、そんな奴の目の前で死にたいと連呼してしまった自分が殺したいくらい憎い。気持ちに簡単に蓋ができると思ってしまっていた自分が憎い。

 「それで、地元にいられんようになって、ばあちゃん家に世話になることになって今に至るんよ。どう、聞いてみて。」

 一気に話していたかと思えば、急に話を振られて動揺してしまう。こういう時、俊二ならきっと上手にやれるだろう。それに対して、俺の情けないことといったら腹が立つほど、何もできず言葉すら浮かばない。

 「なんで、言っちゃったんだろう。こんなこと。俺はただ、ケーちゃんが泣いてた理由聞いて、二人の仲がうまくいくよう応援しようと思ってたんだけどなぁ。」

 質問に答えないでいると、再び悟志が話し出す。その言葉を聞いた瞬間に、拙くてもいいから何か言わなくてはと思った。

 「俺は、変わらないよ。」

 一言出てしまえば、あとは自然と言葉が続いていく。

 「俺は、悟志が普通じゃなくても、変わらないよ。俺のために泣いてくれる、そんなやつだから。だから、言ってくれて、ありがとうって思う。」
 「無理しなくていいよ。」

 帰ってきた答えは、予想外に冷たいものだった。

 「どうせ、俺がいなくなったら気持ち悪いと思うって。」
 「なんで、そう思うんだよ。」
 「経験。」

 その一言がひどく重い。

 「俺は、違う。」

 自分に言い聞かせるようだった。

 「違わないよ。」
 「違う。」
 「違わない。」

 議論は平行線をたどっていた。俺の話を聞いてもらうはずが、いつの間にか二人の間に亀裂がはいってしまいそうだった。

 「だいだいさ、恵まれすぎだよ、お前も俊二も。相手が自分に好意を持ってるって分かってるて言うことことがどんなに重要かわかっていない。」

 「悟志。」
 「俺は、一生報われない。俺の事を好きな人なんて、どこにもいないのだから。」

 なんて、悲しいのだろう。目の前で涙を浮かべながら話す姿は、すぐにでも消えてしまいそうなくらい儚げで、そんな風にしてしまっている自分がとても嫌な奴に見える。自分の気持ちに蓋をするどころか、さらけ出したとしても、そのことで自分を傷つける人を初めて見た。

 「だからこそ、俺は、お互いがお互いの事を思いあっているというのなら、それを伝えるべきだし、結ばれるほうが幸せだと思ってる。だから、やめない。俺はお互いが確実に嫌いあっているとわかるまで、このお節介はやめない。たとえ、俺の事嫌いになっても。」
 「嫌いになんてならないよ。」

 精一杯の気持ちをこめて、一言放つ。言葉の一つ一つが悟志自身に刺さっていくのが分かる。

 「嘘だ。」

 また、否定される。

 「嘘じゃない。お前のおかげで、ちゃんと分かったんだよ。」

 伝えたいことを我慢するのをやめた。これを伝えたところで相手の気持ちは変わらないかも知れないと分かっていながら、自分の気持ちを曲げるのをやめた。

 「俺、俊二の事が大好きだって、ちゃんと正面から言うよ。伝えることができること、それが、いかに大切でかけがえのないことかってことが、やっとわかったんだよ。」

 一呼吸置く。

 「だから、もう逃げるのやめようと思う。」
 「分かれば、いいんだよ。」

 その言葉を言ったと思ったら、悟志が急に立ち上がる。

 「じゃ、俺、帰るわ。」
 「まだ、話終わってない。」

 まだ、伝えたいことは残っている。

 「俺は、お前の事も大切なんだ。だから、これからも今まで通り一緒に居て。」

 精一杯を伝えたつもりだった。しかし振り返った悟志の瞳は、どこか遠くを見つめていて、諦めさえうかがえた。

 「はいはい、ありがと。お世辞でもうれしいよ。」
 「お世辞なんかじゃねぇ。」

 自然と語気が強まる。それでも、悟志の態度は変わらなかった。

 「わかってるよ。」
 「なにも、わかってない。」
 「わかってるよ、今まで通りなんて、明らかに無理なことくらい。それでも、無理して言ってくれてんだろ。」

 自分が普通じゃない事をずっと自分を戒めてきたのだろう。ここまで頑なにゲイである自分を受け入れて欲しくないよう、自分を傷つけてまでする否定する姿はいままでの経験から得てきた処世術なのであろう。そうまでしなければいけない現実も酷だと思うが、自分は受け入れさせない癖に、他人の恋愛に口を出そうとするその矛盾に腹が立つ。

 「無理してない。」

 怒りにまかせて、立ち上がり悟志の肩をつかむ。それを振り払うように悪態をつくように蔑んだ目でこちらをみる。

 「だったら証拠見せろよ。」

 できるわけない、という言葉のが裏に見えてそれだけでカッとしてしまう。

 「おう、分かった。後悔すんなよ。」

 吐き捨てるように言葉を放つ。普段の自分じゃないような感覚に襲われるが、ここはそうじゃないといけないような気がした。悟志を精一杯の力でベッドに押し倒す。そして、そのまま、勢いに任せて一つキスを落とす。

 「何すんだよっ。」

 力強く押し返される。

 「何って、証拠。」
 「これに、何の証拠があるって言うんだよ。」
 「キスって、友達以上じゃねぇとできないだろ。」
 「それが……。」

 この期に及んで悪態をつこうとする悟志だが、語気は先ほどよりはるかに弱くか細い。

 「それが、なんだって……。」
 「それくらい、俺はお前の事が大切だ。」

 悟志の目から涙が溢れる。

 「かなり友達思いで、一緒にいるだけで明るくて、極限まで空気が読めて、ゲイな悟志が、俺は大切なんだよ。」

 強く、強く言いきる。

 「怖いんだ。」

 悟志はもう涙でぐちゃぐちゃだった。高校生男子がこんなにも泣くことがあるだろうかってくらいに、ぐちゃぐちゃだった。

 「大切な人が離れていってしまう恐怖が、頭の中にはびこって、とれないんだよ。だから、これ以上、自分が傷つかないように先にカミングアウトして突っぱねて悪態付いて、仕方がなかったことにしようと思ったんだ。自分からそうなるように仕向けたみたいにして。」

 俺と一緒だ。他人の気持ちなんて最初からないがしろにして仕方がないと自分の気持ちばっかり無理やり変えてる。

 「最低だろ。全部他人のせいにして。」

 また自分ばかり傷つけようとする悟志を制するように言葉を紡ぐ。

 「最低じゃないよ。」
 「ケーちゃん。」
 「もう一度聞くわ。今度はちゃんと答えてよ。」

 しっかりと目を見つめる。

 「俺は、どんなことがあって悟志から離れないよ。だから、今まで通り一緒に居てくれますか。」
作品名:天気予報はあたらない 作家名:雨来堂