天気予報はあたらない
その言葉を確認すると、雨の中ダッシュでコンビニへと向かう。予想通り傘はかなりの売れ行きで、もうのこりわずかしか残っていなかった。安い傘を二本購入して店を出ようとすると、目の前の閉まった商店の軒先にいる人と目が合った。
「俊二……。」
そこにいたのは、俊二と、彼女だった。先ほど到着したのだろうか、二人の着ているものはひどく濡れていて、やっと二人の入れる軒先を発見したように見えた。こんなに雨が降っているというのに、二人は楽しそうで、むしろこれがサプライズだと楽しんでいる風がひどく腹が立つ。同時に、切ない気持ちがどんどんこみあげてくる。
――あーあ、やっちゃった。
こうならないように、自分の気持ちをごまかしていたのにさ。どんなに頑張ったって、俊二は振り返らないんだ。
「あ、ケータ。」
俊二はこちらに気づいたようで、手を振ってくる。先に気付いたのはこちらだし、無視するのもおかしかったので、それに対してぎこちない笑顔で近づいていく。悲しみを隠しながら。
「ケータも結局来てたんだ。」
「うん。」
その手を離せよ。彼女と繋いでいる、その大きな手を。見せつけないでくれ、現実を。
「急に雨降ってきちゃって、もう、濡れちゃってさ。」
そこは、俺の届かない場所だと、さらに自覚ばかりが降り積もる。。
「天気予報で、言ってたじゃん。今日は雨だって。」
「そうだっけか。」
昔からそうだ、俊二は天気予報はあまり見ない。晴れると思ったら、最後まで晴れると信じて行動する奴だ。雨という予報がでたら諦めて雨用の行動を組み立てる自分とは大違い。
「やる。」
傘を一本さしだす。悲しみをこれ以上溢れさせないように、そっと。その繋いだ手を離して、聞き手で受け取ってくれると信じて。
「お、ありがと。明日返すわ。」
「いいよ、別に。ただのビニール傘だし。いらない。」
繋いだ手は離さなかった。
「じゃ、友達が待ってるからいくわ。」
やっぱり、実際目にしてしまうと辛い。いくら自分の気持ちに正直になれど、そこに、自分が入ることは一生ないのだと、気付かされる。交番が目に入ると涙を隠すようにわざと傘を閉じて雨にぬれて帰る。
「ケーちゃん、おかえり。由香たち、もう駅いるって……。」
陽子の話を遮るように、言葉を発する。
「ごめん、用事できたから、これ使って駅まで帰って。」
押しつけるようにして、陽子に傘を渡す。うつむいたまま、そっと。
「ケーちゃんは……。」
「俺、家近いし、走って帰れるから。」
「そんな……。」
なんとかしてひきとめようとする陽子の制止を払って踵を返す。
「じゃ、また学校で。隆也みたく風邪引くなよ。」
一方的に話を聞かないようにして交番を飛び出す。駅に向かう人の群れに逆らうように大粒の雨に濡れながら、ゆっくりと歩き続ける。
天気予報は、やっぱり当たるんだよ。
晴れと言ったら、晴れ。雨といえば雨。未来が変わることなんて、ないんだ。
「ばっかみたい。」
なにも変わらなかったや。
「ばっかみたい。」
こんな惨めな自分を消してしまいたい。雨粒が水流となって吸い込まれていくように、排水溝の中に跡形もなく自分も一緒に消えてしまいたい。
ほら、だって、涙も水じゃん。人間も八割は水だって言うし。
なのに、なぜ人間は簡単に消えることができないのでしょうか。
「死にたいよ。」
雨音にかき消されてしまうくらい小さく呟いた。
作品名:天気予報はあたらない 作家名:雨来堂